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第8話 聖なる剣(余剰パーツ付き)

「ここに勇者様が……?」


結局、少女の頼みを断り切れなかった俺は、マリアの「ならアレを実際に見せればいいだろう。その後でどう判断するかは本人の責任だ」という言葉を採用する事にした。


「だから勇者は居ないって。あと、ここで見たことは絶対内緒だからな」


「はい! 絶対に言いません!」


 うーん不安。でもあのまま路地裏で延々勇者様に合わせてくださいって大声で頼まれ続けるのもご近所にあらぬ嫌疑をかけられそうだったしなぁ。

 まぁ、アレを見れば諦めるだろう。


「帰ったぞー」


「お帰りなさい。おや? お客様ですか?」


 と、聖剣が台所からこちらを見ずに少女の存在を言い当てる。


「わ、私コロロと言います! 勇者様に村を救ってもらいたくてやってきました!」


「勇者ぁ~?」


 コロロと名乗った少女の言葉を聞いた途端、聖剣の声が明らかに不機嫌さを帯びたものになる。

 まぁうん、お前勇者嫌いだもんね。


「勇者なんてこの家にはいませんよ。居るのはどこにでもいる非力で凡庸な一般人と畑の番人とキュートでエッジの効いた聖剣だけです」


「お前、自己評価高すぎじゃね? そして俺の評価低過ぎでは?」


「おや、自己評価高くなるような特技でもお持ちで?」


「無いです」


 どうせ凡人だよ俺は!


「あ、あの!」


 と、俺達の馬鹿話に話の腰を折られたコロロが声を張り上げる。


「でも、聖剣を抜いた方がいらっしゃるんですよね! ならその方が勇者様という事ではないですか!?」


「ですから、勇者などこのボロ家にはいませんよ」


「お前いちいち俺をサゲないと会話出来ないの!?」


「物としてはもっと手入れして欲しいと言う物言わぬ物達の気持ちを代弁しただけですが」


「後で補修するからさぁ!」


 とりあえず今はこの子の話を聞いてやれよ。


「貴方はいいましたよね。この家に居るのはどこにでもいる非力で凡庸な一般人と畑の番人とキュートでエッジの効いた聖剣だけですって」


「そこまで寸分たがわずリピートしないで悲しくなるから!」


 あと横にいる畑の番人は何でそんなに自慢げに胸張ってるの? 畑の番人だぞ?


「それって今話している貴方こそ、聖剣を抜いた勇者様という事では?」


「いいえ、私がキュートでエッジの効いた聖剣です」


 ニュッという音でも聞こえてきそうな滑らかな動作で、聖剣が台所から姿を見せる。


「……え?」


 コロロが自分の見たものを認識するのを拒んで目をこすると、その隙にスッと台所に姿を隠す聖剣。


「あれ? 今のええと、ええとヘンなのは?」


「ヘンとは失礼な」


 またニュッと現れる足と手の生えた聖剣。


「ひっ!? 見間違いじゃなかった!?」


 というか何で今一度隠れた?

 まるでコロロをおちょくる様にスッニュッと隠れたり出たりを繰り返す聖剣。

 完全に見てはいけない系の精神がおかしくなる怪異の挙動なんだよ。


「ヤ、ヤヌシさん!? 一体あれは何なんですか!?」


「聖剣ですねぇ」


 それ以外に答えようが無いので素直に答える。


「せ? え?」


「やれやれ、物わかりの悪い娘ですね。私が聖剣ですよ。広場に刺さっていた聖剣」


「せい……けん?」


「ええ、聖剣です。正真正銘。神によって鍛えられた聖剣、その名もマイトキャリバーです」


 ビシッとポーズを決める聖剣。


「聖剣? これが? これがっっっ!?」


 信じられないのも無理はない。


「本当なんだよ」


「でも手と足がありますよ!?」


「手足が無いと出歩くのに不便でしょう?」


 そもそも普通の聖剣は出歩かないんだよ。


「聖剣だって散歩したくなる時があるんですよ」


 聞いた事もねーよ。


「実は以前から夜中や明け方に散歩してましたよ。カラコルム山の山頂から見る朝日がまた美しいんです」


「この辺で一番高い山じゃねーか!」


「ほ、本当に? 本当にこれが聖剣……?」


「信じられないかもしれないけど、本当なんだよ。手と足が生えてるけど、本体の部分は聖剣の広場に刺さっていた聖剣そのものなんだ」


 正直認めたくないんだが、子供のころから見て来た剣だから、嫌でも認めるしかないんだよなぁ。


「ふふん、この町の住人のお墨付きですよ。敬い磨きなさい」


 そして何でお前は偉そうなんだ。


「実際偉いですから。聖剣ですよ」


「ああうん、そうだね」


 聖剣がこんなだと知ってコロロはショックだろうなぁ。俺もショックだったし。


「……」


 ほら、驚き過ぎて黙っちゃったよ。


「キュウッ」


「って気絶してる!?」


「ショックが大きすぎたようだな。無理もない。私も初めて見た時は心底驚いたからな」


「そりゃ俺もだよ! とにかくどこかに寝かせないと!」


「畑に穴を掘るか?」


「さらっと埋めようとするな!」


「ああそうか、冥界の孔が既に開いていたものな。あそこに放り捨てれば一石二鳥か」


「証拠隠滅したいわけじゃないんだよ!」


 ◆


「う、うーん」


「あ、起きたか」


 幸い、先ほどの不穏極まりない会話を聞かれる事無くコロロは気絶し続け、日が傾いて来た頃に目を覚ました。


「あ、夢……」


「夢じゃありませんよ」


 コロロが安堵の溜息を洩らしたタイミングでニュッと姿を見せる聖剣。


「ひぃっ!?」


「馬鹿野郎! 折角全部夢だったことにして穏便に帰せそうだったのに姿見せるな!」


「失礼な。まるで私の姿が人様に見せられないかのようではないですか」


「実際人に見せられないんだよ!」


 こんなもん見せたら町中がパニックになるわ!


「本当に、本当に聖剣なんですか? 魔剣とか邪剣とか呪いの剣とか名状しがたい異世界の神の剣とかではなく!?」


「「それは本当にそう思う」」


 俺達の心が一つになった。


「失敬な、この神々しい神のオーラを感じ取れないと言うのですか?」


 ピッカァァァァァと光り出す聖剣。


「うわ眩しい!」


「ぎゃあああ焼ける焼ける焼ける!」


「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」


 三者三様の悲鳴が上がると漸く満足したのか聖剣は光を収めた。


「ヒィヒィ……お父様ぁ……」


 聖剣の光が相当効いたのか、マリアが這いずって畑へと逃げてゆく。

 あっ、畑に穴掘って潜っていった。アイツの前世はモグラかな?


「ふふーん、どうですか?」


 そして大惨事の光景の中、一人自慢げに胸を張る聖剣。


「ももももも申し訳ございません! 聖剣様の聖なるお力をハッキリと理解致しました!」


 理解致しちゃったかぁ……


「分かればいいのですよ。それにしても私の聖光を理解できるとは、貴方には聖職者の

素質が……あれ? 貴方聖女じゃないですか」


「は? コロロが聖女?」


「え? 私聖女なんですか?」


 って本人も分かっとらんかったのか!!

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