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遺跡探索2 這いずり回る冒険者  作者: 弓納持水面


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38/42

剣聖

紀伊視点☆二瓶視点☆カエデ視点です。


 火の精霊サラマンダー。

その姿は炎をまとうリザードマンに似ている。

その歩みは遅いが容易には近づけない。

その炎の吐息ブレスは直線的に伸び触れた者を焼く。


 既に冒険者が二人炎に包まれ死亡していた。

ハルピアを出る時、ロイターの街を出る時、それぞれ多くの冒険者を雇っていたはずが、今、側にいるのは二瓶ニヘイとカエデのみ。

腕を見込んだ門弟も魔狼憑きに、あっさり殺された。


 この旅では[正剣聖流]の道場に居ても分からない事を多く学んだ。

最強の刀術[正剣聖流]を修めても、人外妖魔が跋扈する世界では無敵ではない。


 各地を流浪し剣聖流を起こした初代剣聖の偉大さを改めて噛みしめる。

そもそも魔狼憑きに敗れ、ハーピーから逃げ惑う様な[正剣聖流]が最強刀術かどうかさえ疑わしい。


 実戦に即さない道場刀術に過ぎないのではないか?

初代剣聖の実戦の技を形骸化させ失ったのではないか?

最近はカエデの使う忍術の方が実戦向きに思える。


 サラマンダーが僅かに口を開く。

吐息が来る!

炎の吐息が私が居た空間を焼いた。(使1残24)

躱しきれ無ければ火達磨になって死ぬ。

だが何度か躱しているうちに、段々と間合いが掴めてきた。

それに生きる者が息ををする様に、吐き続けたり、連続で吐いたりは出来ないらしい。


 次の吐息まで、必ず間が開く。

その刹那を見切り斬る。

剣聖を名乗るにはそれぐらい出来なくてはならないだろう。


☆☆☆


 荒削りだが強い。所詮刀を持ち逃げした下女。

老剣聖に多少の手解きは受けていても、強さの根源は竜人の血であろうと侮っていたが違う。


 何とか間合いを取り二刀を[雲龍の構え]に構えた。すると下女も同じく[雲龍]に構える。

最初攻撃的な[不知火の構え]から斬り込んできたので、[不知火]に構えると踏んだのだが……。


「申し遅れた。某は[正剣聖流]師範代、二瓶ニヘイ


「[双月流]しなの」


 遅ればせながら名乗る。

確かに初代、二代の剣聖は[双月流]を名乗り剣聖流は俗称だった。

一刀を前に、一刀を上に構えたまま間合いを測るが恐るべき事に隙がない。


 初代剣聖が[竜人族の祖]が残した古文書から名付けた[雲龍]と[不知火]

古文書はリザードマン相撲の型としての記載だったと聞く。

初代剣聖はその型の精神を受け継ぎ、剣聖流の基本の構えを二つ定めた。


[雲龍]は一刀を攻め、一刀を守りに使う構え。

[不知火]は二刀とも攻めに使う構え。


 道場ではせんせんを取るなら[不知火]、せんを取るなら[雲龍]に構えよと教えるが、実戦では不意をつかない限り、先の先などはまず取れない。


 余程の実力差がない限り、相手を斬ったとしても死に際の反撃で自らも負傷する。道場では先に一本取れば、そこで終わりだが実戦は違う。

そして負傷は神官、司祭が居ても容易に死に繋がるのだ。


 道場では門下の竜人と立ち合った事も数多くある。竜人の弱点は、その能力の高さ故に研鑽が甘くなりがちな事と、竜力を使用する時に僅かな隙を見せる事。

門下の竜人は「竜力は意識して使う」と言った。膠着が続けば信濃も必ず竜力に頼るだろう。

その隙を、おこりを捉え斬る。

それぐらい出来ねば師範代は勤まらない。


☆☆☆


 鎌で斬りつけ、戦斧での反撃を躱した。ドワーフと()()()()()を繰り返す。

紀伊様はサラマンダーとの間合いをジリジリと詰めている。流石に無傷ではないが軽い火傷程度なら私の治癒魔法で癒せるので心配はない。


 師範代は下女と侮っていた信濃に気圧されている。隙を窺うつもりが、知らずに後に下っているのに本人は未だ気付いていないだろう。

そろそろ壁際に追い詰められている事に気付いて無理に斬りかかるか、私に助けを求めてくるか、するだろう。


 気合いの声が同時に二つ上がった。


 一つは紀伊様が踏み込みサラマンダーに斬りつける声、もう一つは師範代が奥義[十文字]を使い信濃に斬りつける声。

紀伊様の魔刀はサラマンダーを見事に消滅させ、師範代は断末魔も残さず真っ二つに絶たれた。信濃が竜力を使った形跡はない。


 師範代は最後まで侮りが抜けなかった様だ。師範代は考えたのだろう。

竜人は竜力を使うはず、そして其処に隙が出来ると。

しかし、私もそうだが使う必要がない相手に竜力は使わないし、使うと見せかけて隙を誘う事もする。

それに訓練をすれば、隙なく竜力を使う術が習得可能だと余り知られていない。


 圧をかけ、仕掛けさせ、後の先を取り斬る。師範代が門弟相手に得意にしていた戦法に自身が敗れた訳だ。


「[正剣聖流]紀伊」


 サラマンダーを斬った紀伊様が魔刀烈風を脇構えに構える。


「奥義[一之太刀]の構え……」


 師範代を斬った信濃が呟き二刀を[雲龍]に構えた。


 マズイ、二人を争わせてはならない。投降計画が水の泡になってしまう。

私はドワーフに鎌を跳ね飛ばさせ叫ぶ。


「参った!降伏する!」


 ゆっくりと両手を上げ膝まづく。もし、ここでドワーフが裏切ったなら私は死ぬ。まぁ逃げても、どのみちハーピーの餌食だろうが……。


「信濃!」

「紀伊様!」


 私とドワーフは、それぞれ叫ぶが二人は構えを解かない。互いに剣士として越えねばならない相手と悟ったのだろう。


 見たところ、信濃の闘気を紀伊様が受け流している。このままなら凪いだ状態にある紀伊様が勝つ。しかし仲間を斬られたドワーフが私を見逃すだろか?


 信濃が竜力を使った。予想通り隙なく使うすべを習得していた様だ。互いに滑る様に前に出る。


と。


 乾いた音がした。

紀伊様が前のめりに倒れる。胸の下から血溜まりが拡がっていく。

どこからともなく現れた女博徒の手に馬上筒が握られ煙がたなびいていた。


「17!」


「あーしの見立てでは負けだよ。あーしは仲間が、みすみす死ぬのを見過ごせない」


 信濃は一瞬、激高した声をあげたが、自らの負けを悟ったのだろう。両肩を落とし、うなだれる。


 私は立ち上がり、紀伊様の元に駆け寄った。心の臓を撃ち抜かれ即死している。

天賦の才を持ち、厳しい修練を積み重ね、[剣聖]を名乗るのに相応しい実力の持ち主でも、積み重ねのない女博徒の馬上筒で撃たれれば死ぬ。


 戯れ相手で愛情を持ったりはしていないが、私は紀伊様の肉体を抱きかかえ号泣した。

その失われた才を惜しんで。



剣術で免許皆伝の腕前になるには5歳ぐらいから初めて10年はかかると、何かの資料で読みました。

しかもある程度の才能がないとモノにならず、人を斬るには更に胆力が必要になると。


翻って徴兵された兵が人型の的に当たる様になるには半年はかかる。

人を撃つのは難しくない。

引き金を引くのと人が死ぬ事が繋がりにくいからと。


まぁライフリングのない馬上筒の弾が心臓に当たるのは偶然ですね。

17は当たりやすいヘソの上あたりに向けて撃ったはずですので。


私の黒歴史がまた1ページ。

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