異世界から来る聖女は〜婚約者がいればよかったのに王子は罵倒したことを棚に上げて助けを求めるが友人の夫を横取りする趣味はないのですよと王弟と祝言を述べた〜
長年婚約していた男と婚約が白紙になり、婚約者のために使っていた時間を悠々と使っていた。
この国の王子と婚約していたのだが、今年になって聖女を召喚できるようになったらしく。
王城にある聖女召喚のルーンが光ったとかで、婚約があっさりなくなったのは我が家としても、王家を見限るのは十分だった。
代わりにと大公を差し出されたが、好みの男性だったのでやれやれと婚約した。
もちろん、婚約に対しては仕方なくではあるが今後人生を共にするのだからしっかり、相手側と相性を確認してお互いに愛し合おうと誓う。
その間にしっかり召喚の準備は着々と整っている。
それを大公と高見の見物をしている 二人。
もしや、予想外の聖女が出てきてまた婚約をと言われる前にそんなふざけた真似をされたくない大公とプレジローズは、大公と指輪を捧げ合う。
それが功をなしたと知ったのは召喚の日。
己も大公も地位は高いし、婚約白紙の理由になったのだからと召喚の場に来れた。
他にもたくさんいるから、簡単だ。
パァ、と光る召喚魔法陣。
「きた!聖女だっ」
王子が自分の妃になるから一番盛り上がっている。
それを白い目で見た我ら。
光が収まり、聖女の姿が顕になる。
「ぐぎゃ?」
第一声がそれだった。
フォルムはつるっとしている。
まるで虫の甲羅みたいに。
しかし、顔を見ようとすると手の爪が見えて、顔に行き着く頃には全員の悲鳴が響き渡り自分以外は逃げ出そうとしていた。
大公はこちらの手を引いていたが、プレジローズが逆に引き留めている。
それに、逃げよう逃げようと、言い聞かせてくるが首を振る。
プレジローズとて、歴代聖女の活動記録を読み込んだ。
それでわかったのは、今までしっかり役目を終わらせていったという記述ばかり。
「ぐぎゃあ?グギ?グギギ?」
言葉が通じなければ、しっかり召喚魔法陣が適応させてくれるので直ぐにはこの世界の言葉に翻訳してくれない、とも書いてあった。
「クロビス。落ち着いて」
プレジローズは言い聞かせた。
活動記録を読んだから、こうこう、こうなのだと。
「そうなのかい?」
「ええ」
それにしても、聖女が帰るか帰らないかは分からないがその間に聖女の立場を安定させるために婚約、結婚をさせるのは確実。
王子はこちらの婚約を白紙にしたとき、ずいぶん失礼なことを言っていたな。
お前より美人が来たらお前に悪いが、許せ。
元婚約者として今のうちに周りに笑われないように綺麗になったらどうだ?
頭も良ければ比較されるが僻むなよ。
力もあるだろうから、お前なんて周りにもう見放されるな。
といった、優越感にしか聞こえぬ言葉ばかりほざいていた。
「ぷっ。その王子がこの様か」
全ての言葉が王子に返ってきた。
それにしても、と聖女を見る。
どこからどう見てもエイリアン。
実はプレジローズは前世の知識を有しているのだ。
だから、あのフォルムを見て、宇宙人だと一眼でわかった。
例えば、この世界から地球に対してアプローチする魔法を使っているとなれば、確かに地球人限定というわけではないよねと納得。
地球人である必要はない。
「世界から招かれた聖女様、初めまして。私はプレジローズと申します。滞在は私の家でどうぞ」
「うん。分かった」
ちょっと翻訳してくれた。
握手ができるらしく手を差し出されたのでなんてことないように、手を出して受け取る。
「プレジローズ」
誰かの声が聞こえたけど、聞こえなかったフリをした。
そして、プレジローズの提案で聖女メテチが我が家にきた。
大公家を我が家というプレジローズと彼は結婚をしていたのだ。
王子に今回のようなことが起きた時に、盾にされないように。
作戦勝ち。
プレジローズはこちらの世界にくることを承諾したのは、ちゃんと利害の一致だと話してくれた。
それを聞いた一週間後、別人のように痩せた男が大公のうちにきた。
夫クロビスがどうするとたずねるので、クスッと笑って寛容な対応をしてあげようということになった。
宇宙人メテチはうちの大公家と王城をその身体能力で僅か数分のうちに移動できるので毎日のように通う。
半分はこの世界の知識を得るため。
半分は王子と過ごすため。
当たり前だが、今や王子とは婚約者でもう直ぐ結婚して夫婦になるらしい。
挙式にも呼ばれており大変楽しみにしている。
王子が応接室にいるので、会ってあげた。
プレジローズ一人な訳もなく、夫と護衛複数。
今回の状態を聞いて、変なことを言い出したり、やり出したりする可能性が膨らんでいったことを加味した結果。
「助けてくれぇえええ!!」
応接室に入って早々、挨拶もなく弾丸の如く吐き出された救援要請。
「王子たるものが礼儀なくして、恥ずかしくないのか?」
夫が悠然とプレジローズを守るように、腰を支えて言い返してくれる。
それにうっとりとなる乙女な自分。
王子はそんなことなんて気にしないと言わんばかりにこちらへ食ってかかる。
「バケモノと毎日毎日おぞましいことをさせられて!礼儀なぞ気にしていられるかぁあああああ!!」
うるさいので離れた。
「聖女様が召喚に応じたのは種族を増やすためなのですから、婚約者であり近々夫君になられる殿下のお役目では?光栄と言いはすれ、おぞましいなどと、この世界にまで来てくれたメテチ様に失礼ですわよ」
プレジローズは鼻で笑って元婚約者の今のおちぶれた様を見る。
今代の聖女が召喚に応じたのは異世界の存在があるというのなら、その種族を頼りに自らの種族をたくさん作りたいと望んで、召喚されたという。
契約は王子一人なのだ。
なので、王子一人だけが犠牲になるだけで良いというのならば、王も承諾するしかない。
「最悪なのはさらに!あのバケモノが産んだ子供の相手もさせられなくてはならんことだ!」
単一で産むメテチの種族は男がいれば平気で、血の繋がりはなんの弊害もないとお墨付き。
何十、何百の家族を作るのかはメテチの中にしかわからない。
王子は逃げられないようにメテチの聖女の力と契約により、がんじがらめにされている。
命を断つことも許されないとか。
そのため、王は第二王子を立てるだろうとこの国の貴族はみんな察している始末。
メテチでの失敗は、王子に婚約者か妻がいたのなら相手に選ばなかったと最初に言われたのだ。
「ふふ」
全部王子が早すぎる行動をしたせいだ。
それだけに終わらず、こちらを蔑みまくり貴族令嬢達を敵に回した。
勿論、新聞社にもお友達にもしっかり公文書を公開したので王子に救世の存在は現れない。
長年尽くしてきた我が家が蔑ろにされるのならば、それ以下の尽くしてきた者達の扱いなんて、察して余りあるものがある。
嫌いになったから婚約を白紙にしたのではなく、さらにいいものを手に入れてハンカチを捨てるように、婚約者だったプレジローズをあっさり捨てた。
それを容認する王家にも、疑惑と忠誠心の揺らぎが水面下でざわめいている。
それに、王子は身綺麗でないことは事実として広まってしまっていた。
どんな女でも絶対に触れたくない、今では不人気王子と呼ばれている。
毎日おぞましいこと、なんていうのをされているのも知らぬものはいない。
王だって王子と話す時はハンカチを鼻に当てて嫌そうしている。
メテチの種族の特性に産むための相手を取られないように特殊な匂いをつけるというものがあるらしい。
そのせいで王子は匂う。
今は風呂に入ったからか、マシなのだが近寄ると仄かに匂うのだ。
聖女メテチにはつけたりする理由がないので匂わない。
「王子、近寄らないでください。あと、もうそろそろ出てください。部屋に匂いが移ると掃除が大変ですから」
「貴様!不敬だぞ」
「はい?王弟たる私に不敬と今おっしゃいました?」
クロビスが言い返すと王子は悔しそうに歯軋りする。
今や王子は後継者を外されることが確定されている存在。
時期国王でもなんでもない。
「頼むっ!プレジローズ!私と婚約、してくれっ!このままでは私はあのバケモノに殺される!」
婚約白紙をせず、罵倒を好き勝手にしなければ再起の目はあったろうに。
「聖女様曰く健康的には寧ろよくなってると聞いてますけれど」
おぞましいと王子はいうが、宇宙人の遺伝子が王子にあるので逆に健康そのもので居続けるらしい。
匂いでマイナス、健康でプラス。
だから平気だと、メテチは元気よく笑っていた。
「匂いますので近寄らないでくださいませ」
プレジローズはさらに後ずさる。
こんなふうに今や王子は近づくと遠ざけられ、話し相手もいないらしい。
メテチは王子が罵倒をしていると知っているから、会話することはないと幼児扱いで語っていた。
王子は勿体無いことをしているのに。
彼女と友になったプレジローズは地球の話題がやはり合致して、宇宙の商品を融通してもらっている。
あと、メテチの星の技術により地球の品物を持ってこられる箱を貰い聖女は聖女だと納得していた。
「頼む!紙の上でいいのだ!」
表面上だけでも逃れたいと血走る瞳。
嫌悪がこちらに浮かぶ。
「王子。私が聖女の夫を取るなどという裏切りを、するわけがないです。王子のようにいとも簡単に自分の愛するものを捨てることもありません」
当て擦りに気づいたのか、王子の顔色が青くなる。
「すま、すまなかっ」
「あやまらないでくださいませ」
何か言おうとしていたが、今更過ぎたので聞く気はない。
ニッコリ笑う。
対する王子は見事な金色の髪色だったのに、どことなく肌の色が見えるような……。
「聖女様とのご結婚の式を大公夫婦共々、楽しみにしておりますもの。ねぇ?」
クロビスに問いかけると彼もにこりと優越感に浸った顔で頷く。
「王子には妻を手放すという幸運をくださる優しさを手ずから示してもらった恩がありますので、我らも含めて聖女様との愛の日々で国も国民もきっと、王子殿下には感謝しておりますよ」
「ひっ。いやだ、いやだぁあっ。助けてくれ、助けてくれぇ」
似たもの夫婦はわかりきっている王子の絶望しかない顔を見て、祝日になるだろう結婚式に着るドレスとタキシードについて、落ち目の男に語るのであった。
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