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ジャーナリスト育成録【前編】

「だ〜れだ?」



 アッシュゲートに設けられた貴族専用の一室に、可愛らしい声が響き渡る。


 部屋で寛ぐドレイクとプリメッタ。


 一旦席を離れたプリメッタが、戻ってくるなり背後からドレイクの両目を覆い隠したところだった。



「プリ姉」



 至極当然の答えだった。


 この部屋には二人しかおらず、こんなことをするのはプリメッタだけ。

 なんの疑念も抱いていないドレイクの答え……だが、プリメッタから反応はない。



「だ〜れだ?」


「プリ姉でしょ?」



 繰り返される問答。

 しかし、再びプリメッタからの反応はない。



「だ〜れだッ」



 少し強まった語気に、ドレイクの中で疑念が生じ始めていた。


 両瞼に触れる可愛らしい手。

 元気さの中に優しさを含んだ声。

 妹にも似た癒しの気配──


 間違いなくプリメッタのはずだ。


 

 だが、自分の答えに反応は無い。


 間違っているのだろうか?

 プリメッタじゃないとしたら一体誰が何のために?


 もしかして……自分は試されているのだろうか、と。



(プリ姉じゃないの? 声真似? もしかしてミルタンさん……なわけないか。結構なお年だし、手がこんなにスベスベで柔らかいわけが……ってことは──!?)



 全てが繋がった。


 結論に至ったドレイクは満足気に頷き、その答えを口にした。


 



「ガリさん」


「誰が小太り公爵じゃい! アタイだよ、アタイッ!!」



 痺れを切らして姿を現したのは、目を吊り上げた小動物の如きプリメッタだった。



「……やっぱりプリ姉じゃないか」


「んなこたぁ分かってんだよぉ! ガリ公がこんなことしたら気持ち悪いでしょーが!」



「い、いや……神託者として、ぼくを試してるのかと」


「どんな神託じゃい! ……って、神託者?」



 ひとしきりツッコミを済ませ、冷静になったプリメッタは首を傾げた。



「神様は、加護とかの権能以外で現世に干渉できないから、一柱につき一人代行者がいるんでしょ? ガリさんがその神託者じゃないのかな?」


「うーん、どうなんだろう。確かに切れ者だし、神託者としての素質はありそうだけど……そこまで強そうには見えないんだよねぇ」



「神託者って強いんだ?」


「そりゃあ強いでしょ。特にタイちゃんなんて『戦の神』なんて呼ばれてるんだよぉ。その神託者ともなれば、武に長けた人間ってのは想像に難くないでしょ?」



 このプリメッタの説明に、ドレイクはなるほどと頷いた。素直に話を聞いてくれるドレイクに気を良くしたプリメッタだったが──



「って、そんなことはどーでもいーの! それよりもさっきの体たらくのことだよぉ!」


「結構重要な話だと思うんだけど……」



「まったくドレーくんは! 乙女心というものがまるで分かってないんだから。ああいう時は、もっと駆け引きを楽しむものなんだよぉ」


「えーと、どうすれば正解だったの?」



 困惑するドレイクに対し、プリメッタはニヤリとした笑いを浮かべながら席に着き、嬉しそうに説明を始めるのであった。



「くっふっふ。そりゃあ色々あるけど、やっぱり無難なのは分からないフリをすることかな! 『え〜、誰だろ〜?』→『くふふ、アタイだよぉ』── これが王道ってやつだね!」

 

「はァ〜」



 感心したように息を吐くドレイクを見て、プリメッタは何かを決意しおもむろに立ち上がる。


 ドアノブに手をかけたところで勢いよく振り向き、こう宣言した。





「ドレー君に乙女心が何たるかを教えてあげる! 資料持ってくるから待っててね!!」


「え、あ……うん。いってらっしゃい」



 ガチャ、パタン──



 <ミルチャン! ミルチュワァアーン!!

 <オヨビデスカ、プリメッタサマ



 扉の向こうで、ミルタンに何か頼み事をしているようだ。

 しばらくしてから再び扉の開閉音が響き、静かになった部屋でプリメッタを待ち続けるドレイクであった──。



 ☆



 ──数十分後



「ドレーく〜ん。開けて〜!」



 賑やかな声が舞い戻ってきた。


 ドレイクは待ちわびたかのように立ち上がり、軽く咳払いをした。そして──





「え〜、誰だろ〜?」


「なにとぼけとんじゃい! 両手が塞がってるんだよぉ!」



「ご、ごめんッ……!!」



 慌てて扉を開くと、そこには視界を塞ぐ程の書物を抱えたプリメッタが立っていた。

 膨らました頬を染め、ぷるぷると小刻みに震えている。


 だが、それは決して怒りではなかった。



「た、タイミングを考えてよぉ、ドレーくん……くふッ。誰だろ〜って、そんな……しかもすぐ素に戻るしッ……くふッ……」



 どうやらプリメッタのお笑いセンサーに直撃していたようで、力が抜けて書物を落とさぬよう、必死に笑いを堪えている。



「い、今かと思って……あ、ぼくが持つよ!」


 

 プリメッタから書物を手早く受け取り、軽々とテーブルの上に移動させる。

 先程までの、オドオドとした少年とは思えない力強い動きだった。


 手ぶらになったプリメッタは、手を抱えたままの姿でキョトンとしている。



「……そーゆーとこは男らしいんだから」


「え?」



「なんでもない! さぁ、ドレーくん! これを見よ!!」



 プリメッタが持ち込んだ書物の数々──


 何かの辞典から、男女の絵が書かれた雑誌風のものまで、書物に紛れて遊戯盤まで取り揃えられていた。



「どうしたの、これ?」


「ミルちゃんに頼んで、屋敷から本とかゲームを持ってきてもらったんだよぉ。情報に閉ざされてると思ったけど、裏ルートで色々入ってきてるみたいだね。エルキオンの雑誌もあるよ!」



「へ〜」



 数々の書物と遊戯盤に、ドレイクは少年らしく目を輝かせている。そして、どこか満足気なプリメッタは、勢いよく書物に手を置き宣言した。



「今からこの本を使って、ドレーくんの乙女心・理解度をテストするよぉ! 」


「テスト!?」



 


 破天荒な乙女が理想とする男を目指して──


『ドレイク育成計画』……いざ始動ッ。

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