第6話 畑の穴と冥界下り
「なにこれぇ」
畑に穴が開いていた。
しかも真っ黒で底の見えない穴。
「おー、これは立派な冥界の孔が出来ましたね」
「おい待て」
ひょこっと現れた聖剣が畑に撒いた種の芽が出たくらい軽く聞き捨てならない事をいう。
「冥界の孔って何だ?」
「冥界と繋がった穴ですよ。便利ですよゴミとか捨てられて」
「滅茶苦茶罰当たりじゃねーか!!」
そんなことしたら速攻地獄行きだよ!
「私は剣なので人間のように死者の国に行くことはないので」
「他人事ぉぉぉぉぉぉっ!」
「まぁまぁ、冥界の孔の利点はゴミ捨て場以外にもありますから」
「だからゴミを捨てるのが当たり前みたいに言うなよ!」
「ここから直通で冥界に降りれるので、最短でデスフェンリルを狩りに行くことが出来ます。ちょっとした放牧場みたいなものですね」
『おおお……光だ……地上の光だ……』
『逃げろ、冥界の使者から逃げるんだ……』
「なんか出て来ちゃってるじゃねーか!!」
どうみても幽霊としか思えない禍々しい人影が穴から這い出して来る。
「ああ、ただの悪霊ですね。冥界の使者に捕まって地獄に落とされるのを恐れて逃げて来たんでしょう。大丈夫です。精々地上で好き勝手する為に心身の弱い人間の体を乗っ取って好き放題する程度ですから」
「大問題だろぉぉぉぉぉぉ! どうすんだアレ!」
「大丈夫、勇者ならあの程度の悪霊に乗っ取られる事はありません」
「お前基準の勇者だと大半の人間が乗っ取られるって事じゃねーか!」
ヤバイヤバイヤバイ、コイツが認めるレベルの勇者って魔王を余裕でワンパン出来るレベルだろ! って事はそんなのに取りつかれたら俺なんて乗っ取られ決定じゃねーか!
『……』
「っ!?」
目が合った!?
相手は真っ黒な靄みたいな存在なのに、明らかに見られたと言う気がした。
やばい、俺の体を狙っている!?
『……ぷいっ』
ススススッ
「え?」
しかし何故か悪霊達は俺を一瞥するとまるで避けるように別の方向へ向かってゆく。
「な、なんで……?」
俺の体を乗っ取るんじゃないのか?
「ははは、悪霊も貴方の体はお嫌みたいですね」
「なんでだよ!?」
それの体がそんなに不満なのかよ!?
「まぁ冗談はともかく、今の貴方には魔王の魔力とカイザードラゴンの龍気を纏っていますからね」
「え? 魔王の?」
「はい。魔王とカイザードラゴン、あとついでに悪霊達をおやつ感覚で食べていたデスフェンリルの血肉を魔力ごと身の内に取り込んできましたから。彼等にとって貴方は相当恐ろしい存在に思える事でしょう」
「そ、それってつまり、俺が魔王やドラゴンの力を使えるってことか?」
「ははっ、まさか。鳥肉を食べても飛べないでしょう? この場合はニンニクたっぷりの料理を食べてニンニク臭くなったり、酒の飲み過ぎて酒臭くなってるような感じですよ。うわっ、あの人間魔王とドラゴンの匂い臭って感じですね」
「凄く傷つくんだけど!?」
魔王やドラゴン臭いってなんだよ!?
『おおお、体ぁ……』
『欲しいぃ……』
「ってヤバイ! アイツ等町に出て人を襲うつもりだ! このままだと大変なことになるぞ!」
「あの程度の悪霊、教会の司祭に任せておけばよくありませんか?」
「だからお前の求める水準だと無理なんだよ!」
「最近は教会も腐敗が深刻ですからねぇ。金儲けや権力争いに勤しむ前に一度大々的に被害を受けて真摯な祈りを思い出すべきだと思うんですよ」
「それは分からなくもないけどさぁ!」
実際教会の司祭の中には生臭坊主としか言いようのないクズが居るのは事実だけど、それはそれだろ!
「そもそも、うちの畑からあんなのが出てきたってバレたら俺が捕まるだろうが!」
「小市民ですねぇ」
「小市民なんだよ!」
「なんだこのゴミのような悪霊は。散れ」
『『ぐはぁっ!!』』
その時だった。町に向かおうとしていた悪霊達が文字通り吹き飛ばされ霧散したんだ。
「マリア!」
それをやったのは、ウチに居候している魔王の娘マリアだった。
「何でこんな所に悪霊が居るのだ?」
「畑に穴が開いて出てきたんだよ!」
「何だと!? 父上に悪霊が湧いたのか!」
「せめて畑って言ってあげて!」
マリアは憤怒の顔で畑にやってくるとその一角に空いた中に気付く。
「冥界の孔か。何故こんな所に……」
「デスフェンリルの残飯を肥料にしたからでしょう。これでデスフェンリルが食べ放題ですよ」
「おお、それはありがたいな! ではこの孔には悪霊が出てこれない様に柵をしておこう」
「それでいいの!?」
埋めるとかしないの!?
「結界効果のある柵を作っておけば悪霊程度ならなんとでもなる」
「魔族は精神汚染系の攻撃に強いですから、悪霊とは属性の相性が良いんですよね」
そうなんだ……
「おおそうだ、冥界の孔が出来たのなら虐殺キノコを栽培するのによい環境じゃないか。ちょっと採ってきて冥界に植えてくる」
「虐殺キノコって何!?」
「瘴気の濃い森などに生える邪悪なキノコですね。物凄く美味しそうな匂いで獲物を引き寄せて自分を喰わせ毒で死んだ獲物を栄養にするキノコです」
「そんなもの植えようとするなよ!!」
「何を仰います。人間だって色々手を加えて毒のある食べ物を以下略」
「いやそうだけど……って食べれるの!? 薬の材料とかじゃなくて!?」
「食用ですよ。調理手順を失敗すると体中の穴という穴から血を噴き出して苦しみ抜いて死にますけど。冥界の孔だけに」
「全然おもしろくねーよ!」
「おや、もっとハイセンスなジョークをお好みですか?」
「笑えないって意味だよ!!」
もうやだこの聖剣。
尚、調理した虐殺キノコはこれまで食べて来たキノコの中で一番おいしかったです。
死ぬかもしれないのが滅茶苦茶怖かったけどなっ!!