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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第三章:奴隷からの脱却
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第1話:あさごはん【前編】

 奴隷になってから、いつも不安と戦ってきた。

 

 朝起きて不安になって、食事を終えて不安になる。無事に戦いを終えて安堵したのも束の間……眠る頃にはまた不安が押し寄せてくる。この場にいないミレイアを想いながら、自分に言い聞かせるように眠りについた。


 そして迎える朝……これの繰り返しだった。



 でも、今日は違う。

 こんなにも穏やかな気持ちで朝を迎えたのは、生まれて初めてだ。


 昨日に自分が起こした惨劇が、ただの夢だったと思えるほどに。


 ……でも、夢じゃない。

 それなのに、なぜこんなにも心が安らかなのか。



 その理由はぼくの枕元にあった。




 

「……くか〜」



 ぼくに膝枕をしたまま、大口を開けて眠るシスター・プリメッタ。

 一晩中ぼくを膝に乗せたまま……きっと重かったと思う。それなのに、安眠するその表情からは苦しさなんて微塵も感じない。


 起こさないように静かに移動し、幸せそうに眠るプリ姉の顔を眺めてみる。



「……それアタイのだよぉ」

(寝言?)



 起こしてしまったと思ったけれど、目は閉じたままだ。むにゃむにゃと口を動かしている。

 人って、こんなにもはっきりと寝言を言うんだね。



 この自称ジャーナリストのプリ姉と出会って、ぼくの運命も大きく変わった気がする。


 ぼくが『あの力』を使いこなすことができたのは、間違いなくプリ姉の存在があったからだ。

 もしプリ姉がいなかったら……ぼくは力に呑まれていたかもしれない。



(刹骸のレガリア アミカ・ゼイン……)



 プリ姉が名付けてくれた、ぼくのレガリアの名前。

 眠気が酷くて夢現だったけれど、これだけはハッキリと憶えている。


 人を容易く殺せてしまう力、その攻撃的な性質を表した刹骸という言葉……でも、アミカ・ゼインの意味は『友愛の存在』。



(忘れないよ。絶対に)



 胸にじんわりとした熱を感じる。プリ姉がくれた名前が、ぼくの中で呼応しているかのように。





「これもアタイの……それもアタイの……そっちのもアタイのだよぉ……」

「……ぷっ。どんな夢見てるんだろう」



 欲張りな寝言を連打するプリ姉が可愛くて、ついつい声が出てしまった。

 慌てて口を押さえたけど、遅かったみたいだ。プリ姉は小さな呟きでも聞き取れるんだから、こんな近くで声を出したらそりゃ起きるよね……。



「……あれ、空腹に負けて寝ちゃってたかぁ。ドレーくん、おはよぉ」

「おはよう、プリ姉。その……身体とか痛くない?」



 こんな狭い檻の中で、壁にもたれかかって寝てたんだ。しかも、ぼくという重りを乗せたまま。

 身体がガチガチになってないか心配だ。



「別に大丈夫だよぉ。ん〜〜ッ、よく寝たぁ!」



 うーん、強靭(タフ)だなぁ。まるで問題ないみたい。

 ぼくが初めてここで寝た次の日は、全身が痛かったのを憶えている。


 両手を挙げて、プルプルと震えながら背筋を伸ばすプリ姉。この動作だけで、固まってしまった筋肉を動かす準備ができてしまったようだ。



「プリ姉、寝言言ってたよ」

「あ〜。アタイ、起きる直前って絶対に夢を見ちゃうんだよね」



「どんな夢見てたの?」

「ドレーくんが粗末なものしか食べたことないって言うから、アタイが手料理を振る舞ってあげてたんだよぉ」



 夢の中でもお世話になってるなぁ、ぼく。

 

 奴隷になる前は人並みの食事をしていたけど、ここに来てからは同じものしか食べていない。


 そんなぼくに手料理を振る舞ってくれるなんて、プリ姉はホントに優しいね。



 でも、それを独り占めするような寝言を言ってた気がするけど。



「たらふく食べたはずなのに、どうりで腹ペコなわけだよぉ」

(やっぱり自分で食べたんだ)



 残念だったね、夢の中のぼく。

 でもいつか、本当にプリ姉の料理を食べてみたいなぁ。



「奴隷戦士の食事は朝に一回なんだ。いつも通りなら、そろそろ持ってきてくれるはずなんだけど」

「ホントに〜? 早く早くぅ」



 プリ姉は笑顔で食事を待ち望んでいる。

 アッシュゲートの食事は、正直言って美味しくないけど大丈夫かな……。


 

 でも、ぼくには味よりも心配なことがあった。


 

 檻に鍵はかかってないし、衛兵も明らかにぼくを避けてる感が否めない。

 ちゃんと持ってきてくれるかな?

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