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第11話 聖剣の居ない町

「そう言えばさ、お前っていつ聖剣広場に帰るんだ?」


「貴方に恩返ししてからですねぇ。あ、おかわりよそいます?」


「あ、頼む」


 聖剣からお代わりを受け取ると、会話が途切れる。


「何でまたそんな話を?」


「いやな、お前が広場から居なくなったもんだから、町の売り上げが下がってるって話があったんだよ」


 この町は聖剣が観光名所になっていたからな。そりゃ聖剣が無くなったら聖剣を引き抜きに来る人間が来なくなって売り上げが下がるのは当然の事だ。


「今まではまだ聖剣が無くなった事が広まってなかったから人が来たけど、肩透かしを食らった連中が噂を広めて目に見えて客の数が減ったんだってよ」


 お陰で宿屋や食堂を経営してる連中が頭を抱えていたんだよな。


「はっはっはっ、良い気味です」


「聖剣の感想じゃねぇんだよ」


「何を仰います。所詮この町は私のネームバリューを利用してはってんしてきただけですからね。そりゃあ私が居なくなればこうなるのは当然ですよ。寧ろ新規の需要を作り出せなかった経営努力の無さを恥じるべきです」


「それを言われるとぐうの音もでないんだが……」


 問題はこいつが聖剣広場から居なくなった原因が俺って事なんだよ。

 コイツが他の誰かに抜かれて居なくなったのなら、俺も無責任に大変だなーで済んでたのに、コイツがウチに居座り続けてる所為でいつ聖剣の存在がバレて俺に責任の追及をされないかとヒヤヒヤしてるんだ。



「お前の暮らす町なんだし、たまには広場に戻ってやってもいいんじゃないか? 勇者に抜かれた訳じゃないんだしさ」


「私が暮らすではなく、私の周りに町が出来ただけですからねぇ」


「そもそも何であそこに刺さってたんだお前? 勇者が暮らしていた村だったからとかか?」


 でもそう言う話も聞かないんだよなぁ」


「当時の勇者が手当たり次第に問題事を押し付けられるのに嫌気がさしてたまたま立ち寄ったこの地で私を突き刺して失踪したのが原因ですね」


「そうだったの!? って言うか失踪!?」


「聖剣持つ勇者だから困ってる民を救ってくれるよなと貴族平民を問わず勇者に救いを求めました。純粋に救いを求める者も多かったのですが、勇者一人に対し、その数はあまりにも多すぎました。さらに大半の要望で勇者へ与えられる対価は感謝と名ばかり。更には勇者を良いように利用しようとする者も多く、心身ともに疲れ果ててしまったのが原因ですね」


「夢も希望もない」


「これでも人間の社会が他種族や魔物、災害などによって危機的状況にある時は殆どの者が心から救いを求めていたんです。しかし勇者が活躍して人間社会に余裕が出来てくると、余計な事を考える者が増えてきたのが原因でした。やはり人間は圧倒的存在によって滅亡直前くらいがちょうど良いと思うんですよね」


「最後が不穏過ぎる!!」


「いつしか勇者そのものが私さえあれば困難を解決できると縋るようになっていたのです。もうどっちが勇者なのか分かりませんね」


 聖剣本剣が言うのは痛烈な皮肉過ぎるんだよ。


「ですから、そろそろ頃合いなのかもしれませんね」


「って言うと?」


「貴方への恩返しが終わったら旅に出ようかなと」


「旅? お前が?」


 まさかの言葉に俺は目を丸くしてしまう。

 この町から聖剣が居なくなる!?


「ええ、元々この町にとどまっていたのも近隣の風景が良かったからなんです。私の趣味は日帰り旅行ですし」


「日帰り旅行!」


「今度の旅は長旅になりそうですね。道なき道を切り割き道を作り」


「切り割くな切り裂くな」


「野にあっては雨露をすすってのどを潤し」


「お前水飲まないだろ」


 あと葉っぱに付いた雨露を飲むのは止めた方がいい。雨露じゃなくて葉っぱに触れた虫や動物についた悪いものを雨露越しに体に入れてしまう危険があるからだ。

 いやそうじゃない。


「そうして、世界の美しさを堪能したところで、私が安置されるにふさわしい神殿と台座を作り安置されましょう」


「広場の台座お前が自作したのかよ!?」


「そうなんですよ。当時の勇者ってば、私を岩に突き刺して放置したんですよ、しかも野ざらしで! ありえないと思いませんか? 加工品なんですよ私。劣化を避ける為に雨風を凌げる場所に置くのは当然でしょう。まぁ私は神造物なので錆びたりしないんですけどね」



「じゃあ必要ないじゃん!」


「人間だって暖かいからと裸で歩き回ったりしないでしょう? それと同じです」


「うん、それはまぁ、そうだけど……」


「という訳で私の神殿は王都5個分くらいの広さを所望する訳です」


「神々の神殿よりもデケーじゃねぇか!」


「私は日々地上の平和の為に頑張っているんですよ。天界でゴロゴロ信者の信仰心を食っちゃ寝してる神々よりも豪勢な神殿になる権利があります」


「それにしたって大きすぎだろ! そんなに大きな神殿作って何するんだよ! お前を飾る場所以外何を置くんだよ!」


「侵入者と脆弱な勇者を試す為に致死級の罠や謎かけをしかけにしかけ、最奥に私を讃える本殿を作る予定です」


「それ完全に迷宮って言うんだよ! ダンジョンだよ! 最後に待ち構えるのは魔王なんだよ!」


「魔王の正体は聖剣でしたってサプライズですよね」


「絶望って言うんだよ!」


「はははっ、ナイスジョーク。さて、雑談はこんなものにして夕飯の仕込みでもしましょうか」


 もうやだこの聖剣。


「ところで、旅に出るってのは冗談なんだよな?」


「……今日は良いキングデスフェンリルのお肉が手に入ったんですよ」


「冗談なんだよな!?」

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