冒険者の敵
フール視点です。
「あーしは強力じゃないっつうの」
歩荷で食料等を運ぶシーフが文句を言っている。
私を含め、それぞれに荷を背負っているが武器装備の少ないシーフの荷は多少多い。
だが文句を言える間はまだ大丈夫だ。
無言で少し遅れ気味の神官の方が体力的には参っているだろう。
最後尾の竜人は辺りを気にしている。
どうやら尾行が付いている様だ。
「ディッツ殿、小休止を入れないか?」
私の提案に先頭を行くドワーフは鼻を鳴らして首を横に振る。
「地図によれば、もう少し先に小川がある。そこでなら多少の数の差は気にならない」
どうやら尾行は想定内らしく、渡河地点での迎撃を意図しているらしい。
「17のファンだろう、困った者だ」
困った者が追って来るおのぼり冒険者の事なのかシーフの事なのかは分からない。
「数の想定はどのぐらいで見ている?」
呟いたドワーフに敵の数を尋ねると、15人前後と答えた。
ほぼ素人の集まりとはいえ、開けた所で戦うには少し数が多い。
「儂と信濃で引き受ける。」
「いえ、ウンディーネを出しましょう。」
私はドワーフの提案を蹴った。
敵にも味方にもエルフの戦闘力を教えておくのは悪い事ではない。
☆☆☆
「止まれ。余分な荷を下ろし、戦闘準備をする。」
少し進んだ先の小川には簡単な橋が架かっていた。
[射程に入り次第攻撃を開始します]
その上に出したウンディーネは中空に浮かび、姿を揺らめかせている。
「せ、戦闘準備。ご、ゴブリンでも来るのですか?」
荷を下ろし座り込む神官が不安そうな顔をする。
「ああそうだ、金を欲し人語を解するがな。17、本来ならお前の客だ。馬上筒を用意しとけ!」
ドワーフが仲間達に指示を出す。
神官には待機、竜人にはその直掩を命じた。
私も念の為、弓を準備する。
シーフは30センチ程の妙な筒に黒い粉と鉛の玉を器用に詰め込む。
「半分以上はあーしじゃなく、フールの客だっての。」
シーフがドワーフに負けじと呟く。
確かに魔都ハルピアでは人間に種付けたハーフエルフを販売する店があった。
それ以外にも薬物や魔術で自由意志を奪い我らの同族を奴隷にしている者がいるのは知っている。
[エルフは金になる]それが奴らの合言葉だ。
油断は出来ない。
「居たぞ!」
「エルフは生け捕れ、他は自由だ!」
予想に反せず、冒険者崩れの野盗達が抜剣し突撃してくる。
竜人は抜刀し、ドワーフは鼻を鳴らし戦斧を構えた。
待ち構えている相手に数任せで飛び込んでくるとは、戦術的にゴブリンと変わらない。
「なんだ?水が浮いてるぞ?」
[射程範囲、攻撃まで3.2.1 攻撃、開始します]
ウンディーネの冷静な声が頭の中に流れ放水が開始された。
もちろん超高圧で加速された水流なので、当たればただでは済まない。
水流を貫通させ、先頭にいた3人を即死させたウンディーネは何事も無かったかの様に浮いている。(使3残27)
さらに射程に入った1人を殺害すると、流石に野盗共も突撃を止めた。(使1残26)
「[ウンディーネ、掃討。目標は任せる]」
私はエルフ語で命じる。
「クソ!周り込め」
この季節だと、橋など無くても渡河可能な小川なので野盗は散開した。
ウンディーネに近づかれた不運な野盗は問答無用に貫かれたが、奴らは私さえ押さえれば勝ち目はあると踏んでいる様だ。
近くで乾いた音がした。
渡河していた2人組の1人が崩れる様に倒れる。
どうやらシーフが放った鉛の玉が当たった様だ。
「当たるじゃないか17」
「あーしが狙ったのは隣の奴!」
ドワーフとシーフが冗談の様なやり取りをしている。
竜人は威風堂々と立ち、神官は青白い顔をして杖の様なフレイルを握りしめているが近くに敵はいない。
無論、神官に敵が寄り付く様では負けなのだが。
結局、死なずに渡河してきたのはわずか1名。
それもドワーフにアッサリ両断され、戦闘らしい戦闘にはならなかった。
4〜5名は逃げ去ったが、再戦は無理だろう。
奴らがエルフを襲う愚を広めてくれれば良いのだが、人間の愚かさには底がないので期待はしない。
「乱戦では使うな、17」
「あーしは馬鹿じゃないっての!」
死体を集め僅かな戦利品を剥ぎ、祈祷を済ませると我々は出発した。
青白い顔の神官にドワーフが話をしている。
冒険者の敵の大半はゴブリンか同じ人間なのだと。
死体に祈祷をせずに放置すると、永遠の神に魅入られアンデットになる場合があります。
またウンディーネの移動速度は遅い為、防御には優れますが、攻撃には向きません。(開けた場所なら容易に逃げる事が出来ます。)
私の黒歴史がまた1ページ。




