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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第三章:奴隷からの脱却
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第4話:虚飾の晩餐

 まるで夢のようだった。

 湿った檻の中で暮らしてきたぼくにとって、この空間は天国そのもので、目の前がぼやけてしまうほど現実味がなかった。


 

「では、浴場へ案内致します」

 

「いえーい! ドレーくん、一緒に入ろっか!」

「うん、そうだね。入ろう入ろう!」


 

 久しぶりのお風呂に、柄にもなくウキウキしてしまう。プリ姉の提案を快諾し、ミルタンさんに付いていこうとすると……


 

「なにすんなり入ろうとしとるんじゃい! そこは動揺するところでしょ!」

「え、プリ姉はぼくと入るのイヤなの?」



 奴隷になる前は、ミレイアとよく一緒に入っていた。

 頭を洗ってあげると、目を閉じながらニコニコと笑うミレイアが可愛くて……プリ姉もお世話になってるんだし、背中を流すくらいはするんだけどなぁ。



「い、イヤじゃないけどッ……そういうのは夫婦になってからなの!」

「ご、ごめん。だってプリ姉が一緒に入ろうって言うから……」


「冗談でしょ! ……ったく、なんでアタイが動揺しなきゃいけないんだよぉ」



 ぶつぶつと文句を言いながら、プリ姉はミルタンさんに案内されて浴場へと向かった。

 なんでプリ姉が怒ったのかはさておき、お風呂まで付いてるなんて……この部屋は一体なんなんだろう?



 ☆



 ──お風呂から戻ったプリ姉はバスローブに身を包み、紅潮した頬に満面の笑みを浮かべていた。修道服はミルタンさんが洗っておいてくれるらしい。


 プリ姉に促されて、ぼくも怖気つきながらもお風呂へと向かった。


 生き返った時に、以前の汚れは落ちていた。それでも、やっぱり戦いのあとは薄汚れてしまっている。

 ぼくは念入りに身体を洗って汚れを落とし、温かな湯に身体を沈めた。

 

 久しぶりのお湯に、肌がじんわりと痺れるようだった。でも、それが心地よくて……ぼくの口から、自然と大きなため息が溢れ出た。



「ドレイク様。お召し物はこちらを」



 ミルタンさんから渡されたのは、手触りの良い真っ白な服だった。

 奴隷戦士が着ているゴワゴワとした繊維質な服とは次元が違う。



 浴場を後にしてリビングへ戻ると、円卓の上には見たこともないご馳走が並べられていた。

 既にプリ姉は着席していて、ぼくが戻ってくるのを心待ちにしていたみたいだ。



「ドレーくん、これ食べてもいいんだって!」

「わぁ……すごいねこれッ」



 すごいとしか言いようがなかった。


 中心には金色に輝く鶏が丸々一羽。多分ローストチキンなんだろうけど、羽を模した野菜らしき飾り付けに銀色の爪まで施されている。

 三色の層で構成されたクリーム寄せ。かけられた銀色の粉が、照明に反射してキラキラと光っている。

 大きめの皿には煮込み料理が盛られている。ホロリと柔らかく煮込まれた様子が見て取れ、湯気と共に香草の香りが部屋中に充満する。


 その他にも色々と料理が用意されていて、ぼくら二人じゃとても食べきれない量だ。いや、プリ姉なら余裕かな?



「ドレイク様、お取りしましょうか?」

「え、えと……」



 ほ、ほんとに食べていいんですか?



「じゃあ……その鶏を……」

「かしこまりました。プリメッタ様もどうぞ」

「んむ。苦しゅうないぞ」



 ミルタンさんが手際よく鶏をナイフで捌き、その肉を純白の平皿に上品に盛り付けてくれる。


 金色の衣を纏った神々しい鶏肉に、ぼくの喉が自然と音を鳴らした。

 手に持ったフォークが、緊張のせいか震える。


 がっつきたい気持ちを抑え、その一片を口へと恐る恐る運んだ。



「……」



 思い出すのは、家族と共に囲んだ食卓だった。


 ずっと忘れていた……ロヴァニア料理の味だ。

 その懐かしき味に、ぼくの目から一雫の涙がこぼれ落ちた。


 そしてプリ姉も、感極まったのか目端に涙を滲ませている。


 そんなぼくらを見るミルタンさんも、無表情ながらそこはかとなく嬉しそうだ。





「プリ姉、美味しいね──」

「……不味いよぉ」



「「……えッ!?」」



 ぼくだけでなく、ミルタンさんも前のめりになって驚愕の声を上げた。

 額に汗を浮かべて明らかに動揺している。


 その気持ちも分かる。こんなに見事な料理を食べて、一体どうしたら不味いなんて意見が……。



「プリメッタ様……なにか不手際でも?」

「不味いんだよぉ。この料理がまずくてマズくて……鶏さんが可哀想なんだよぉ」


「そ、そんなッ!?」



 慌てたミルタンさんは、一欠片の肉を摘み上げ口に含んだ。細かく口を動かし、徹底的に原因を探ろうとしている。

 でも、原因が分からなかったのか困った表情でぼくを見ている。



「プリ姉、そんなに不味い?」

「不味いよぉ! 焼きすぎでパサパサ、変な香草の匂いばっかりで肉の風味も台無しだし、おまけにこれ金粉じゃん! パサパサの肉に金粉とか拷問だよぉ!」


 

「それは見た目にこだわった装飾でして──」

「まずは味でしょ! 余計なことしすぎぃ! うぇー、口が気持ち悪い……その羽に見立てた野菜ちょうだい」


 

「それはあくまで飾りでして、鉱物なので食べられません。ゴーレム生成技術を応用した見事な装飾でございましょう。まるで新鮮な野菜そのものの風合いを──」

「なめとんのかぃ!!」



 ぼくにもミルタンさんにも、プリ姉のダメ出しの原因が分からない。



 ぼくはこういった料理が普通だと思っていた。プリ姉曰く、これはただの虚飾料理……ハリボテご飯だという。

 

 もしかして……ロヴァニア人の味覚っておかしい?



「この三色のやつも、なにこれ……」

「三色豆のクリーム寄せでございます。上層が赤豆、中層が白豆、下層が緑豆を──」

 

「ぶぉえ! ボソボソと泥みたいで舌触りも最悪! 青臭い上に味も塩だけ……しかも、なんでこれに銀粉かけるんだよぉ!?」

 

「……()えますので」

「映えてどうすんじゃい!!」


「……ぷッ」



 二人のやり取りがあまりにも明るくて、愉快で……ぼくは手を動かすのを忘れて聞き入ってしまった。


 今朝も思った事だけど、プリ姉がいるだけで不味い食事も楽しくなる。


 ……いや、ぼくは不味いと思ってないんだけどね?





「──やぁやぁ、楽しんで頂けているかな?」



 食事を楽しむ(?)ぼくらの部屋に、優雅な衣装に身を包んだ小太りの男性が姿を現した。

 その男性を見て、ミルタンさんが姿勢を正して頭を下げる。



「ご主人様。お待ちしておりました」



 ご主人様?

 ってことは……この人がぼくらをこの部屋に呼んだ人なのだろうか。


 ご主人様と呼ばれた男性は紳士的な振る舞いで、ぼくらに向かって一礼した。




  

「わたくしの名はガリノミア・レイス。この資源地帯一帯を治める公爵でございます」

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