ジャーナリスト育成録【中編】
『ドレイク育成計画』始動。
プリメッタが積み上げられた雑誌の一つを手に取り、パラパラと捲っていく。その表情は明るく、かなり楽しんでいる様子が見て取れる。
「これこれ! 見てドレーくん!」
「えーと……」
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『乙女心・理解度チェック』
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監修:エルキオン公立女学院・恋愛部
「……なにこれ」
「質問するから、ドレーくんは思うままに答えてね。それでドレーくんの乙女心・理解度が判定されるよぉ!」
「う、うん」
「くっふっふ。それじゃあ早速──」
Q1. 女の子が髪を整えてるのを見たら、どうする?
A. 知らない
B. 褒める
C. 手伝う
「さぁ、どーれだ!」
「うーん」
簡単な三択問題。
ちなみに、この問題に正解は存在しない。
女学院生徒の選んだ答えの割合が載っているだけで、あとは質問者の好みで正解が左右される代物だった。
(Aを選ぶやつはいないよね。アタイならB……いや、Cでもいいか)
自分ならどれが嬉しいか……自然と自分に重ねて答えを考えるプリメッタだったが──
「ねぇ、プリ姉」
「ん、決まった?」
「プリ姉はさ、髪型を変えることってあるの?」
「えーと、そうだね〜。料理の時とかは結んでポニーテールにしたりするよぉ」
「そうなんだ。プリ姉がポニーテールにしたらすごく可愛いだろうね」
「そ、そうかな?」
「もちろん、今のままでも可愛いけどね。じゃあ答えはBになるのかな……いや、料理の時に変えるなら手伝う可能性も。プリ姉、ぼくが料理を手伝ったら邪魔になっちゃうかな?」
「そ、そんなことないよぉ。一緒にやると楽しいと思うよぉ……」
「良かった! じゃあ、答えはBからのCで!」
「……答えは一つだけだよぉ」
「あ、そっか。じゃあ、最初のBにしとこうかな」
何かがおかしい。
そんな違和感を感じながら、プリメッタはドレイクの答えを記入していく。
そして、五つ目の質問をした時だった。
Q5. デート中に突然雨が降ったら?
A. 傘を差し出す
B. 「君となら濡れてもいい」と言う
C. 魔法で何とかする
(女学院は圧倒的にBが多いね。頭お花畑か? アタイは断然Cなんだけどなぁ。その方が面白くて記事になるし)
破天荒なプリメッタにとって、Cが最適な答えと言えるだろう。かくしてドレイクの答えは──
「難しいなぁ。傘なんて持ってないし、だからってプリ姉を濡れさせるわけにも……ぼくのレガリアで、雨雲を吹き飛ばすことってできるかな?」
(……っていうか)
「そうだ! ぼくのレガリアで傘を作ればいいんだ! 骨鎖も結構伸びるし、プリ姉くらいなら覆えるよ。共鳴魔法の延長みたいなものだし、答えはCで!」
答えはC。
ここまで全て、プリメッタの望む答えではあった。
だが──
(なんでッ……『アタイ』を対象にして答えてるんだよぉぉ!?)
プリメッタ以外に親しい女性がいないドレイクでは、そうなるのも仕方がないことだ。
だが、架空の女性を相手にして答えると思っていたプリメッタにとって、この純粋ゆえの所業は、乙女心を刺激するに十分な破壊力だった。
しかも正答率100%。
「どうかなプリ姉? 今のところ理解できてる?」
「ふぇ!? ま……まぁまぁじゃないかな?」
「ほんとに? よかったぁ」
心底安心したように微笑むドレイク。顔が熱くなるのを感じたプリメッタは、咄嗟に顔を雑誌で覆い隠すのであった。
(ぐッ……こ、こやつ。天性の女たらしか!? 平然としやがってえぇ)
不公平を感じ、ドレイクを雑誌越しに睨めつける。そして、次の質問に目を落とすと──
Q6. どこから攻める?
A. 首
B. 胸
C. 太腿
「なッ……なんじゃこりゃあ!?」
「うわッ!? なになに、どうしたのッ!?」
(攻める!? 戦いか! いや、でもこれは……うぅ、こんなの聞いちゃったら……)
「だ、大丈夫? どうしたのプリ姉……」
心配そうに顔を覗き込むドレイクから、慌てて顔を背けるプリメッタ。だが、冷静なドレイクの気遣いが、プリメッタのジャナ魂(ジャーナリスト魂)に火をつけた。
「あ、アタイはエルキオン公国のジャーナリスト、プリメッタ・チャフ! 一度掴んだ情報はッ……内臓ごと引きずり出してやるんだよぉ!!」
「内臓!?」
「はい! ドレーくん! 次の質問ッ!」
声には出さず、雑誌をドレイクの眼前へと突き付ける。問題を目にしたドレイクの眉間に、徐々にシワが寄っていく。
(攻める……戦いかな? 三箇所とも急所だ。そんな……プリ姉を攻撃するなんて……)
できるはずがない。
だが、プリメッタは真剣に自分の答えを待っている。
答えを導き出すことができず、ドレイクはただ唸りながら頭を捻った。
(悩んでるッ。めちゃくちゃ悩んでるよぉ!)
プリメッタの顔が、さらに赤みを増していく。
そんな事とは露知らず、ドレイクはどこが一番痛くないかを真剣に考えていた。
「首は流石に……でも胸も……やっぱり太ももかな……いや──」
「このスケベ! いつまで悩んでるんじゃい!」
「スケベ!?」
もう猶予はない。
だが、答えが出るはずもなく、焦るドレイクは唇を震わせた。
「ぼ、ぼくの答えは──」
「……ッ」
意を決したドレイクが口を開く。
まるで、時の流れが遅くなってしまったかのように、全ての音が消え色を失っていく。
ただ一つ……心臓の鼓動音だけが、存在を誇張するように早鐘と化していた。
ドレイクの口が、答えを紡ぐために形を変えていく。
そして──
「もういいッ、時間切れ! ドレーくんは全然ダメ! 失格だよぉ!!」
「えぇ!? さっきはまぁまぁだって……」
プレッシャーに負けたのはプリメッタだった。
ジャーナリストの信念を曲げてまで、答えを聞くのを恐れてしまったのだ。
「さっきはさっき! こういうのは夫婦になってからなの!」
「……?」
「ぐぬぬ。よくもアタイのジャナプラ(ジャーナリストとしてのプライド)に傷を付けてくれたね! ドレーくん! こいつで勝負だ!」
(ぼく、なにかしたっけ?)
机の上に、持ち込まれた書物に紛れ込んでいた遊戯盤が置かれる。
大衆から貴族にまで愛される戦略ゲーム──【チェス】だ。
「くっふっふ。これで、ドレーくんの武人としての素質を試してやるよぉ! さぁ、尋常に勝負!!」
「まだ続くの?」
かくして、ドレイクとプリメッタの真剣勝負が幕を上げたのであった。




