第5話:ガリ公
「わたくしの名はガリノミア・レイス。この資源地帯一帯を治める公爵でございます。どうぞ、レイス公とでもお呼び下さい」
公爵って、この国で皇帝を除けば五本の指に入るくらいの権力者だよね?
そんな偉い人が、どうしてぼくたちに対してこんなに愛想良く……。
いかにも権力者って感じの身なりではあるけど、その表情は柔らかく声も優しい。そしてもちろん、敵意なんて微塵も感じない。
「くらぁ! ガリ公!! こんな料理食わせといてどういう了見じゃい!」
「ガリ公!?」
あわわ! 料理の不味さにプリ姉が激おこだ!レイス公爵も目をまん丸にして驚いている。
それにしても、ぷりぷり怒ってるプリ姉も可愛いね。なんか、リスが必死に訴えてる感じがするというか……そもそも本当に怒ってるのかな? プリ姉からは全然怒りという敵意を感じない。
これもプリ姉が言うところの冗談なのかなぁ……って、それどころじゃなかった!
「ぷ、プリ姉。あの人、すごく偉い人なんだよッ」
「それくらい知ってるよぉ。この国の中心人物は全部調査済みだからね。そんな人がアタイらに接触してきた……どういうことか分かるでしょ?」
え、全然分かんないんだけど……。
プリ姉には何か確信めいたものがあるらしい。自信満々に言い放ったプリ姉を見て、ガリ公呼びに驚いていたレイス公爵も満面の笑みで手を広げた。
「ほっほっほ。ガリ公なんて呼び方をされたのは初めてですよ。いやいや、どうぞガリ公とお呼びください。そしてプリメッタ嬢は、わたくしが思っていた以上に聡明な御方のようですな」
「それより他に食べれるものない? お腹ぺこぺこなんだよぉ」
「おぉ、ロヴァニア料理はお口に合わなかったようですな。それならばデザートは如何ですかな? ミルタン」
「かしこまりました」
レイス公が目配せすると、ミルタンさんがすぐにデザートを運んで来てくれた。お皿の上には美しい金色のゼリーが盛り付けられている。
「ゴルディッシュゼリーの蜂蜜がけでございます」
配膳を終えたミルタンさんが、蜂蜜の入った瓶とスプーンを手にしている。追加でかけてくれるのかな?
どうするかプリ姉に聞こうと顔を見ると、プリ姉は眉を顰めてゼリーとにらめっこをしていた。
「……このゼリーの中に入ってるの、何の果実?」
「魚の塩漬けでございま──」
「ハチミツだけちょーだい」
「え?」
「ハチミツだけちょーだい。まさか、それも実はハチミツじゃないとか?」
「い、いえ。紛うことなき混ぜ物なし100%の蜂蜜でございます」
「よかった! じゃあいただきまーす!」
ミルタンさんから瓶を受け取ったプリ姉は、そのままスプーンで蜂蜜を頬張っていく。
「あーん! 美味しー! 料理人は全員クビにして、蜂さんを雇った方が料理も美味しくなるんじゃない?」
「そ、それはあんまりなお言葉!」
プリ姉の発言を受けて、ミルタンさんが目を潤ませてたじろいでいる。
なんていうか、殺伐とした雰囲気じゃなくて友人同士の馴れ合いみたいだ。
そんな二人の様子を、レイス公は嬉しそうに眺めている。
「あ、あの……なんかすいません」
「いやいや、寧ろわたくしは安心しているのですよ。ここでわたくしの地位におもねるようでは、同盟を結ぶ意味がありませんからな。まぁプリメッタ嬢は、その辺を分かった上でわたくしの腹を探っているようですが」
……えーと、プリ姉のあの態度はわざとってこと?
ヤバい。ぼくには何が何だか分からない。
それに──
「あの、同盟って……」
「おっと、先に用件を言ってしまいましたな。では改めまして──」
立ち上がったレイス公爵は、背筋を伸ばして毅然とした礼をする。そして顔だけを上げ、今までの柔和な顔からは想像もできないほど真面目な顔になり、全てを見通すような目でぼくを見つめ口を開いた。
「ドレイク殿。わたくしと手を結びませんか?」




