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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第四章:死闘オルドフェルム
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第1話:幸福な牢獄

 ──柔らかい。

 けれど、落ち着かない。


 枕は羽毛が詰め込まれ、シーツは肌を吸い込むほど滑らかだ。

 でも……空気が違う。


 静かすぎる。鳥の声も、風の音も、何ひとつ聞こえない。

 奴隷の……呻きさえも。

 

 部屋を囲む壁は厚く、窓一つない。照明の光源がなければ、この部屋は闇に包まれたまま。

 せっかくの豪華な飾り付けも……なんの意味もない。

 




 ガリさんの好意で泊まらせてもらったこの部屋で、ぼくは妙な不安感に襲われていた。


 最初は慣れていないからだと思った。

 でも、この不安感はちがう。




 

 思い返すのは、プリ姉と笑い合った昨日の出来事。

 ぼくが生きてきた人生の中で、一番笑ったのが昨日だと思う。



 ──あまりにも幸せすぎた。

 幸せすぎて、時が止まればいいとさえ思った。


 元々、戦いが好きなわけじゃない。


 もし、プリ姉と笑い合える暮らしが目の前にあるとしたら……ぼくは、死地に赴く事ができるだろうか?





『ミレイアの事は諦めて、戦いを放棄してしまおう』





 ──そんな考えが、ぼくの脳裏を過ぎる。


 ありえない考えだ。




「……邪魔しないで」



 これは、ぼくの考えじゃない。そう言い聞かせるように、ぼくはボソリと呟いた。


 でも、その『考え』が少しずつ大きくなってくる。


 ぼくを戦いから遠ざけようと、近づき、寄り添い、優しく、必死に……声をかけ続ける。



 ぼくは耳を塞いだ。



 諦めることなんてできない。

 ぼくが生き返ったのは、ミレイアを助けるためなのだから。









『お願い……お兄ちゃんッ。私のことは忘れて、プリメッタお姉ちゃんと一緒に──』




 聞いてられない。

 ぼくは、堪らず走り出した。


 ぼくを惑わす幻聴を、呪火で焼き払いながら……何も見えない闇の中を、一人駆けていった────





 ☆   ☆   ☆





「おっはよ〜! ドレーくん!」


「──うッ……ッ……」



 元気な声と共に灯された優しい光で、ぼくは目を覚ました。


 ……ひどい汗だ。それに、身体が冷えきってるのか上手く動かない。



「ドレーくん、どうしたの?」



 プリ姉が、心配そうな顔でぼくを覗き込んでくる。なんでもない事を伝えようと、ぼくはできる限りの笑顔で平静を装った。



「はは、ちょっと怖い夢を見て……でも大丈夫だよ」


「あらら。まぁ、この数日で色々あったからね。とりあえずお風呂に入ってきなよぉ。こんなこともあろうかと沸かしておいたんだ!」



 なんて凄い先読みなんだろう。プリ姉にチェスで勝てたのは奇跡なんじゃないだろうか。

 

 プリ姉にお礼を言って、ぼくはその言葉に甘えることにした──。



 ☆



 湯に浸かりながら、ぼくは昨日と全く違う感情に落胆していた。


 3日に一度の水浴びが基本だった。昨日は、数年ぶりのお湯に肌も感情も驚いていた。


 でも今は、昨日ほどの感動はない。たった1日で、ぼくは贅沢に慣れてしまったのだろうか。





 不安と共に罪悪感が込み上げてくる。


 ミレイアが死んでしまったのに……ぼくのせいで死んでしまったのに……ぼくだけがこんな贅沢をして、笑っていていいのだろうか、と。



 ──こんな考えは、昨日のプリ姉との一時を穢す考えだってことは分かってる。


 だからこそ嫌になる。

 うじうじと考えてしまう自分が……。



 戦わないといけないのに……幸せを感じている自分が嫌になる。


『戦い』を捨てて『平穏』に逃げる。そんな選択をしてしまうかもしれない自分が、本当に怖かった────。






「おーい、ドレーくん。入るよー!」

「……えッ!?」



 突如扉の向こうからかけられた声に、半ば放心気味だったぼくは慌てて下を隠した。


 すぐさま扉を開けて入ってきたのは、三角巾とエプロンを身に付け、髪をポニーテールにしたプリ姉だった。



「プリ姉ッ。ど、どうしたの?」

「それはこっちのセリフだよぉ。なに悩んでるのさぁ」


「え……?」





 今のぼくは、きっとマヌケな顔をしていることだろう。

 でもプリ姉は……そんなぼくを包み込むように、元気で、暖かくて、明るくて──





「さ、お姉さんに話してごらん!」



 ──まるで太陽のような満面の笑みが、そこにはあった。

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