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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第三章:奴隷からの脱却
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第3話:別世界

 食事を済ませ、ぼくはプリ姉から色んな国の話を聞いていた。

 地下に引きこもっていたぼくにとって、プリ姉の話はとても楽しく、刺激的なものだった。


 悪い国もいれば良い国もいる。良い国では奴隷なんて存在せず、国民みんなが幸せに暮らしているらしい。


 プリ姉の観点から言えば、ロヴァニア帝国は悪い国だそうだ。

 ロヴァニア帝国は他国を侵略し、ゴーレムの実験場にしている。ぼくはこの国にずっといるから実感がないけど、他国の人からしたら悪以外の何者でもないよね……。


 もし……もしもぼくが皇帝になれたら、ロヴァニアを良い国にできるのだろうか。




 

「──でねでね、アタイはルジーちゃんに言ってやったんだよぉ。クリームコロッケを挟んだサンドウィッチって、全部麦じゃねぇか! ってね」

「あ〜、元は全部麦ってことなのかぁ。でも美味しそうだね」


 

「それが美味しいんだよぉ。同じ麦でも調理の仕方によって色々変わるんだね。黒パンみたいな凶器もできる位だし」

「ぼくは料理はさっぱりだからなぁ。そのサンドウィッチ、食べてみたいなぁ」


 

「くふふ。しょうがない子だね、ドレーくんは。ここから出たらアタイが作ってやろう!」

「ほんとにッ? ふふ、楽しみだなぁ」



 今は、プリ姉が行った国の料理の話を聞いているところだ。

 このアッシュゲートの料理に慣れたぼくにとって、どの料理の話を聞いても喉を鳴らしてしまう。


 今日の分の食事はすでに済ませてしまった。この調子だと、夜は空腹で悶えることになりそうだ。

 ……プリ姉が大丈夫か心配だなぁ。



 ──と、考えていた時だった。




 

「ドレイク」

「あ……はい」



 いつもと違う、少し服装が立派な衛兵さんが檻の前に立っていた。プリ姉の話に夢中で気づかなかったよ。



「回避戦の勝敗の結果が出た。特例ではあるが、お前の勝ちということになったそうだ」

「……そうですか」



 逃げ出した二人は貴族の息子だった。ぼくの負けにするか、あるいはうやむやにすると思っていたんだけど……。



「入るぞ。首の鉄輪は外しておく。それと……この革で目を隠せ。そっちの娘もだ」



 衛兵さんが鉄輪を外してくれている間に、ぼくとプリ姉は目を見合わせた。

 はっきり言って、目隠しをするなんて不安でしかない。


 でも、衛兵さんはぼくたちのそんな不安を見通してるかのように軽く笑みを浮かべた。



「安心しろ。これから移動するが、そこは秘匿性の高いエリアでな。情報が流出するのを防ぐための処置だ」

 


 ぼくの隣に、情報の発信を生業としている人がいるのですが……。プリ姉なら、目隠ししても普通にルートを覚えていそうだ。



「……くふふ」



 あ、悪い顔してる。やっぱり覚える気まんまんだね。


 それに引き換え、この衛兵さんから悪意は感じない。

 もしぼくらを害そうという気があるなら、絶対に分かるはずだ。


 ぼくはプリ姉にアイコンタクトをとり、言われた通り革で目を隠した────



 ☆



 視界を封じられたまま、ぼくたちは衛兵さんの誘導のもと結構な時間を歩かされた。


 何も見えないけど、肌に感じる空気が全く違う。

 ジメジメとした陰鬱な空気じゃなくて、爽やかで心地よい温度だ。


 衛兵さんに手で制され、ぼくたちは一度足を止めた。

 すぐに扉が開くような音がし、進むよう促されて再び歩き出す。


 そして──

 

 

「ここだ。目隠しをとっていいぞ」

「は、はい」



 革の目隠しを外し、ぼくたちの視界に再び光が満たされる。薄暗い地下とは一転、目の前にはまるで別世界のような空間が広がっていた。

 

 そこは石造りの無骨なアッシュゲートとは全く異なる、贅を凝らした部屋だった。

 高い天井と白の漆喰の壁に囲まれ、窓ひとつないにも関わらず、天井に埋め込まれた照明が柔らかな光を落としている。

 壁には綺麗な剣が飾られていて、足元には踏み心地の良い絨毯が敷き詰められていた。

 


 あまりの世界の変貌に、ぼくはただ呆然とするしかなかった。

 隣にいるプリ姉をチラリと見ると……目を輝かせて鼻息を荒くしている。



「あ、あの……ここは?」

「悪いが俺の役目はここまでだ。詳しいことは、そこにいる執事から聞いてくれ」



 衛兵さんはそれだけを言い残して行ってしまった。

 そして、執事と言われた初老の男性がぼくたちに頭を下げる。



「本日、御二方のお世話をさせていただきますミルタンと申します。ドレイク様、プリメッタ様、どうぞよろしくお願い致します」


「え、あ……あの……」

「アタイらの名前知ってるんだ? じゃあ親友だね! よろしくねミルちゃん!!」



 黒と銀の礼装に身を包み、何かで固定していると思ってしまうほどの姿勢の良さ。

 厳格さが滲み出ていて、無表情気味で怖そうだけど、プリ姉の返しに対して目の奥で笑っているように見える。



「さて御二方。まずはお風呂になさいますか? それとも食事を先に召し上がられますかな?」



 お風呂?

 お風呂なんて、この6年間で一度も入ったことがない。三日に一回の水浴びだけだった。

 

 しかも食事だって?

 一日に二回も食べていいんですか!?



「両方! 食べながらお風呂に入るんだよぉ!」

「かしこまりました」


 

 えッ! お風呂に入りながら食事を!?

 世界的には、そういうのが普通なのだろうか……。



「では、ワイン風呂にパンを浮かべて参ります」

「狂人の類か! 冗談じゃろがい!」


 

「もちろん冗談でございます。では、入浴の後にお食事ということで」

「あはは! 良かったね、ドレーくん! ミルちゃんノリがいいよぉ!」



 テンション高く会話する二人に気圧されてしまう。


 この短い時間で、二人はすっかり打ち解けてしまったようだ。人見知りするぼくではこうはいかない。プリ姉がいてくれて本当に良かったよ。



 それにしても、ワイン風呂でパンかぁ。

 内心はしゃいでしまったのは、プリ姉には内緒だね。

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