表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺跡探索2 這いずり回る冒険者  作者: 弓納持水面


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/42

辺境の村

信濃視点です。

 川辺での争いから5日。


 細い山道を歩く私達の前に玉蜀黍トウモロコシ畑が現れた。

階段状になった畑は良く手入れされているが規模は小さく、この先の村の人口の少なさを示している。


「ディッツ〜、あーしはペプシを少し休ませた方がいいと思うよ」


「無理をせねば、鍛えにならん」


 シーフの17がリーダーのディッツに進言している。

ロイターの街を出てから、神官ペプシは体調を崩している様だが、ドワーフのディッツは意に介していない。


 病であるなら、神官なら自力で治せると踏んでいるからだろう。

だが神聖魔法は慢性的な疲労は癒やせないし、明確でない病や()()()()()()は治しづらい。


「だ、大丈夫です」

真面目なペプシは気丈にもそう答えるが、見るからに無理をしている。


「村に着いたら数日休みを取りましょう」

見かねた依頼人エルフのフール殿が改めて提案した。


☆☆☆


 街道から外れた村に宿などなく、村長との交渉で村外れに天幕を張る事を許可された。

変わりに出された条件が、フール殿とペプシによる村人の治療。私の産まれた村もそうだったが、辺境の村には、神官や司祭どころか薬師さえも居ない事が普通だ。


 この村でも酷い怪我や重い病になると徒歩6日離れたロイターの街から神官を呼ぶとの事。

大抵は呼ばれた神官は治療ではなく、アンデット化を防ぐ祈祷をして帰るという。



「儂が見た記録では道の先にはオークの集落があるそうだが、今はどうなっている?」


 治療の為に訪れた村人にディッツが尋ねる。

村人は少し気まずい感じでオークの集落は健在で交流もあると答えた。

村人にはオークとの混血も僅かながら住んでおり、逆にオークの集落に嫁いだ者もいるらしい。


 魔族の支配地域ではオークの集落は認められているが、人間の支配地域ではゴブリンの巣と同じ扱いを受けるし、妖魔族のダークエルフからはオークは裏切り者の末裔として奴隷身分以外は殺される。オークの隣人である事は恥ずべき事と考える者は多い。


 私が学んだオークについての伝承は次の様に伝えている。


☆☆☆


 第一次魔王戦争以前、オークの諸部族はダークエルフ族と共に妖魔族を代表する一族であったと記録されている。

だが、世界統一を目指した[冠の魔王]の調略に乗りオーク諸部族の大半が魔王軍に寝返った。


 魔王軍側に付いたオークの諸部族は絶対数の少ない魔族に変わり、魔王軍の中核を成し、主力として世界を相手に戦いを繰り広げたという。

人間の街の多くが魔族ではなく、オーク達に蹂躙された。(※)


 そして異世界から呼ばれた初代勇者に魔王が暗殺され、魔王軍が瓦解すると反攻に出た妖魔と人間の連合軍にオーク達は徹底的に虐殺され急速に数を減らす。


 その時に味方であったはずの魔族には積極的にオーク達を支援する余力はなく、捨て置かれるか撤退の捨て駒として扱われ大半のオーク部族は滅びたとされる。

魔族に寝返らなかった数少ない部族の末裔だけが、ランドルト山脈にへばりつく様に血脈を保っているそうだ。


☆☆☆


「信濃、ディッツが天幕に集まれってさ」


 村に滞在して3日、私が村の周りを走っていると17が話かけてきた。

ペプシの体調不良も治り、そろそろ出発前の話し合いが持たれる頃合いだ。


 ペプシも別に体力がない訳ではないが、()()()()が重いらしい。

そこで無理をさせたので体調を崩したのだが、男性であるディッツは理解していない。

竜人である私には年に一度しか来ないので気にならないが人間は、だいたい月に一度は来るので人によっては大変と聞く。


「あーしは感心するよ。信濃って鍛錬を欠かさないよね」


 歩きながら17が軽い感じで話す。まるで鍛錬や努力を軽んじている様な態度だが、私も17が秘かに自重を使っての鍛錬を欠かしてない事を知っている。私がそれを指摘すると17は一瞬だけ真剣な眼をした後笑った。


「あーしのシーフには色々必要だからね」


 私は17を見た目通りの人物、ディッツの考える博徒くずれとは思っていない。

最近気付いたのだが、気配が常人とは違うし、まだ何か隠している気がしてならない。


 天幕に入ると17と私を待っていた様だ。

湯が沸いていて依頼人フールが入れた薬草茶を渡される。ペプシに飲ませた薬草茶の残りの様だが有り難くいただく。

街では白湯でさえ小銅貨が必要になるのだから、エルフの薬草茶は銅貨か下手すれば銀貨が必要になるだろう。


 口に含むと予想より美味しい。苦みの中にかすかな甘味と滋養を感じる。

こちらの反応を見て依頼人エルフのフール殿が微笑む。


「この先の進路だが、予定を変えオークの集落に寄る。村長から荷運びの依頼を受けた。フール殿以外には玉蜀黍の粉を二袋持ってもらう。」


 一服した後ディッツが進路とついで依頼の話を始めた。報酬は玉蜀黍の粉一袋、食料にして5人前10日分。

オークに見せる割符も既に貰い、フール殿の許可も得ているそうだ。

私達を呼んだのは確認に過ぎない。

だが、17は噛み付く。


「ディッツ、さらに荷物ふえるの?さらに現物報酬ってアホなの?銀貨にしなよ」


「報酬分の玉蜀黍の粉は17、お前の荷物に追加だ」


「ウソでしょ?もしかして、あーし嫌がらせされてる?」


「敵襲があった時、戦闘要員はなるべく身軽な方が良い。それに山中で銀貨は役に立たん」


 確かに店のない所では、銀貨はただの金属片に過ぎない。

それにゴブリンなどが出る可能性はあり、戦うなら持っている荷物は少ない方が良いのは自明だ。

だが、ディッツの独断専行が過ぎている面もある。

依頼を受けるなら事前に仲間にも一言あるべきだ。


「報酬分の玉蜀黍の粉は私が持ちましょう。必要なら、私の食べる分もあるのですから」


 フール殿が再び口添えしてくれたが、不満の炎は燠火の様に燻っている。


私はそっと溜息をついた。

(※)その名残りで今でも人間族にはオークの血筋が混じり、以前の人間族とは別の種になったという説を唱える魔族の学者もいるが、大抵の人間族の学者は否定している。


私の黒歴史がまた1ページ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ