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遺跡探索2 這いずり回る冒険者  作者: 弓納持水面


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牛頭人身

視点ペプシです。

「ま、前から、何か来ます!」

エントランスの奥から甲冑の擦れる音がします。

「いかん!」

私が叫ぶと同時にドワーフでリーダーのディッツさんが戦斧を構え前にでました。


[加速](使1残29)『突進』


 竜人風の甲冑を身につけ、十文字槍を持った筋骨隆々の牛頭人身の魔獣。ミノタウロスが頭を下げ突進してきます。


 ディッツさんは、そこにカウンターで合わせて斧を振るいましたが、僅かに間に合わず、胴に角が突き刺さるのを斧の柄で防ぐのが精一杯。


 ミノタウロスが、そのまま頭を上げると重そうなディッツさんの体が宙を舞います。一瞬の後、鈍い音と共に背中から床に叩きつけられ、体が跳ねました。


 ディッツさんは激痛と衝撃に息が出来ないのでょう。息苦しそうに呻きながら倒れています。そしてミノタウロスは十文字槍を私の方に横薙ぎに振るってきました。


「下がれっての!」


 後ろから17の声と同時に引っ張られ、同時にフールさんの放った矢がミノタウロスに向かい飛びます。

私は腰が抜けたように尻もちをつきました。

持っていたフレイルが槍であっさり斬られ刃が胸元を掠めます。

矢はミノタウロスに当たりましたが、甲冑で防がれてしまった様で刺さったりはしません。


[竜加速](使1残3)『十文字』


 信濃が飛び出し斬りかかり、ミノタウロスが槍を突き出し牽制します。

ミノタウロスと信濃は互いに殺気をみなぎらせ相対しました。



「ディッツさん!」


 私が壊れたフレイルを投げ捨て、手を差し伸べると呻きながら、立ち上がります。どうやら左肩の骨が砕けている様です。


「治療は後!奥へ!」


 フールさんの指示でディッツさんに肩を貸し、奥の扉を目指します。外にはまだハーピーが居るでしょうし、ミノタウロスと信濃の一騎討ちの攻防ははたから手が出せる状況ではありません。


「[扉よ。その掛け金を外し、我らを迎い入れよ]」[解錠](使1残7)


 フールさんが魔術で奥の扉を開けようと試みます。扉に手を当てエルフ語で詠唱をしました。


「[声紋認証失敗。汝、扉を開ける事能わず]」


 ですが、扉は開かず帰ってきたのは、()()()の言葉でした。

フールさんが悔しそうに扉を叩き叫びます。


「なんてこと!魔術式が書き換えられている!」


「フール!術式解析無理?信濃、押されてるし〜ヤバいんだけど」

17が尋ねます。


 通常の応酬なら、信濃の刀術が勝るようですが、魔力での自己強化したミノタウロスは暴風の様に縦横無尽に十文字槍を振るっていました。

逆に信濃が今だ攻撃を捌いている事が奇跡の様です。


「17、拾った儂の斧を寄越せ。ペプシ、砕けた肩の固定だけ祈ってくれ。時間を稼ぐ」


 ディッツさんがザックから出した痛み止めと、私の知らない黒い小さな丸薬を飲みくだしながら叫びました。


「え?い、今、治癒を……」


「無駄に神力を使うな!今は固定だけでよい!」


「だ、大地母神よ、この者の砕けたる肩を、固定したまへ」(使1残5)


 ディッツさんの迫力に負け、私は最低限の処置だけ、大地母神に祈りました。

しかし時間を稼ぐにしても、扉が開かねば万事休すです。


「フール、マジ無理?」


 17が、いつの間にか回収していた戦斧をディッツさんに渡しながら、フールさんに再び尋ねました。


「残念だけど。術式解析と変更は早くても二刻よじかんはかかる作業だから」


 いつも超然としているエルフのフールさんが、冷や汗を流しながら扉に浮き出た魔法陣に触れ、祈る様に眺めては何か呟きます。


「マジか。あーしの奥の手を使うしかないのか……」


「何かあるなら早くしろ!儂が加勢しても長くは持たん」


 ディッツさんが、低い声で雄叫びを上げるとミノタウロスに向かって走り去りました。17は大きく溜息をついた後扉に手を当てます。


「[扉よ。汝が主の声を示さん。その掛け金を外し我らを迎い入れよ。……『満席です〜』……」

[録音再生][解錠](使2残7)


 え!?。17が魔族語で詠唱した後、耳飾りに触れると雑音が入り、そして人間共通語で歌う様な声が流れました。まるで酒場の女主人が客に告げる様な声とセリフが。


「[失礼しました閣下]」

そう声がして、そして何かが外れる様な音がした後、扉が開きました。



 ミノタウロスが強化された筋力、スピードで、横薙ぎに十文字槍を振るいます。そこからの鋭い切り返しや不意に放たれる突きで、竜力が尽きようとしている信濃を翻弄。

闘気こそ衰えませんが、信濃から攻勢には出られません。


 そこに不意にディッツさんがほぼ片手で戦斧を持ち飛び込みました。利き腕ではない左腕は斧に、ほぼ添えているだけ。

ミノタウロスは斧を弾き、返した槍の石突きでディッツさんの左脇下を強打。肋骨が砕ける音が響きます。


「信濃!下がれ!」


 しかし、痛みを感じていないかの様にディッツさんは指示を出しました。

信濃は躊躇なく後退。私達の側に戻ります。


「フール殿、ミノタウロスに[火球]を」

そして、信濃は冷静に指示を出しました。


[高速詠唱][火球][煙幕](使3残4)

[耐火](使1残15)


 ミノタウロスに向け火球が飛び爆発。更に煙が立ち込めます。炎から現れたミノタウロスは無傷ですが、近くにいたディッツさんは火傷を負いました。

フールさんは巻き込む様に魔術を放ったのです。


 ですが、ディッツさんはタイミング良く、ミノタウロスから離れて、こちらに向けて走ってきました。言葉で、やり取りなく連携出来るのは流石です。が、ミノタウロスもこちらの狙いに気付きました。


「いかん!儂に構わず早く扉を……」

「滑り込めってえの!」

[加速](使1残14)『突進』


 ミノタウロスが頭を下げ後ろから迫ります。ディッツさんが閉まりかけの扉を滑り込みで、すり抜けました。


[高速詠唱][閉錠][強化](使3残1)


 17がすかさず扉を閉め、フールさんが扉に魔術を施します。信濃は万が一に備え抜刀したまま扉を睨みつけていました。


 扉向こうから鈍い音が響き、続いて扉を力任せに叩く音が響きます。ミノタウロスの咆哮が聞こえてきました。


「この先に階段があるはずです。その踊場で不時露営フォースドビバークをしましょう」


フールさんが17を見ながらそう告げました。

「閣下!」

店に入ってきた魔族がオーナーに急ぎ話かけます。


「冒険者の店の主人は〜閣下とは〜呼ばれません〜」

オーナーは下げた食器を洗い場に渡します。


「工房に侵入者です。配置していた仔牛は躱され第一障壁は破られました」


「チカカ02でしたか〜貴女の言う通り〜早期切開の取り出し〜促成飼育では戦闘力に〜無理ある様ですね〜経験が足りません〜」


「その件は博士には伝えます。しかし侵入者は……」


「ゴロスは〜ロールアウトしてますし〜大丈夫〜贈答用〜冷蔵庫組み立て中ですが〜」

オーナーは歌う様に話します。


「録画だけ〜よろしく〜」



私の黒歴史がまた1ページ。

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