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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第三章:皇帝と奴隷
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第10話:嫉妬の皇帝【前編】

 ガリさんの話を聞き終わり、ぼくの目指す道とガリさんの目指す道が同じなのだと認識できた。



 このままではライザールとの戦争が始まってしまう。

 プリ姉が言うには、帝国が勝つ確率はゼロ……絶対に起こしてはいけない戦いなんだ。



「クラウリーはライザール侵攻の軍備を進めつつあります。いずれにせよ、この国難に対処出来るのは玉璽保持者(レガリアホルダー)であるドレイク殿だけなのです」





 正直言って……不安だ。


 恐らく、クラウリー皇帝は玉璽保持者だ。

 そして、ライザールには更に多くの玉璽保持者がいる。


 ぼくと違って、彼らは歴戦の戦士だ。そんな彼らと、ぼくが渡り合うことができるだろうか……。





「返事は後日で結構です。プリメッタ嬢と相談したいこともあるでしょうからな。今日はこの部屋でゆっくりと休んでください。ミルタン、あとは頼みましたよ」


「かしこまりました」



 ぼくの心中を察したのか、ガリさんは早々に部屋を出ていってしまった。きっと、気を使ってくれたんだと思う。



「紅茶を淹れて参ります」



 扉が静かに閉まる音がし、部屋に残ったのはぼくとプリ姉だけとなった。

 


 

「プリ姉はさ、クラウリー皇帝のこと知ってるの?」


「有名な魔導具技師だからね~。ガスゴールの再来だなんて言われたこともあったけど、ガスゴール以上かって聞かれると、どうなんだろう……」



 クラウリー皇帝は、ガスゴールに嫉妬している。きっと、いつも比べられてきたんだろう。


 優秀だからこそ、優秀な人間と比べられる。その重圧は、きっと他人じゃ推し量れない。



「クラウリー皇帝……どんな人なんだろう」



 ぼくが皇帝を目指すからには、クラウリー皇帝との戦いは避けられない。


 でも……それでも、一度は話してみたい。

 

 もしかしたら、話し合いで戦争を止められるかもしれない。

 クラウリー皇帝が帝位にすら執着がないと言うなら、事情を話せば、ぼくが皇帝になるのに協力してくれるかもしれない。

 





 ──そんな、甘い考えは通用しない相手がこの世にはいる。


 一度殺されて、ミレイアを失っていながらもまだ……ぼくは、そのことを分かっていなかったんだ。





 ★    ★    ★





 多くの属国を保有するロヴァニア帝国。戦いの国と呼ばれる所以、その力の象徴として君臨する皇帝が座する『帝都オルデア』。


 奴隷戦士が戦うオルドフェルムを語源とするこの帝都に、異端の皇帝クラウリーはいた。



 帝都の中心にそびえ立つ荘厳な城の一区画は、クラウリーのラボとして機能している。


 決して途切れることの無い駆動音。この場に立ち入れるのは皇帝と側近……そして奴隷のみ。



 そこで何が行われているのか、知る者はいない。


 時折聞こえてくるクラウリーの引き攣った笑いに恐れをなし、近寄ろうとする者は皆無だった。



 そして今日もまた、クラウリーの不気味な笑い声がラボにこだましていた──。





 ★





「やあやあ、よく来てくれたね。えーと、君は奴隷戦士の……なんと言ったかな?」



 深紅の皇帝衣の上から、無造作に羽織られた純白の白衣。その裾はわずかに焦げ、まるで狂気に取り憑かれた学者の装いだ。


 年の頃は四十半ばほどだろうか。

 肌は青白く、長き時を研究に費やしてきた証明のようにも見える。だがその眼光には冷たい輝きが宿っており、彼の理性と狂気の均衡を象徴しているようだった。


 髪は灰銀色。手櫛で撫でつけただけの乱れ髪が、光を受けて白金のように艶めく。

 無精髭ひとつない顎の線は鋭く、笑えばどこか優雅にさえ見えるが、その笑みに暖かさは感じられない。



 この男こそがロヴァニア帝国皇帝──クラウリー・べゲットだった。





「ベシュパール地方の奴隷戦士、ガルドですヨ。陛下」



 クラウリーの問に答えたのは、侍女服に身を包んだ女性だった。

 月光を思わせる白い肌。その姿には、女の艶やかさに伴い完成された造形美が宿っている。

 

 銀糸のような髪、淡い水色の瞳。瞳孔の奥には微かに六角結晶が浮かぶ。





「ありがとう、グラディア君。そうか、ガルド君か。ガルド君ねぇ……」



 グラディアの言葉に頷きながら、クラウリーは奴隷戦士ガルドの顔をまじまじと眺めている。


 ガルドに拘束は施されていない。だが、恐怖で彩られたその感情は、侍女のグラディアへと向けられていた。

 カタカタと震えながらも、ガルドには逃げ出す素振りすら感じられない。



「うーん。ガルドって感じじゃないんだよねぇ、君。そうだ、今日から君は『アクエリア』だ。改名したまえ」


「は、あ……え?」



 突然の改名に困惑するガルド改めアクエリア。当の本人の困惑など意に介さず、クラウリーは満足そうに何度も頷いている。



「私の祖国エルキオンでは、言葉には力が宿ると考えられている。それは迷信でもなんでもなく、純然たる事実なのだ。私が君の親なら、ガルドなどという名前は絶対に付けない。喜びたまえアクエリア君。君は、新たな力を宿したのだよ!」


「は、はぁ……」



「陛下。アクエリアは女性寄りの名前じゃねーノ?」

 

「なぁに、去勢すれば問題ないだろう? それと言葉遣いには気をつけたまえ、グラディア君」


「ひッ──」



 涼しげに言い放つクラウリーの言葉に、アクエリアはくぐもった悲鳴を漏らした。

 だがクラウリーは、そんなアクエリアの反応に気を良くしたのか、小刻みに肩を揺らすのであった。



「んッんッんッ。冗談だよ! さぁ、ウィットなジョークで場も和み、親交も深まった。私達は友と言っても差し支えないだろう。さてさて、友であるアクエリア君に素敵な提案があるのだが──」


「お、俺を……どうする気なんですか?」



 親しげに触れてくるクラウリーに、アクエリアは不気味さを覚え戦慄した。


 だが、クラウリー本人はあくまで紳士的に、そしてフレンドリーに事を進める。



「君はオルドフェルムで敗北し、既に鉄輪が四つ目だ。次に敗北すれば、回避戦へと送り込まれ十中八九死ぬことになる。そんな未来は嫌だろう?」


「そ、それは……」



「安心したまえアクエリア君! 私が、その悲惨な未来を変えてやろう! 君は生まれ変わるッ。この……錬金王クラウリーの手によってね!!」

 

「ぱちぱちぱち」



 グラディアの拍手が虚しくこだまする中、アクエリアは口を開けて首を傾げている。

 二人が作り出す空気に、まるでついて来れていない様子だ。


 

 戦士としては三流のアクエリア。このままでは、クラウリーの言う未来が待っている。


 魔導具技師として、皇帝として……そんな未来を変えてみせる。



 

 今まさに、『クラウリーの善意』という悪意に満ちた実験が始まろうとしていた──。

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