修行不足
ペプシ視点です。
「トマレ!」
山道を進みオークの集落に近づくと、魔狼を連れた若いオークが近づき警告を発してきました。
リーダーのディッツさんが割符を掲げ玉蜀黍を運んできた旨を告げるとオークは近づいてきます。
いきなりは襲って来ないとは思いましたが、私は緊張に足が震えました。
オークを見るのは初めてですが、人間なら誰もが幼い頃から聞かされる魔王戦争の残虐な敵役はオークだからです。
「ボウケンシャカ?」
片言の人間共通語で話した後、若いオークは割符を取り出しディッツさんの割符と合わせました。
「マチガイナイ。アッテル」
割符を受けとったオークは小さな笛を取り出し口に当て吹きます。
甲高い笛の音が辺りに響くと魔狼が遠吠えをし、それが木霊の様に伝わって遠くに響きました。
「ナカマガ、トウモロコシ、ウケトリニクル」
どうやらオーク達は自らの集落に他所者を招くつもりはない様です。
オークに仲間が来るまでに聞いた話では、この先で間道は右に曲がり、北に進むらしく、西に直進すればオークの集落につく。
本来この道は山脈を越え魔族領に続く間道で、ランドルト街道と違い国境の関所がない為、税を逃れたい行商人が抜ける場合があるとの事。
「あーしはオークが、その行商人を襲ってる方に賭けても良いけど」
シーフの17が小声で呟きました。
冒険者も雇わない不用心な行商人はゴブリンなどに襲われても仕方ないですが、商品によっては冒険者を雇えるなら税を支払う方が安い場合が多いのではないでしょうか?
☆
「我々は貴方がたの集落のさらに西にある古の森を調べるために来ました。」
依頼人のフールさんが荷運びに来たオーク達に改めて話しかけました。
最初のオークは魔狼を連れて去り、今居るのは五体のオーク。
全員が鉈を下げていますが、一体だけそれに飾り紐がついています。
「我々は信頼なき者、集落に招かない」
先程のオークより流暢な人間語ですが、そのリーダーらしきオークは難色を示します。
「それに[惑いの森]、魔狼さえ惑う」
「集落を迂回する道はあるか?」
ディッツさんがフールさんの横から尋ねました。
リーダーオークはともかく、他のオークがエルフに対し敵意の視線を向けている様に見えたからです。
「道が北に折れる所、逆に南に行け、獣道を辿れば[惑いの森]に着く」
玉蜀黍の袋を持ったオーク達は黙って出発しました。
私達も道が分かれるまで同行しましたが、オーク達は終始無言で、一般に言われている野蛮さは感じません。
改めて世界を見て回りたいと言う気持ちが湧いてきました。
☆☆☆
夜
「ここらはオーク共の行動範囲だからゴブリン共は居ない」
ディッツさんの言葉に少し雰囲気が和らぎました。
未開の地で少人数の旅はゴブリンの襲撃と隣合わせで緊張を強いられます。
弱いゴブリンでも数と夜が味方すれば強敵になりうるからです。
竜人の信濃が玉蜀黍の粉と根菜、あと少量の塩ですいとんとか言う料理を作ってくれました。
本来は小麦粉を使うらしいので信濃は納得していませんでしたが、旅の中で温かい食事はそれだけでもご馳走になります。
少人数で旅する時に下手に良い匂いの料理を作るとゴブリンなどを引き寄せるので、どうしても保存食を温めて噛じるだけになりがちなのです。
今日はウンディーネを見張りに据え皆で休みます。
精霊は疲れず、眠らず、戦闘力も高い。
また視覚で見ている訳ではないので夜営にはぴったりです。
ただウンディーネの声が聞こえるのが主たるフールさんだけなのが難点なのですが。
☆
「助けて……」
ふと声が聞こえ眼が覚めました。
「助けて」
今度は、はっきりと聞こえます。
フレイルを手に取り天幕から出ました。
天幕の外では月明かりの下、ウンディーネが浮き光を反射しています。
そして少し離れた所に、ぼんやりと明かりが揺れていて、そちらから声が聞こえました。
「助けて、怪我をしてしまったの」
私は明かりと声を頼りに、そちらに進みます。
下級神官として怪我人は捨て置けません。
明かりに誘われるまま、四半刻半程歩いたでしょうか?
大きな岩があり、その岩陰に私と同じ大地母神神官の旅装をした人が座り込んでいます。
多分、修行中の[歩き巫女]なのでしょう。
近くに仲間はおらず神官着には血がべっとりついています。
「だ、大丈夫ですか?い、今、回復をかけます。」
私の言葉に座り込んでいた[歩き巫女]は美しい顔を上げます。
と、周りで数体の腐った人間とゴブリンの死体が立ち上りました。
そして[歩き巫女]も立ち上がり、こちらを見据えてきます。
「ありがとう。仲間がいれば寂しくないわ……」
え?
私は数歩下がりましたが、周りにはゾンビとスケルトン。
そして座り込んでいた[歩き巫女]の肉体は朽ちているのですが、立ち上がった[歩き巫女]は半透明で美しいままです。
[竜縮地](使1残9)烈風
突然、周りのアンデット達が崩れ去りました。
風の様に現れた信濃が全て斬り伏せたのです。
「逃げるよ!ペプシ」
いつの間にか現れた17に羽交い締めにされ、後ろに引きずられます。
「か、彼女を助けないと!」
私は叫び抵抗しました。
「馬鹿者!奴もアンデットだ!」
ディッツさんも叫んでますが、信用出来ません。
「どうすんの?ペプシ、完全に魅入られてるって、殴る?」
17が意味不明な事を話しました。
「悪霊はあの岩に括られているから離れれば無害になる!引きずって来い!信濃も適当に離れろ!」
「承知した」
ディッツさんの指示に信濃が頷き
「あーしは力仕事は担当じゃないっつうの」
17は愚痴ります。
私は17を振りほどこうとしましたが、全く持って振りほどけません。
[眠りの粉](使1残7)
頭の中に声が響きました。
何故かエルフ語だとわかります。
そして私は急速に眠りに落ちたのでした。
翌朝
「す、すいません」
正気に戻った私は仲間に平謝りに謝ります。
「修行が足りん」
「肝が冷えた」
「むっちりしてて、出るとこ出てるね、ペプシ〜」
「ウンディーネが役たたず、こちらこそ、すいません」
それぞれが反応を返してくれたが、申し訳なさでいっぱいです。
「お、お詫びに今日の夕食は私が作ります」
と申しでましたが……。
「……色々、修行が足りん」
「野性味があり、私は好きだが……」
「あーしは今日は保存食でよいし〜」
「二日続けて贅沢は出来ません」
あれ?
もしかして、私……?
私の黒歴史がまた1ページ。




