第4話 誕生、畑の番人!
「我が名はマルリアンナ! 魔王ガーランダルの娘だ! 勇者よ、貴様が連れ去った我が父を返してもらおうか!」
「ご家族じゃねーか!!」
恐ろしいことに聖剣が狩ってきた魔王のご家族が町にカチコミをかけて来た。
「あはは、貴方の事勇者と勘違いしていますよ彼女」
「笑いごっちゃねーんだよ! どうするんだよこの状況! 魔王の娘ってことは滅茶苦茶強いんだろアレ!?」
「そうですねぇ。見たところ彼女はデューク級の魔力の持ち主ですね」
「デューク級?」
「魔族の力の格付けです。一定以上の強さを持つ魔族を貴族になぞらえてバロン、カウント、マーキス、デューク、そして魔王をロードと呼びます。子爵や辺境伯などは長くなるので割愛されています」
へー、そんな風に分けられてるんだな。
「なので彼女は上から数えた方が早いくらい強いわけです」
「滅茶苦茶大ピンチじゃねーか!」
ヤバイ! このままだと俺達が原因でこの町が滅ぼされるかもしれねーってことじゃねーか!
「ははは、ご冗談を」
「冗談な訳……」
「所詮ロード以下の魔族ですよっと」
フッと聖剣の姿が消えたと思った瞬間、空に浮かんでいた魔王の娘の姿が消えた。
次の瞬間、ドォンという激しい音が響き、町中で物が倒れる音や割れる音が聞こえてくる。
「な、なんだ今のは!?」
「ちょっと音速を越えて攻撃したのでソニックブームが発生しただけですよ」
「ソニッ?」
そして気が付けば聖剣の姿が傍に会った。
その腕に先ほどまで空に浮かんでいた魔王の娘を掴んで。
「って、何連れてきてんだぁー!」
「魔族が町の上に陣取っていたら近所迷惑でしょう? ちょっと力づくで連れて来ただけですよ」
「さらっと簡単な事のように言うなー!」
「きゅう~」
そして連れてこられた魔王の娘は余程激しい一撃を喰らったのか、目を回していた。
「さて、それでは起こすとしますか。えい」
「ぐえっ!」
聖剣が魔王の娘の腹の上に乗って踏んづけると、カエルが潰れた様な声が吐き出される。
「ぐはっ、ごほっ、な、何だ? 一体何が……」
目が覚めた魔王の娘は何が起きたのかと周囲を見回し、そして俺に視線をロックする。
「貴様何奴!? お前が私をここに連れ込んだのか!?」
「誤解です!!」
本当に誤解なんです! 信じて!
「まさかお前が父上を攫った勇者か!?」
「違います! 俺じゃありません!」
「なら勇者はどこだ!?」
「勇者もこの町にはいません!」
「嘘をつくな! この町からは父上の魔力を感じる! 父上を攫った者がここに居る証拠だ! そして父上を倒せる者など勇者以外にあり得ん!」
そうなんだろうけどホントに違うんだよ!
「それは俺でも勇者でもなくてそこの聖剣の仕業です!」
と、俺は傍で佇む聖剣を指差す。
「聖剣だと!?」
俺の言葉に反応した魔王の娘がギラリと凄惨な表情を浮かべ、指差した方向を向く。
そして聖剣を見た魔王の娘はこう言った。
「なんだこの化け物はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
あ、はい。そうですよね。
「なんだこれなんだこれなんだこれ!? 何で剣から腕と足が生えているのだ!?」
いやホント仰る通りです。
「これは一体何なのだ!?」
「だから聖剣です」
「そんな訳あるかーっっっ!! こんな不気味なモノが聖剣の訳あるかーっっ!!」
ぐうの音も出ない正論来ました。
「……やれやれ、小娘が煩いですねぇ」
「喋った!?」
ええ、喋るんですよそれ。口もないのに。
「我が名は聖剣マイトキャリバー。神が鍛えし聖剣です」
「その見た目でその名前は詐欺だろ!!」
凄い、この人、いやこの魔族俺が言いたい事全部代わりに言ってくれた。
「うるさい小娘」
「ごふぅ!」
ドスッという重い音とともに魔王の娘がくの字に折れ曲がる。
「おま、女の子にボディブローは……」
「聖剣は邪悪な者に対し男女平等なんですよ」
それ聖剣関係ある?
あと剣なのに拳でカタつけるのはどうなんだ?
「お黙りなさい小娘。大体父親ならそこにいるじゃないですか」
「え?」
魔王の娘はえづきながら聖剣が指さした方向を見るも、そこにあるのは畑のみ。
「ど、どこに父上が……」
「その畑に埋めました。肥料として」
「……は?」
魔王の娘がこっちを向いて「え? コイツ何いってんの?」と言わんばかりの顔を見せてくる。
「いや、本当なんですよ。狩ってきた魔王の死体をその畑に埋めたんですコイツ」
「なんの為に?」
「この方が魔王は要らないから捨ててこいと」
「俺に責任を擦り付けるな! お前が肥料にするって言って不法投棄したんだろうが!」
「元は貴方へのお礼だったんですから、贈呈された貴方のものですよ?」
「受け取り拒否しただろーが!」
「は? 畑? 父上を? 肥料?」
魔王の娘は何を言われたのか理解できず、呆然と言葉を繰り返している。
いや分かるよ。突然いなくなった肉親が畑の肥料にされたって言われたらそりゃそんな顔になるよね。
魔王の娘は呆然とした様子で畑に近づいてゆく。
「……本当だ。父上の魔力を感じる」
「分かるんだ」
「……!!」
魔王の娘が畑に手をかざすと、突然畑の土が爆ぜて畑が滅茶苦茶になった。
「俺の畑がーっ!!」
「いない、父上はどこだ!」
「え?」
父上? 魔王の事か? もしかしてこの子、畑に埋められた魔王を探す為に畑の土を吹き飛ばしたのか?
でもこの子の言う通り埋められたはずの魔王がどこにも見当たらない。
それどころか一緒に埋めた筈のカイザードラゴンの残飯もどこにも見当たらなかった。
「ああ、さっき駆除した雑草に食べられて昇華されてしまったんでしょう。ちょっと遅かったですね」
「おまっ、なんてことを!?」
この聖剣、デリカシーってもんはないのか!? この子は親を失ったんだぞ!?
「それはそれとして、ふんっ!」
「ぐはっ!」
「またボディ!?」
いきなり聖剣が魔王の娘のお腹目掛けてボディブローをかます。
「せっかく耕した畑になんてことをするんですか」
「耕したのは俺だぞ!?」
「ぐ、うう……」
「人の財産を勝手に破壊するような貴女には罰が必要ですね」
いや、その人父親を攫われて肥料にされたんですけど……
「丁度いいのでこの魔族を畑の管理人にしましょう」
「は?」
急に話を振られて俺は困惑してしまう。
「この魔族ならさっきの雑草程度に後れを取る事はありません。畑の手入れの問題も解決するというものです」
「いや、そんな事言われて素直に聞く訳ないだろ?」
「勿論力づくで理解してくれるまで分からせます。相手は世間様に迷惑をかける小粒魔王の親族ですよ。父親がよそ様に迷惑をかけた分も含めて役目を受け入れさせてやりましょう」
凄く、暴君の理屈なんだわ。
「という訳で今日から貴女はこの畑の管理人です。しっかり働きなさい」
「待て待て待て待て、父親が肥料にされた畑の管理とか、お前には人の心が無いのか!?」
「私、人じゃありませんから」
「そうだった!」
あかん、人の情けが理解できん手合いだコイツ!
「父上……」
そんな中、自分の置かれた状況を受け止めきれない魔王の娘が呟く。
「この土から濃い父上の魔力を感じる。父上は確かにここに埋められたのだ」
そういってゆっくり膝をつくと地面に手を触れる魔王の娘。
変わり果てた父親の末路に心を痛めるその姿は、どこにでもある家族のそれで……
「一緒に人間達を虐殺して回ろうと約束していたのに……」
どこにでもない家族だな。
「夜は人間を焼いてバーベキューとキャンプファイヤーをしようと計画を立てていたのに」
思った以上に邪悪だった。
「それなのに父上、こんな所で畑の肥料になってしまうなんて……」
おかしいな、悲惨な最期を迎えた父親の姿を悲しんでいる筈なのにぜんっぜん感情移入できない。
「まぁ魔族なんてあんなものですよ。力こそ全て。力ある者は何をしても良いという考えなのですから。そりゃ他の種族から危険視されるってものです」
思った以上に魔族がやばい種族だと分かり、俺は嫌な汗があふれる。
「まぁしかしご安心を、力ある者が正義という社会性なら、力づくで従えればいう事を聞くという事です」
「こっちも蛮族だった」
「……良いだろう。貴様の命令に従う」
そして思った以上にあっさりと魔王の娘は聖剣の命令を受け入れた。
「私を倒したものの命令だ。従う以外にあるまい。そしてこの畑が父上の魔力を吸って育ったのなら、この畑は父上の墓も同然。墓守として管理する事に異議はない」
すいません、それただの畑なんです。作物を育てる身としてはそういう事言われると色々と重くてキツいんですが。
「安心してください父上。私が父上の魔力と血の浸み込んだ畑を守り抜いてみせます! そして父上の魔力がふんだんに浸み込んだ作物を収穫し、皆で舌つづみを打ちながら食べると誓いましょう!」
「食べるんだ、採れたヤツ」
やっぱ魔族の考える事は分かんねぇな。
「やりましたね。これで畑の管理人が出来ましたよ! これで次の収穫は期待出来ますね!」
その前に普通の畑に戻してほしいんだよなぁ。