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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第一章:奴隷の少年
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終章:神の傭兵

 ──ミレイアは、もういない。


 ドレイクの最愛の妹。

 希望の象徴。

 闇に沈むドレイクを、照らし続けた唯一の光。

 

 その光は、兄の死を受け入れられず……人知れず消えてしまった。


 だが、タイロスは言った。

 あの光が、再び蘇る可能性を。

 

 その言葉に、ドレイクは全身を震わせて言葉を絞り出した。


 

「ミレイアを……ミレイアを助けてくれるならッ、ぼくは何でもします!!」

 

『いいだろう。その前に、我の現状を語っておこう』


 

「……タイロス神の、現状?」

 

『最初に明言しておく。今の我には、ミレイアを蘇らせる力はない』


 

「そ、そんな……」

 

『我が神力は、過去に例を見ぬほどに衰えている。その理由は……貴様にも分かるはずだ』



 戦の神タイロス。

 その力の源は『戦い』にある。人が剣を取り、ぶつかり合い、その中で得る成長こそが神への信仰となる。


 だが、今のロヴァニア帝国にそれはない。戦いは形骸化し、勝敗は買われ、剣は名誉ではなく見せ物と化した。

 武人は迫害され、財力によって得ることができる新たな力──魔導具ゴーレムが戦場を台頭している。


 戦いはもう、神への信仰となり得ない。

 タイロスが力を失うのも当然だった。



「……ぼくのせいでも、あるんですね」


『猛省するがいい、ドレイクよ。貴様のように戦いの本質を穢す愚者こそが、我への信仰を妨げる元凶なのだ』


「ご、ごめんなさい……」



 責められた罪悪感に、ドレイクは指先をもじもじといじった。その視線は泳ぎ、まるで幼子のように小さくなっている。


 その場にいたたまれず、ドレイクは話題を変えるように尋ねた。


 

「そ、それで……ぼくは何をすれば?」


『我が力を再び満たすには、ロヴァニアがかつての姿を取り戻すより他に無い。その為には──』



 次の瞬間、ドレイクの脳裏に一つの映像が焼きつく。

 

 それは(いただき)だった。

 帝国の頂点。皇帝が座する、唯一無二の玉座──





『ドレイクよ。貴様はオルドフェルムを勝ち抜き、帝国軍への道を開け。そして弱者を淘汰し……玉座を奪うのだ』


「ぼくが……皇帝に?」



 強者であれば、奴隷だろうと皇帝を目指せる。それがロヴァニア帝国の本質。

 それこそが、戦の神・タイロスが定めた神の法。


 そして、その神の法は今も消えていない。





「む、無理ですよ! ぼくが皇帝になるなんて!! 奴隷生活が長くて、勉強も全然だし……そもそも政治なんてッ……」


『元より貴様に政治など求めてはいない。我が求めるのは、圧倒的な武力による統治だ。貴様が皇帝の座に就けば、内政は我が神託者が担う』


「神託者って、神の代理人……ですよね? ぼくもそれに?」



 神託者とは神に選ばれし者……神の意思に沿って国を動かす代行者のこと。

 神託者は不老となり、神が持つ権能の一部を行使できる超常者となる。



『否。貴様は我が神託者とはなり得ない。神託者は一柱の神に一人のみ。これは他の神々と交わした約定……どれだけ力を持った神でも破れぬ誓約なのだ』


「既に一人いるから、ぼくは神託者にはなれない……ってことですか?」



『そういうことだ。それ故、貴様とは一時的な契約関係となる。雇用関係と称するのが正しいかもしれんな』


(だから……『雇う』なんて言ってたのか)


  

『神託者でない貴様には、我が権能の一部を与えてやることはできぬ。だが、貴様が我が望みを成せば、その対価を用意すると約束しよう』


「褒美を求めて戦う……奴隷と一緒ですね」



 奴隷からの脱却を夢見たドレイクにとって、それは何一つ変わらない現実に思えた。

 だが、タイロスはその言葉を真っ向から否定する。


 

『本質を違えるな。我が名のもとに戦うことを選んだのならば、それはもはや奴隷ではない。神が定めし報酬を得るために戦果を挙げる。さしずめ貴様は──』



 タイロスの声が、深く、低くドレイクの脳内に響く。




 

『【神の傭兵】……と言ったところか』


「神の……傭兵」



 神に雇われし傭兵。


 傭兵に求められし戦果──それは、皇帝の座を奪い神の信仰を取り戻すこと。

 対価としての報酬──それは、愛する妹の復活。



「ぼくが皇帝になれば……ミレイアを生き返らせてくれるんですね?」


『約束しよう。ただし、一つだけ条件がある』


「条件?」


 

『ミレイアの復活。それは、ミレイア自身が望んだ時に限られる。それに異論はないな?』

 

「……もちろんです」



 自分の死が起因でミレイアが死んだのであれば、復活を拒否するはずがない。

 ドレイクにとっては、考えるまでもないことだった。



『いいだろう。我は望まぬ者を蘇らせることはできない。故に、貴様もまだ蘇ったわけではない。ドレイクよ、貴様は復活を望むか?』


「望みます」





 もはや、ドレイクに迷いはなかった。

 ドレイクが首を縦に振った瞬間、身体が淡い光に包まれていく。



「これはッ……」



 光が次第に強くなり、ドレイクの姿が朧に溶けてゆく。



「あのッ……神託者の人はどこに──!?」


『向こうから自ずと現れよう。我が傭兵ドレイクよ。帝国民に知らしめよ。貴様の武力をな──』



 タイロスの声が遠ざかる。

 視界が暗転し、ドレイクの意識だけがふわりと浮き上がった。


 意識の果てに、光があった。

 暖かくも、どこか懐かしい光。


 その光の中心へ、ドレイクの意識は誘われるように吸い込まれていった────。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございます。

 第一章はこれにて終了となります。



 次章からヒロインを交えて物語が展開していきます。投稿頻度が下がりますが、引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。

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