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遺跡探索2 這いずり回る冒険者  作者: 弓納持水面


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33/42

兄、長い夜

ペプシ視点です。

 私と17がディッツさんの治療をしている間に魔族のヴァンパイアは灰になっていました。

いくつか聞きたい事があったのですが、もはや叶いません。

信濃が聞いた事を後程聞くしかないでしょう。


「ディッツ殿の血は止まったか?」


「は、はい、血止めの薬草が効きました。と、とはいえ、とても動かせはしません」


「それはあーしでも分かるよ。ペプシ」

 

 五人の内二人が重傷を負い、三人で急遽今後の方針の話し合いをして、二回目の不時露営フォースドビバークを決定しました。


 魔族の警備が気になりますが、17の予想ではディッツさんの護符の有効時間が過ぎても地下九階以下に警備は入らないといいます。

根拠は階段が粗末とはいえ壁で塗り潰してあったからだそうですが、私は懐疑的です。


 ただ現状、フールさんは目を覚まさず、ディッツさんは薬で眠らせているので選択肢はありません。


幸い、水、食料共に余裕があり、さらに水はフールさんが回復すれば手に入ります。

ここで体制を立て直さねば手記を残した[星明かり]と同じ道を辿るでしょう。



「フール殿を先に癒すべきだ」


「ディッツの方が重傷だって!」


 保存食を噛りながら、二人が言い争っています。

意識の戻らないフールさんか、衰弱激しいディッツさんか、どちらを先に治療するかは17と信濃の意見は分かれているのです。


 17はディッツさん、信濃はフールさんの優先を主張していて、それぞれの思惑は違います。

依頼の達成を確実にするならフールさんですし、冒険者としての経験に頼るならディッツさん。

私の見立てでは順番を違えても、どちらも亡くなりはしないのですが、二人には裏の意図があります。


 信濃はディッツさんが金銭的利益の為なら、フールさんを見捨てる判断をすると見ており、事実、依頼を達成するより、オリハルコンなどのフールさんの持ち物を奪った方が得られる利益は大きいでしょう。


 17は逆にフールさんが調査を優先するならディッツさんを見捨てると考えてます。

ディッツさんを見捨てるなら、ギリギリ護符の有効時間内に地上に戻れる計算が立つのです。

それに表面上は隠していますが、エルフとしてドワーフを嫌っている様子も見えるのです。


「どうする?ペプシ」


「あーしはペプシの判断に従う」


「あ、明日の状態を見て決めます。でも、ふ、二人を癒やさない限り、ここを動きません!」


 それで議論は終わりましたが、少し神経がたかぶってしまったのか眠れなかったので、一番最初の夜番に志願しました。

二人はグッスリと眠っていますが、生死がかかる状況でも争いが起こる事に悲しくなります。


 そして、私にも二人に言えない思惑があった事にも……。


☆☆☆


「もう目を覚まさしているんでしょう?兄さん」


 私が暗闇に声をかけると、首を掻き切られていた死体が立ち上がります。

その瞳は紅く蛍火が灯り、首の傷は既に塞がり初めていました。


「気がついていたのか、ペプシ」


「こう見えても、大地母神様の啓示を受けた下級神官ですから」


 私も立ち上がり、暗闇に歩を進めます。大地母神殿では顔見知りのアンデットこそ警戒すべきと学びましたが、現実はそうはいかない様です。


「見ての通り僕は死んだ。ベヌルは灰になったみたいだけど、他の皆んなは?」


「[星明かり]なら全滅しました。ソルダ村が、どうなったのかは知りません」


 親しい相手なら私の言葉は詰まりません。少しやつれ、そして人では無くなったとはいえ、目の前に居るのは探していた兄なのです。


「そうか……。しかし彼らが僕を見捨てた訳ではなかったのには安心したよ」


なんという、お人好し。

彼らは兄よりも探索を優先した。

決して良い仲間ではなかったはず。

でも、そんなところが兄らしい。

出来るなら、生きて会いたかった。


「今、私に神力は残っていません。もし兄さんが望むなら私も……」


「それはいけないよ。ペプシ。君には仲間がいて、君を必要としている。僕は一人で滅ぶべきだ」


私は泣き出しました。


 次に17を起こしても、信濃を起こしても、兄は()()()()()()()襲いかかるでしょう。

全てを打ち明け見逃してもらっても、兄はこの[聖域]から出る事は出来ず、永遠に留まる事になります。

それが、[永遠の神]に魅入られるという事なのです。


 泣きじゃくる私を兄は少し離れたまま、優しく見つめてくれました。

それは実際は僅かな時間だったのかも知れませんが、私には長い間そうしていた様に感じます。


「ベヌルの持っていた[ブックバック]のパスワードを教えるよ。魔力4のペプシでも使えるだろうし、色々有用な物もあるはずだ。例えばこれかな」


 しばらくして、泣き止んだ私に兄はようやく近づいてきました。

ヴァンパイアの紅い瞳が潤んで見えるのは気のせいでしょうか?

兄は古い本を開くと、パスワードを唱え変わった形の古びた短剣を取り出しました。


「これは聖剣[月あかり]。戦闘用ではなく、エルフが儀式をする時に使っていた物らしい。月光にかざせば神力を1蓄える事が出来る」


そう言って私に短剣を手渡します。

受け取ると確かに神力が蓄えられていました。


「ペプシ、それで僕を滅ぼせ。実は正気でいられる時間は少ない。こうしている間にも絶えず吸血衝動が湧き上がってきている」


 そう言うと、兄は少し苦しそうな表情をしました。

兄は少し下がって距離を取ります。


「兄さん、私には……」


「ペプシ、妹に滅ぼされたいというのは我儘わがままかい?」


兄は私をまた見つめました。

おさまったはずの涙が、また湧き上がります。

ですが、私は涙を拭くと兄の紅い瞳を見つめ返しました。

短剣を前に掲げます。


「大地母神よ、不浄なる我が兄キュリオを、滅ぼし給へ」(使1残0+0)


 短剣が光を発し、兄は優しげに微笑みました。

通常アンデットは浄化に抵抗する為、これぐらいの祈りと神力では滅ぼせません。

ただ、アンデットが滅びを受け入れているなら話は別です。


 兄の口が「ありがとう」と動いた気がします。

実際は何も告げられずに、兄は灰になりました。

私は冒険者になった一つ目の理由を果たしたのです。



 それからしばらく闇を見つめていました。

途中から途絶えていた17と信濃の、仲間達の寝息が再び聞こえます。

竜力にしろ魔力にしろ、ある程度眠らねば回復しません。


神殿では空の見えない地下では時間の感覚がずれると聞きました。

長い夜になりそうです。

ブックバック

本の形をした魔道具で、三次元を二次元に変換して収納出来る。

容量としては一ページに付き標準的背負い袋一つ分の荷物が入るが制限が多く使い勝手はそこまで良くない。

・魂持つ物、自立して動く物は入れられない。

 (生きている者はもちろん、アンデットもダメ。生きてなくても動く物はダメ)

・入口より大きい物は入れられない。

 (入口は開いた本の大きさまで)

・長く、はみ出す物も入れられない。

 (短剣ぐらいまで、小剣は無理)

・液体や気体を、そのまま入れれない。

 (水袋や壺に入っている必要がある)

・経年劣化はしない

・出し入れに魔力を1使う



私の黒歴史がまた1ページ。

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