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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第三章:皇帝と奴隷
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第7話:腐敗の歴史【前編】

 ぼくたち兄妹に助け舟を出してくれて、モーガンという協力者を派遣してくれた。そして今、先見の明でぼくと手を組もうと提案している。


 もし、これが全てタイロス神の想定内なのだとしたら……やっぱり神託者はガリさんなんじゃないだろうか?





「船に乗せてもらうねぇ。その言い方だと、今のロヴァニアの体制が崩れるって確信してるみたいだけど?」


「今のロヴァニアは歪です。歪んだ物はいずれ壊れ、正されます。わたくしは、今がロヴァニアの転換期だと読んでいます」



「公爵様からしても、今のロヴァニアはおかしいって思うんだ?」


「わたくしだけではありません。ですが、歪だろうと恩恵があるならば、それを利用しようとするのが人の性。無論わたくしも、現在の体制にあやかった一人ですがね」



 ガリさんは悪びれる様子もなく、プリ姉の質問に笑みを浮かべている。


 今のロヴァニア帝国では、お金こそが力なんだ。だからこそ、ガリさんのように商人出の人が出世してもおかしくは無い。



「わたくしもロヴァニアに生きる男として、多少の武芸の心得はありますが、それでも昔の偉人たちとは比ぶるべくもありません。ドレイク殿、貴方はロヴァニア帝国の歴史をご存知ですかな?」


「歴史……ですか?」



 昔のロヴァニアは武人で溢れかえってたらしいけど、どうしてここまで衰退したのかは分からない。

 父が生きてた時点で、すでに武家は少数になってたからね。



「すみません、詳しくは知らないんです」


「無理もありません。かつての栄光を知り、蜂起する者が出てきても困るので、帝国内でも過去について話すことはタブーとなっていますからな。プリメッタ嬢、貴女は如何ですかな?」



「もちろん、アタイは全部知ってるよぉ」


「流石でございますな。では、ドレイク殿にロヴァニアが歪んだ経緯をお話しましょう。プリメッタ嬢、補足があればお願い致します」



 ミルタンさんがそれぞれに紅茶を入れてくれる。この紅茶にはプリ姉も満足のようだ。蜂蜜をたっぷり入れて、その甘さと香りを満喫している。





「今からおよそ100年前……ロヴァニア帝国は、タイロス神の加護を受けた戦士で構成されていました。その戦力は、他の大国の追随を許さぬほどに強大。まさに世界最強の軍隊でした」


「全ての大国と帝国が戦ったとしても、帝国が勝つって言われるほど強かったらしいよぉ」



 世界中の国と戦っても勝つなんて……それだけタイロス神の加護が強力だったってことなんだね。




「しかし、戦力が増強されれば労働力が減少します。女・子供でも素質があれば戦士でしたからな。そこで帝国は、それを補う労働力の開発に着手しました」


「もしかして、それがゴーレムですか?」



 僕の問いに、ガリさんがゆっくりと頷いた。



「労働力として開発されたゴーレムは、物資の運搬や農作業などで重宝されました。単純な作業においては、この上ない労働力となったのです。ですが……」


「ドレーくんは、ゴーレムが何で動いてるか知ってる?」



 ゴーレムの動力源ならぼくでも知っている。

 魔力を含有した鉱物……『魔石』だ。でも、魔力にも型があるから、全ての魔石がゴーレムに適合するわけじゃない。


 ある……()()()()()を除いては。





「万能の石・ルミタイト……だよね?」


「くっふっふ、半分正解だね。ルミタイトは魔力を使い切ると輝きを失う。でも、万能性は無くなるけど魔力の充填ができるんだよぉ」



 へぇ。ってことは、再利用されたルミタイトがゴーレムの動力源ってことなのか。



「魔力を充填すると、ルミタイトはその型に染まっちゃうから、ゴーレムの動力源としては不適合。でも、ある魔導具がそれを可能にしたんだよぉ」



 ぼくがルミタイトの抜け殻に魔力を込めても、それはぼくにしか使えない魔石が出来上がるだけ。

 

 ゴーレムを形成し動かすなら、それに適合した人に魔力を充填してもらわないといけない、ってことか。

 



 

「いやはや、そこまでご存知とは! あらゆる魔力に適合し、万能の石と呼ばれるルミタイト……しかし、帝国でルミタイトの採掘量はあまりにも少ない。そこで帝国は、ルミタイトを求めて他国への侵攻を開始したのです」



 今ぼくたちがいるこの土地も、元は別の国だった。ルミタイトが採れる国は、片っ端から帝国に狙われたらしい。



「拡大する領土、増強される戦力。そして求められる労働力と動力源。これらにより帝国はみるみる肥大していきました。そして運命の日……ある国に異変が起きたのです」


「ロヴァニアじゃなくて、別の国に異変が起きたんですか?」



 ガリさんは頷いた後に、静かに紅茶を口に含んだ。運命の日という言葉が指し示すように、まさにここからが核心なのだという空気を感じる。





「ライザール皇国……ロヴァニアと同じく、十二柱の神が守護する大国の一つです。このライザール皇国で【天変地異】が起きたのです」


「天変地異?」


「皇族はみんな死んじゃって、国民の半分以上が犠牲になったらしいよぉ。国のあらゆる場所に怪物が出現して、最終的に人口は三分の一以下になっちゃったんだって」



「そんな……なんでそんなことに?」


「天変地異の理由は分かっていません。プリメッタ嬢は何かご存知ですか?」


「なんでも、邪龍とかいう存在と戦ったのが原因らしいけど、本当の理由は分かってないね〜」





 邪龍……



 それがどんな存在なのかも分からないのに、胸がズキズキと痛むのは何故なんだろう。


 どうして……こんなにも悲しい気持ちになるんだろう。




「ドレーくん、どうしたの?」


「え……あ、ううん。なんでもないよ」



 プリ姉が心配して顔を覗き込んできた。

 今は、話の続きに集中するとしよう。





「ライザール皇国は、守護神である『魔械の神テクノス』の権能によって多くのルミタイトを保有していました。帝国は天変地異に乗じて、ライザール皇国へ攻め入ろうとしたのです」



 昔の事とはいえ、何とも居た堪れない気持ちになる。弱った相手を狙うのは、戦略としては常套手段なんだろうけど……。



「しかし、侵攻が開始されることはありませんでした。ライザール皇国から使者が訪れ、両国は不戦条約を結んだのです」


「え、戦争にならなかったんですか?」



 ただでさえ多くの人が死んでるんだ。戦いにならなくて本当によかった。


 でも、ホッとするぼくとは裏腹に、ガリさんの表情は暗いものだった。





「友好の証として、ライザールから一つの魔導具が献上されました。魔導具の名は【M・D(マテリアル・ドライブ)】……全ての物質を魔力へと変換する力を持つ、究極の魔導具です」



 初めて聞く言葉にぼくが首を傾げると、ガリさんが机を指でトントンと叩いた。



「例えばこの机……M・Dの力を使えば、この机すらもゴーレムの動力源となるのです」



 それが本当の話だとしたら、世界の魔石事情が一変してしまうほどの代物だ。

 そんなにすごいものを……ライザールは随分太っ腹なんだなぁ。

 


「M・Dを開発したのは【ガスゴール・バリストン】という、ライザールの魔導具技師です。使者もこのガスゴールが務めていたと記録されています」


「ガスゴールは、エルキオン公国史上最高の天才だなんて言われてるよぉ。ただし、その本性はただのヤベ〜女だから、会った時は気をつけてね!」



 女の人でエルキオン出身なんだ。ってことは、プリ姉と同郷ってことか。


 それにしても『気をつけて』って、100年前の話なのに、まるでまだ生きているかのような言い方だね。



「いやはや、今のプリメッタ嬢の言葉を先人に聞かせてあげたいものですなぁ」



 ガリさんはため息混じりに首を振っている。


 帝国民がガスゴールの本性とやらを知っていれば、歴史はまた変わっていたのだろうか。





「M・Dは、ゴーレムの動力源を求めるロヴァニア帝国にとって天上の……いや、禁断の果実だったのです。ここから帝国の堕落は始まりました」

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