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第10話 命を懸けた交渉


 学校に行き、帰宅し、夕食を食べて風呂に入り眠る。


 ゲーム世界『ラスト・パラダイス』にログインした僕は、まず最初にステータスを確認する。


「────よし」


 HPとMPが全快しているのを確認し、冒険者ギルドへ向かった。

 受付で金貨を一枚支払い、短剣使いの冒険者『スズヨウ』を雇う。



「クソッ、……ガキの遊びに付き合わされるなんて、……こんなクソガキ、からかうんじゃなかったぜ!」


 スズヨウさんは不満げだ。


 

「まあ、そうおっしゃらずに────よろしくお願いします。スズヨウさん」


 僕は取り敢えず、挨拶してみた。

 これから、一緒に冒険をする仲間なんだ。


 友好的な関係を築くために、やれることはやってみよう。


 

 ────学校ではこんな風に喋れないけれど、ここはゲーム世界。

 相手がNPCということもあって、何とかまともな挨拶が出来た。



 ……。


「チッ、クソガキが、────さっさと行くぞ! オラッ!!」


 スズヨウさんは不機嫌そうにそう吐き捨てると、先頭に立って歩きだし村の門を通り抜け、外に出た。



 …………。


 僕が雇い主なんだけどなぁ……。

 ────まあいい、行先は『スライムの森』なので、方向は合っている。


 僕はスズヨウさんの後について、村の北西に伸びる一本道を進む。



 今日は『迷宮』スライムの森に入り、様子を見ておこうと思う。



 どんな敵が出現するのか、そして、どの程度戦えるのか────


 それが僕の、今日の課題だ。








 ザッ────



 スズヨウさんが、突然立ち止まる。

 


 ……っ!


 モンスターが、出たのか────?

 僕は戦闘体制に移行する。



 魔導士の指輪を嵌めている左手に、魔力で弾丸を作り上げ様子を伺う。



 ……。


 モンスターはいないようだが……?




 立ち止まったスズヨウさんは、僕の方を振り返り──

「ほれ、もういいだろ? 帰るぞ、小僧────」



 と言って、こっちに向かって歩き出す。



「────良くありません。まだ魔物と戦ってもいないじゃないですか?」


 僕が口答えすると、スズヨウさんは立ち止まり、『はぁ』と、くそデカため息をついて、頭を乱暴にかきむしる。


 そして、短剣を取り出し、僕に向ける。



「……あのなぁ、クソガキ。────ここいらに出てくるモンスター。……最弱の『ブルースライム』を倒すのに、俺はこの短剣で十五回攻撃する必要がある。────そんで、敵の体当たりを五度喰らえば、俺は死ぬ。……どういうことか、分かるか? 俺一人じゃあ、スライム一匹倒せねーんだよ。このまま進んで、魔物に遭遇すれば、俺は死ぬ。お前もだ────解ったか? ……村から出て、ここまで来たんだ。ガキの冒険なんて、これで十分だろう。……ほれ、さっさと帰るぞ」


 

 ……。


 そういうことか……。


 このゲームのNPCは、ちゃんとものを考えている様だ。

 


 『死にたくない』という感情があって、プレイヤーの無謀な命令には反抗する。


 この先に二人で進むには、彼を説得する必要があるらしい。

 


「聞いてください。スズヨウさん、僕には、魔物に対抗する力があるんです。……もう一度、言います。雇い主として命令します。この先に進んでください────」 


 僕がそう言うと、スズヨウさんの全身から殺気が滲み出る。



「解んねぇガキだな。お前、何なんだよ。魔法の使えない魔法使いに、何が出来るって言うんだ!! 勇者ごっこなら一人でやれよ。────俺はまだ死にたくねーんだ! 巻き込むんじゃねー!!」



 スズヨウは僕に短剣を向け、構えながら近づいてくる。

 ────脅しではない。


 彼は本気で、僕を殺す気でいる。


 

 ……。


 それはそうか、彼の中では──

 この『先に進んで魔物に殺される』か、それともここで『僕を殺して生きて村に帰る』かの選択なんだ。

 

 雇い主を殺せば、冒険者ギルドでどんなペナルティを彼が負うかは分からない。


 ────ただ、死ぬよりはいい。



 そう考えて、彼は行動している。

 ただ、こっちだって、引くわけにはいかない。

 

 僕はスズヨウさんが構えた短剣を狙い、ダークショットを放った。









 ────ドウッ!!!!!


 キィィイイイイインン!!!!


 

 弾丸が短剣に当たり、彼の手から弾き飛ばす。


 これでスズヨウさんは、丸腰になった。 

 僕は左手を銃の形にしたままで、彼に向け続ける。


「もう一度、言います。僕には魔物に対抗する手段があります。────僕の言う通り、この先に進むか……それとも、ここで死ぬか────選んでください。スズヨウさん……。」



 僕はこの時点で、本気で彼を殺す気はない────



 だが、スズヨウさんがまだ殺す気で襲って来るなら、ダークショットで迎撃する気でいる。

 

 その結果、彼は死ぬかもしれないが……。


 僕に躊躇は無い。



 向こうは本気で、僕を殺す気でいた。


 こっちも、相手を攻撃する覚悟で、交渉に臨む必要がある。


 …………。


 ……。





 僕たちは暫し、無言で睨み合う。

 そして────


「……わかった、先に進めば、いいんだな」



 スズヨウさんが降参し、北西へと進み出した。


 僕も後を追うように、スライムの森へと続く道を進む。


 

 スライムが出現した。

 スズヨウさんに襲い掛かる魔物を、僕が後方からダークショットで仕留める。


 一撃でスライムは四散した。



 僕たちはお互いに、無言で道を進む。


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