ジャーナリスト心中録【後編】
うぐぐ……アダイはブリメッダ……。
衛兵に捕まって滅多打ちにされた、満身創痍のメッタメタ系美少女だよぉ……。
プリメッタだけにね!
石壁から離脱したアタイは遠目から成り行きを見守ってたんだけど、ドレーくんったら何の抵抗もせずに捕まっちゃった。
あんな衛兵、ドレーくんの敵じゃないだろうに。倒せないまでも、逃げる位わけは無いと思ってたんだけどなぁ。されるがままに殴られて捕まるなんて、さすがのアタイも予想外だったよぉ。
んでもってドレーくんが連行されたアッシュゲートに潜入したんだけど、トラップに引っかかって牢屋にぶち込まれたってわけ。
気配を消すのは得意中の得意だったんだけど、どうも体温や魔力に反応して作動するトラップだったみたいだね。
生成された石がアタイの脚をがっちりホールドして、身動きが取れなくなっちゃった。
うーん。あのトラップ、エルキオン公国の技術が使われてる気がするんだよね〜。
まったく、厄介な国だよぉ!
そんでもって、降参してるアタイをボコボコにする衛兵たち。いくらアタイが頑丈だからって、殴り過ぎなんだよぉ……。
拳が裂けて血が出たのが、更にアタマに来たみたい。アタイは何もしてないっつーの!
とはいえ、さすがのアタイもそこそこダメージを受けてしまった。まぁ昔から傷の治りは早いから、こんなの寝たら治っちゃうんだけど……
……うん! めっちゃ眠い!!
空腹と相まって、とんでもない眠気が襲ってくる。
場所と状況を考えるなら、今寝るのは非常にまずい。でも、この眠気には抗い難く──
──って、あれ!?
隣の牢にいるのドレーくんじゃん!!
予定とは違ったけど、合流するっていう目的は果たせたね! 改めて、これからよろしくお隣さん!!
うーむ、感動の再会も束の間……ね、眠い。やっべ、意識飛びそう……。
ドレーくんはめちゃくちゃ泣いてるし……ちょ、泣きすぎだよぉ。
どうしちゃったのさぁ、ドレーくん。何がそんなに悲しいの?
……そっか。
アタイのこと……親友だってさ。アタイが怪我をしたから、そんなに泣いてるんだね。
嬉しかった。
今まで、アタイのために涙を流してくれる人なんていなかった。
でも、出会ってたった一日の男の子が、こんなにもアタイのために感情を顕にしてくれてる。
ふふ、ほらね。時間が問題なんじゃない。
人は……たった一日で親友になれるんだよぉ。
親友のドレーくんが隣にいるなら、もう我慢しなくていいかな……ドレーくんが泣き止んだら、ちょっと眠るね。
大丈夫。明日になったら、すっかり元気になるから────
☆
復活! プリメッタ復活!!
ん〜ッ、よく寝たあ!
うんうん、顔の腫れも引いて完全回復! まぁ骨折だって一日で治っちゃうしね。
アタイが動き出すと、すぐさまドレーくんが声をかけてくれた。眠らずに、ずっとアタイの様子を気にかけてくれてたんだね。
アタイが感動に打ち震えていると、空気を読まない衛兵に連行されちゃった。
ドレーくんが叫んでたから心配しないように声はかけたけど……大丈夫かな。
いや、アタイじゃなくてドレーくんがね?
なんか、ドレーくんの様子がおかしかったような気がするんだよぉ。
★
鎖に繋がれて闘技場に引き出されたアタイには、処刑か奴隷かの二択が待っていた。
アタイそこまで悪いことした?
そして、こんな悪趣味なイベントを嬉々として笑ってる連中……こいつら全員狂ってるよぉ!
こんな狂気の世界で、ドレーくんはずっと生きてきたんだね。あんなに優しくて泣き虫なドレーくんが、ずっとこんな世界で……この世に神はおらんのかぃ!?
むむ、あいつらがドレーくんの対戦相手か!
……なにあいつら。よっわ! 戦士としての可能性を1ミリも感じない。
こんな連中が帝国で幅を利かせてるんなら、そりゃ腐敗していくのも納得だよぉ。
自分たちが負けるなんて、微塵も考えていない。死が決着のこの回避戦で、相手がドレーくんだから完全に油断してるね。
でも、それも当然かもしれない。
だって……ドレーくんは優しいから。
ドレーくんじゃ、この回避戦は乗り切れない。いざとなったら指を引きちぎってでも抜け出して、ドレーくんと一緒に逃げよう。
とりあえず鎖の強度を確認しておこう。
ぐぬぬ……うぅ、力が入らぬ! どうなっとんじゃい!!
昔から、魔力を『攻撃』に使おうとすると力が抜けちゃうんだよね。これは自衛だっつーの! 聞いてる!? アタイの魔力さんよぉ!
って、あ!? ドレーくんが来た!
え、すぐ終わるから待ってて?
やだ……かっこいい。いつもの優しげな感じもいいけど、クールな表情もいいものですな。まぁドレーくんは素材がいいもんね!
とりあえず耳飾りに仕込んだカメラで撮っておこう。
はーい!こっち向いてドレーくん!
よしよし。いい感じに微笑んでくれたね。なんか対戦相手にイチャモンつけられてるけど。
……それにしても、ドレーくんの様子がやっぱりおかしい。
なんか吹っ切れたというか、肌がビリビリするような魔力を感じる。
それにドレーくん、誰かと喋ってる?
……ほうほう。あ! この人がロヴァニアの守護神、タイロスなの?
くらぁ!タイロス!
ワレの悪法のせいでこんなことになっとるんぞ! 何が守護神じゃい! 職務怠慢もいいとこだよぉ!!
……とはいえ、ドレーくんを生き返らせてくれたし、ドレーくんの神友ならアタイにとっても神友だしね。
ここは水に流してあげるよぉ、タイちゃん。
むむ! ドレーくんの様子が更におかしい!
とりあえずもう1枚撮っておこう。
ドレーくんの身体から、赤黒い魔力が溢れ出している。
この肌に感じる力……この感覚を、アタイは知っている。
世界中で出会ってきた強者たち、魂の武具を顕現させる玉璽保持者と同じ力だ。
でも、ドレーくんから感じる力はアタイが知る誰よりも純粋で、洗練されてて……血が凍りつきそうなほど冷たいもの。
それは一点の濁りもない、敵を斃すためだけの武器。神々しいほどの殺意の結晶だった。
ルジーちゃんに聞いたことがある。レガリアは、感情の振れ幅が大きいほど強くなる。
それはつまり、殺意と対極の人間──優しい人ほど殺意の力が増すってこと。
あぁ、だからルジーちゃんは強いんだね! って言ったら、顔を紅くしてイヤそうな顔してたっけ。
なぜ戦いの神タイロスが、人を殺せないドレーくんを選んだのか。その意味が分かった気がする────。