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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第二章:目覚め
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終章:友愛の存在

 回避戦を終え、ドレイクとプリメッタがアッシュゲートへと戻った夜のこと。


 従来の形で終えなかった回避戦の勝敗は曖昧なままであり、ドレイクの鉄輪も減ってはいない。

 だが、看守はドレイクの一挙一動に怯え、プリメッタを伴った帰還に異を唱えるものは皆無だった。


 絶対的強者の出現に、アッシュゲートの湿った空気も変わり始めていた。



 檻に鍵はかけられていない。自由に出入りできる檻に二人で入り、ドレイクは膝を抱えて座り込んだ。

 そして──





「……死にたい」

「急にどうした!?」



 完全に塞ぎ込んでいるドレイクに、流石のプリメッタも驚愕の声を上げた。

 ドレイクの周りには、殺意とは違う陰鬱で湿ったオーラが漂っている。



「ちょっとちょっとぉ! こんな狭い空間で美少女と二人っきりなんだよぉ!? もっと嬉しそうにせんかい!」


「……よく考えたら、ぼくと一緒なんて嫌だよね」



「アタイが別の檻にいると心配だからでしょ? それに、アタイは一緒でもイヤじゃないよぉ」

 

「……プリ姉はホントに優しいね。でも……その優しさがぼくを責め立てるんだ……」

「なんだこいつ」



 ドレイクが自分を責めるのはいつものことである。

 だが、これはあまりにも度が過ぎている。


 明らかにおかしいドレイクに、プリメッタはタイロス神の言葉を思い出していた。



(強い力には代償が伴う……もしかして、タイちゃんが言ってた代償ってこの事? 感情を武器に戦ったせいで、感情のバランスがおかしくなってるのかも)



 このプリメッタの考えが正解なのかは定かではないが、ここに至るまでの経緯、ニゴラの殺害、強気な発言、プリメッタをお姫様抱っこ──ありとあらゆる事象が、ドレイクの中で黒歴史となっていた。

 悲壮・羞恥・後悔・自己嫌悪……あらゆる負の感情が押し寄せてくる。

 

 もしこの場にプリメッタがいなければ、ドレイクは本当に自死していたかもしれない。それほどまでに危険な状態だった。





「……まったく、とんだ甘えん坊やだよぉ」



 ことを重くみたプリメッタは、塞ぎ込むドレイクの頭を自分の太ももへと引き寄せた。



「ぷ、プリ姉……?」

「ほらほら。なにをウジウジ悩んでるのさ? 聞いてあげるから言ってごらん」



 ドレイクの黒髪に手を乗せ、優しく撫でる姿はまるで聖女のようだった。

 目を閉じ、静かにドレイクが話すのを待ち続けている。


 その雰囲気に絆され、ドレイクは重い口を静かに開き、懺悔の言葉を口にするのだった。



「……殺したんだ、人を……ぼくが……この手で……」

「アタイを守るためにね。アタイのために、あんなに怒ってくれたんだね」


 

「ニゴラも……必死だったんだッ。死にたくなくて、生きるために必死だったんだ……それなのにぼくは……」

「あの人にドレーくん殺されたんでしょ? じゃあ、これでおあいこじゃん」



「お、おあいこって……そんなのでいいのかな……?」

「いいのいいの。あのニゴラって人も、今頃どっかに転生してよろしくやってるよ」



 聖女とは程遠い発言。

 しかしそれでも、ドレイクの声に調子が戻っていく。



「プリ姉は、ぼくが怖くないの? あんな力まで見せたのに……」


「くっふっふ。井の中の蛙だね、ドレーくん。アタイはジャーナリストだよぉ? 12歳の頃から世界を飛び回って、色んな玉璽保持者(レガリアホルダー)に会ってきたから目は肥えてるんだよぉ」



「12歳で世界を……そっか。世界的に見れば、ぼくの力なんて大したことないんだね」

「ううん。世界的に見ても、ドレーくんはトップクラスに強いと思うよぉ」



「そうなの?」

「玉璽保持者は確かに強いけど、それでもピンキリだからね。ロヴァニアに来る前に取材した女の子は、とんでもなく強かったけど」



「女の子なんだ。どれくらい強かったの?」

「一人で国を二つ滅ぼしてたね。あ、ちなみにその子から修道服もらったんだ。ロヴァニアに入る手伝いもしてくれたんだよぉ」



「そうなんだ……優しい子なんだね。ふふ……でも、二つも国を滅ぼしたんなら優しくないのかな?」



 それは、母が子供に夢物語を聞かせるようだった。ドレイクの瞼が微睡(まどろみ)を帯びていく。

 プリメッタから感じる体温、言葉から伝わる慈しみの波長が、疲れ切ったドレイクの身体に安らぎをもたらしていた。



「優しいから戦う人もいるってことだね。だから、アタイはその子がちっとも怖くなかった。だからアタイは……ドレーくんも怖くないよ」



 ドレイクの瞼は閉じかかっている。

 抗う必要はない……そう言い聞かせるように、プリメッタは両手で優しくドレイクを包み込んだ。





「ドレーくん。玉璽保持者は、みんなレガリアに名前を付けてるんだよ。それは決意や戒め……言葉には力が宿るからね」


「そっか……でも、ぼくじゃいい名前は思い浮かばないよ……プリ姉が考えてくれない……?」



 自分の魂ともいうべきレガリアの名前を託す……それは、自分という存在を他者に預けるようなもの。

 ドレイクにそこまでの考えはなかったかもしれない。だが、プリメッタは満足気に頷きそれを了承した。



「そう言うと思って、実はもう考えてあるんだ。やっぱり名前がないと、サマにならないし記事にもしにくいからね」


「そっかぁ……プリ姉は、ホントに凄いなぁ……」



 瞼は閉じられ、意識が希薄になっていく。

 だがそれでも、ドレイクはプリメッタの言葉に最後まで耳を傾け続けた。





「ドレーくんのレガリアの名前は、【刹骸のレガリア アミカ・ゼイン】。刹那に現れ、骸となって消える……カッコよくない?」


刹骸(さつがい)……なんだか物騒だなぁ……それに……」



 それは偶然か必然か。

 プリメッタが名付けたゼインという名は、ドレイクの失われた家名と一緒だったのだ。



「アミカ・ゼインは『友愛の存在』って意味があるんだよぉ。忘れちゃダメだからね」



 意図せずして、失われた家名が還ってきた。それも、攻撃的な側面と優しさを伴って。

 夢現ながらもドレイクは、決して忘れぬように……その名前を何度も何度も反芻した。



「怖いのか優しいのか、よく分からないけど……プリ姉が付けてくれたんだもん。忘れないよ……絶対に──」

 

「うん。おやすみ、ドレーくん」



 その言葉を皮切りに、ドレイクは静かに寝息を立て始めた。

 目が覚めれば、新たな戦いが幕を開けるだろう。

 

 血塗られた未来……だが、安らかなドレイクの寝顔からは、そんな血生臭さは一片たりとも感じない。


 

 聖女に見守られながら眠る奴隷の図。

 それは一枚の絵画のように美しく、優麗な聖域であった────。

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