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ジャーナリスト心中録【前編】

 おっす! アタイはプリメッタ!

 エルキオン公国でフリーのジャーナリストとして活躍してる天才美少女だよぉ。


 17歳にして掴んだスクープは数知れず。誰もが取材できなかった国の情報を持ち帰ったり、出版社からも引っ張りだこの超売れっ子ジャーナリストなわけよ。



 まぁそれもこれも、アタイの人徳が成せる業ってやつかな?

 自己紹介を済ませれば、それはつまり親友。ついつい秘め事も話しちゃうんだね!





 ……でも、アタイだって馬鹿じゃない。

 アタイが近づくと、それだけ距離をとる人間がいることも分かってる。


 アタイは昔から、相手の感情や考えている事が何となく分かった。ジャーナリストとしてはこの上なく便利な力……でも、みんなと仲良くしたいアタイからしたら、少し傷付く力でもある。



 しかぁーし! だからといってアタイは自分を変えるつもりはない!

 相手が退がるなら、その分アタイが進むんだ!


 アタイと違って、多くの人は相手の感情なんか分からないみたい。だからこそ、仲良くなるには相手の情報が必要不可欠。それは人間に限らず、国同士にも言えること。

 

 だったら、アタイがその情報を手に入れてあげる。


 そうすれば、世界はもっとハッピーになるんだから!



 ☆



 アタイは今、世界で三本の指に入るほど危険な国『ロヴァニア帝国』に来ている。この国で何かが起きると、アタイのジャナ勘(ジャーナリストとしての勘)が告げてるんだよぉ。

 親友のルジーちゃんに協力してもらって、唯一この国で活動が許されてる『セルミア教団員』として入国したワケだけど────。


 



 ……うん、めっちゃ貧乏!


 唯一活動が許されてるから和気藹々なのかと思ってたけど、どうもセルミア教団は迫害に近い扱いを受けてる。

 すれ違う人の目は冷たいし、派遣された修道院はボロボロで落書きまでされてた。信者もほとんどいないからお布施もないし、毎日のご飯にも困る始末。



 ちょっとちょっとぉ! じゃあなんで活動を許してるんだよぉ!?

 なにか歴史的な背景、あるいはもっと大きな思惑が絡んでるのかもしれない。これはちょっと調べる必要がありそうだよぉ。アタイのジャナ勘が(ry ──。





 ただ、同居人には恵まれた。

 この修道院にはアタイの他にもう一人シスターがいる。


 

 名前はミレイア。まぁ既にアタイの親友なわけだけど、このミレーちゃんの境遇は身につまされる思いがするよぉ。

 ご両親は既に亡くなってて、唯一の肉親であるお兄ちゃんは奴隷として闘技場で過酷な毎日を送ってるらしい。


 毎日が気が気じゃないと思う。

 でもミレーちゃんは、通りを掃除しながら道行く人々に笑顔で挨拶をしている。この街での奉仕活動が、微量ながらも唯一の収入源みたい。


 こんなにも健気なミレーちゃんを、ほとんどの人間が一瞥するだけで無視して通り過ぎていく。

 こいつら顔写真付きで世界に公開してやろうか?



 アタイの義憤なんて露知らず、ミレーちゃんは決して笑顔を絶やさず、分け隔てなく挨拶をし続けている。

 そんなミレーちゃんに絆されたのか、中には会釈をする人や、笑顔で手を挙げる人もちらほら現れ始めた。



 ……みんながみんな、悪いやつじゃないみたい。

 安心したアタイは、アクセサリーに仕込んだカメラでその現場を隠し撮りした。





 ──うん。どうせ公開するなら、こんな写真の方がハッピーだよね。


 これからミレーちゃんと二人三脚で頑張っていくよぉ!



 ★



 この国に来てからはや1ヶ月。建物や地形、人の顔もあらかた記憶して、そろそろ本格的な調査に乗り出そうかと思った矢先のこと──

 

 ミレーちゃんがどこにもいない。

 礼拝堂でお祈りしてたはずなのに、昼寝から起きたらいなくなってた。


 初めは出かけてるだけかと思って待ってたんだけど、待てども待てども帰ってこない。

 さすがに心配になってきたアタイは、ミレーちゃんを探しに街へと繰り出すことにした。



 ミレーちゃんの挨拶に好意的だった人たちを中心に捜索を開始する。

 顔は記憶してるし、名前と住所も全部調査済みだ。


 くっふっふ。これが世界に轟くジャーナリスト、プリメッタ・チャフ様の情報力だよぉ!




 

 ……うーん、残念ながら有益な情報は何も得られなかった。ミレーちゃんを見た人は皆無だったよぉ。

 心配そうな顔をして、一緒に探そうとしてくれた人が何人かいたのは救いだったけど。


 はっきり言って、ミレーちゃんは可愛いしセルミア教の修道服を着てるから目立つと思うんだよね。黒髪に白の修道服、黒と白のコントラストは目を引くものがある。

 それなのに目撃情報がゼロとかありえないんだけど。


 もしかしてモーガンってチャラ男が住み込みで働いてる屋敷に行ってるとか?

 馬車とかでお迎えなら誰にも見られなかったかもしれない。でもアタイの耳がその音を聞き逃すかなぁ。


 日も暮れてるし今から行くのも危険だ。この国の貴族の特権は凄まじいものがあるから、『夜分に失礼』でゴーレムの実験台にされる可能性がある。

 

 もしかしたら帰ってきてるかもだし、とりあえずアタイも一回帰ろうかな。




 ★



 古びた修道院に戻って、薄暗い礼拝堂に足を踏み入れると妙な気配がした。

 床に目をやると、なんか黒くてでっかいモノが落ちてる。





 誰じゃい! こんなでかいゴミを捨てたのは!!

 毎日掃除して綺麗にしてる(主にミレーちゃんが)礼拝堂にゴミを捨てるなんて、なんて罰当たりな!



 アタイは憤慨しながらソレに向かって歩き出した。

 そしてソレが、男の子だと気づくのにそう時間はかからなかった。



 え〜、死体遺棄? それとも行き倒れ?

 ただでさえ微妙な立場なのに、ここで死体発見なんてことになったらヤバいことになりそう。こっそり隣の敷地に移動させようかな。



 ……と思ったんだけど、何と生きてた。

 別に怪我をしてるわけでもなく、スゥスゥと寝息を立てている。


 何度か呼びかけて身体を揺すってみたけど、よっぽど疲れているのかまるで起きない。



 う〜ん、幸せそうに寝てるし寝かせてあげるかぁ。とりあえず寝室に運ぶとするよぉ。

 ベッドは二つ。ミレーちゃんが帰ってきたら困るし、アタイの方を使わせてあげる。


 

 ん〜、よいしょお!



 華麗に男の子をベッドにダイブさせて、洗い立ての布を優しくかけてあげる。

 よしよし。とりあえず請求は後でするとして、アタイはどうしようかなぁ。



 まだこの子の名前も知らないんだよね。ということは、まだアタイらは親友じゃないってこと。

 親友でもないのに、一緒の部屋に寝るのはまずいよね。



 しょうがない。アタイはミレーちゃんが帰ってくるのを礼拝堂で待つことにするよぉ。

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