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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第二章:目覚め
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第9話:王の力

《回避戦開始ぃッッ!!》



 実況の掛け声と共に、耳をつんざく銅鑼の音が響き渡った。


 合図と共に槍を構えるニゴラだが、ひどく狼狽した様子だ。

 その原因は、傍観を決め込む二人の貴族だった。



「お、おい! 三人で一気にやっちまおうぜ!!」


「あぁ? お前、なに偉そうに言ってんだよ。俺たちゃ上流貴族の子息様だぜ。運よく選ばれたお前とは違うんだよ」


「私たちはこれで終わりだが、君のオルドフェルムはまだ続くんだろう? これを機に、一人で敵を倒せるようになって欲しいという私たちの気遣いだよ」



「そ、そんなッ……」


「それに、私たちは血で手を汚したくないのだよ」

「ははっ。汚れ役は奴隷の役目ってね」



 ニゴラの実力は、圧倒的にドレイクより劣っている。

 一対一ともなると、不意打ちでもしなければ勝つことはできない。


 そして、その不意打ちはもう通用しない。

 予定の狂ったニゴラは、その場で手をこまねくことしかできなかった。



 一方、ドレイクも動こうとしなかった。

 それはまるで、機を待っているかのように────





『──ドレイクよ』


(……タイロス神)



 脳内に響く雇い主の声。

 その声に動揺することなく、ドレイクは静かに前を見据えている。



『我が力は限られている。貴様と言葉を交わすのは、これが最後となろう』


(そうですか)



『見よ、ドレイク。奴らの醜悪な顔を──』



 二人の貴族は、自分たちが負けるなど微塵も思っていない。同じ奴隷戦士でありながらニゴラを見下し、その狼狽ぶりを歪んだ顔で眺めている。


 ドレイクを殺したニゴラは、自分の強運に酔いしれ慢心し、逆境に立たされるやいなや醜い懇願を続けている。



『あれが、貴様が生かし続けてきた存在。あれこそが、このロヴァニアの腐敗の象徴。あのような愚物は剪定しなければならぬ』


(えぇ。彼らはこのロヴァニアに……いや、世界に必要ない)



 ドレイクの言葉に、タイロスが僅かに笑いを漏らす。

 厳格な神であるタイロスが笑いを漏らすなど、タイロス自身が驚いたことだろう。


 



『ドレイクよ、なぜ攻めぬ? 今の奴らなら、簡単に仕留められるぞ』


(待ってるんですよ。彼らがぼくに攻撃するのを……敵意を向けるのを)



『それは何故だ?』


(ぼくから攻撃はしません。だって、それだとぼくが悪くなるでしょ? ぼくは悪くない。ぼくを殺そうとする……彼らが悪いんだ)



『ククク、どこまでも傲慢な男よ。だが、それでいい。貴様は既に理解しているようだな……貴様が持つ【共鳴魔力】を──』


(共鳴魔力……?)



 もはや笑いを隠そうともしないタイロスの声には、興奮とも取れる色が混ざっていた。

 そして、タイロスは手向けのようにドレイクへ語りかける。



『知らぬのも無理はない。堕落したロヴァニアでは、失われて久しくない力だからな。ドレイクよ、人間は誰しも内に共鳴する力を宿している。神が、信仰によって力を得るようにな』


(共鳴する力……)



『共鳴魔力を駆使し発動させる【共鳴魔法】。ある者は火を操り、ある者は風を操る。だが、それは入り口に過ぎぬ』



 未だ動かぬ両者に、実況が苦言を呈し、観客からはブーイングが起き始めていた。

 だが、ドレイクは動じることなくタイロスの言葉に耳を傾けている。





『敵を倒そうという意志。溢れ出る殺意を制御し、共鳴魔力と共に発現させる王の力──それが【レガリア】だ』


(レガ……リア……)



『そしてドレイクよ。 貴様の共鳴魔力は【殺意】。殺意を力に変える貴様は、まさに玉璽保持者(レガリアホルダー)となる為に生まれてきたのだ』





 ──ブーイングを受け、二人の援護を諦めたニゴラが遂に動き出す。



(くそッ、やるしかないか。こっちは槍でドレイクは素手だ……リーチの差でなんとかなるだろ。それにいざとなりゃ、あいつらの後ろに逃げたらいいしな)



 ニゴラが槍を構え、その切先をドレイクに向ける。

 殺意をドレイクに向ける……それが、これから起こる惨劇の合図となってしまった。





『さぁ、見せてやれドレイク。 腐りきった豚どもに、真なる王の力を──貴様のレガリアをな!』


(────ッッ!!)




 

 ニゴラの殺意に反応したドレイクが、まるで四足獣のように身を屈める。

 その身体からは赤黒い瘴気が溢れ始め、ドレイクの瞳が金色へと変貌していく。


 その異様な光景に、誰もが息を呑み言葉を失った。



「ぐッ……がぁぁぁぁ……ッッ」 



 呻きのような声をあげ、溢れ出る瘴気が具現化し形を成していく。



「な、なんだあれ……」

「骨……?」 

「せ、背骨か……?」



 ドレイクの鉄輪から顕現した物体……それは観客が形容したように、まさしく骨だった。

 背骨のように連なった白き結晶が、蠢くように鎌首をもたげている。


 突如出現したこの白き結晶には、見るものを魅了するほどの神性が秘められていた。


 だが、その神性はすぐに瓦解することとなる。

 

 ドレイクから発せられる瘴気を纏い、みるみる骨鎖が赤黒く変色していく。



 骨鎖から発せられる尋常ではない力に、ニゴラは反転して二人の元へ駆け出した。


 だが、もう遅い。

 ドレイクに槍を向けた時点で、ニゴラの命運は尽きていたのだ。





「があああああッッ!!」



 咆哮と共にドレイクが右手を薙ぎ払う。

 観客の視界に、黒線が刹那に煌めいた。



 ──闇の一閃。


 

 必死に逃げるニゴラ。

 そんなニゴラが最後に見た光景──それは、闘技場もろとも抉り取られ、吹き飛ばされる自分の下半身だった。

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