番外編SS2 新年の料理
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
新年初エピソードの短編をお楽しみください。
「あけましておめでとうございます」
「「「あけましておめでとうございます」」」
紋付羽織袴に身を包んだ聖剣が新年の挨拶と共に頭を下げると、俺達もついつい挨拶を返してしまう。
「という訳でお年玉のゴールデンゴーレムの金塊です。24Kの純金なので買い取り相場的にも最高額を狙えますよ」
「いらんいらんいらん、新年早々騒動の種を寄こすな」
「魔物素材由来の金だから錬成素材としても最高級なんですよ」
「そんな事言われても分かんねーよ!」
そもそも24Kってどういう意味だよ。
「や、家主これは凄いぞ! これがあれば最高品質の魔法武具が作り放題だ!」
なんかマリアがスゲー興奮してるんだがそうなん?
「ゴールデンゴーレムって確か魔法無効物理無効デバフも無効の3M(無理)魔物って呼ばれてるIP依頼の筆頭じゃないですか!」
コロロも滅茶苦茶動揺してるんだが……
「っていうかIPってなんだよ」
「インポッシブル、不可能依頼って意味です!」
なんか知らん単語がポンポン出てくるがもしかして冒険者って意外とインテリなのか?
「そんな奴をどうやって倒したんだよ、物理無効ってお前めっちゃ物理で戦うじゃん」
聖剣の攻撃と言えば拳と足と関節技だ。偶に斬ってるけど……まぁ物理だ。いや冷静に考えると剣が斬る以外の攻撃をするって明らかにおかしいんだが。
「それは勘違いです。厳密にはゴールデンゴーレムの耐性は自分よりも弱い者の攻撃の威力を軽減するというものなので、より強い者が攻撃すれば問題なく倒せます」
成程、レベルを上げて物理で殴ると。
「さぁ、お年玉の次はおせち料理ですよ」
「おせち?」
「新年に振舞われる特別な料理の事です」
へぇ、新年に振舞われる特別な料理ね。そりゃ美味そうだ。
聖剣が台所から運んできた料理をテーブルの上に並べてゆく。
「って、え?」
しかし聖剣がテーブルに並べた料理は……
「焼いた肉の塊と煮物?」
そう、おせち料理は俺が創造したものに比べる、あまりにもシンプルな料理だった。
「かつて、年が明けることを人々は世界が生まれ変わると呼んでいました」
料理を小皿に移して俺達に渡しながら、聖剣は語る。
「そして新年の料理とは、そんな節目の日に冬を越す為に溜めて来た食材をあえてこの日だけは贅沢に使う事で新たな世界でも沢山食べられますようにという祈りの儀式だったのです」
「へぇ」
そんな話初めて聞いたな。
「かつての時代に比べ今の世界は裕福な人が多いですからね。文明の発展と共に料理は美味になって来ましたが、元々料理とは食べられるだけでありがたいものだったのです」
「ブギャッ!!」
我先にと料理を食べようとしたマリアの頭に手刀を叩き込みながら聖剣は言葉を続ける。
「今日はそんな素朴ですが食への感謝が込められた料理を食べる事で、先人達が積み重ねて来た人の営みを感じようとこの料理を用意しました」
「お、おう、そうか」
聖剣の話を聞きつつも、俺は少しがっかりしていた。
いつもはなんだかんだ言いながら聖剣の料理は美味かった。だから今回も何かとんでもない者でありながら美味な料理が食べられるとちょっとだけ期待していたのだ。
まぁ、シンプルでも肉と煮込み料理なら不味い事は無いだろ。
では皆さんお召し上がりください」
「「「いただきまーす」」」
さっそく俺は肉にかぶりつく。
うん、塊が大きいから寧ろシンプルな方が肉を食っている感覚感覚感覚感覚がががががっっっ
「むがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
なななな何だこれ!? 何だこの味!? 何だこの旨味!?
言葉が口に出来ない。思った事が口に出来ない、この美味さを表す言葉が思いつかない。
「むがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
代わりに目から、口から、耳から、言葉に出来ない感情が光となって噴き出した。
どうなってるの俺の体!?
「~~~~~~~し、師匠……この料理は……!?」
流石冒険者、コロロはこれを食っても言葉を喋れるのか!
「これは終末龍エンドラグナロックを使った料理です」
「エンド……ラグナロック?」
「そう、年の瀬に現れ世界を終わらせる終末龍エンドラグナロックから獲れた素材のみで作った料理です」
待って、何か凄い事言わなかった?
「エンドラグナロックの素晴らしい所は全身が食材と調味料になる事です。肉は言うに及ばず、骨、内臓、髄液、爪、血液、唾液、皮、翼、ありとあらゆる部位が食用に使える究極料理素材なのです!」
待って、世界を終わらせるって言う枕言葉と一致しない内容なんですけど?
「古くより人々は終末を招くドラゴンを命懸けで倒す事で新しい年を迎えていました。かのドラゴンを倒さねば世界が終わってしまうので皆必死だった事でしょう。実際必死で戦っていたのを現地で見ていましたが」
見てたんかい!
「そして終末を招くドラゴンが居なくなり滅びを免れた世界を新世界と呼びならわしていたのです」
「新しい世界って比喩じゃなくマジな意味だったの!?」
あ、喋れるようになった。いやそれはどうでもいい。
「まぁ年末には復活するんですけどね」
「復活するの!?」
「年末に現れるドラゴンですからね」
この世界滅亡の危機に瀕し過ぎだろ!! あとちょくちょくネタを挟んでくるのやめろ。
「そう言う訳でエンドラグナロックの食材は大変美味で人気なんですよ」
どういう訳だよ! 世界に終末を呼び込む存在が人気になるなよ!
「毎年多くの猛者達がエンドラグナロックの食材を求めて我先にと挑み、その儚い命が失われる……のが風物詩なんですよ」
「嫌な風物詩だな!」
「ちなみにエンドラグナロックが一番美味しくなるのは12月24日の21時から翌日25日の3時までのごく短い時間です」
「えらく短いな。で、その時間を狙って狩人達も本気で狩りにいくわけか」
「ええ。もっともエンドラグナロックも一番狂暴になる時間なのでその時間を別名『生の六時間』と呼ぶこともあります。文字通り命懸けの狩りですからね。このように命懸けで狩りをする人達がいるからこそ、世界は今日も平和なのですよ。勉強になりましたね」
新年早々どうでもいい真実を知ってしまった。
げに恐ろしきは人の食欲ってことか……




