在庫処分
ペプシ視点です。
朝。
天幕で目覚めると外に出て、汲み置いてあった水で顔を洗い口を濯ぐ。
冬にはまだ早いが水は冷たい。
「派手にやった様だな。商隊長がお前と17を連れてこいとの事だ」
ドワーフでパーティのリーダー、ディッツさんが苦虫を噛み潰したような顔で伝えてきました。
依頼人のフールは護衛に信濃を連れて、雇われ冒険者の合同朝食を取りに行っています。
水場に近いのと今日は出発が遅い為、ジャガイモを塩で茹でた物が出るはずです。
硬い保存食を噛じる日々では温かいだけでもご馳走なのですが……。
「おはよ〜ペプシ。ああこれペプシの取り分ね。」
いつの間にか天幕から出てきて顔を洗っていた17から小袋を渡されました。
開けると金貨が5枚も入っています。
この依頼の報酬総額が5人で金貨10枚。
大金です。
「こ、これ」
「気にしないでいいよ〜、その分とか経費引いても、あーしの収支は金貨換算で金貨28枚の黒字。5枚は種銭にするけど20枚以上は自由になるから。」
17は屈託なく笑います。
「やり過ぎるなと、釘を刺していたのだがな。ついて来い。」
私達はディッツさんに連れていかれました。
☆☆☆
「[鋼鉄の鍋]が参りました。」
商隊長の天幕前で護衛が取り次ぎます。
返事がして中に入ると、商隊長は自身の天幕内で食事をしていました。
もちろんジャガイモの煮た物だけではなく、卵や白いパンが付いています。神殿でもそうでしたが、貴族と平民、金持ちと平民は食べる物も話す内容も違う別の生き物です。
ただ商隊長は下級とはいえ魔族なので、見た目も含めて違うのですが……。
「17とか言ったな?素人相手から随分巻き上げたと聞いた。クレームが来ている。」
17は聞いているのか、いないのか、いつもの様に長い髪を弄っています。
「申し訳ない。儂の監督不行き届きだ。」
リーダーが黙っている17の代わりに頭を下げました。私も釣られて下げます。
「素人相手じゃないし〜行商人の若旦那はともかく、3番御者は、おたくの部下っしょ?」
17は雰囲気を読まずに呟きました。
商隊長が食事の手を止めます。
「それを言うなら契約中のお前も私の部下だ。部下どうしの諍いは私に決済権がある。それとも契約を破棄して出て行くか?5日分の日当の倍返し、それぐらいの銅貨は稼いだだろ?」
「待ってくれ。儂から良く言って聞かせる。」
リーダーが膝を付いて頭を下げます。魔狼の群れが近いこの場所で、商隊から追われるのは避けたい。
私も膝を付こうとすると、商隊長に止められました。
「ペプシ殿は下級神官であろう?神官は仕える神以外に容易に膝を付かぬものだ。」
確かに形式上は神官や司祭は世俗の権力者に頭を下げたり、膝を付かなくても良いとされています。ですが実際は余程の事がない限り礼儀として頭を下げますし膝もつきます。
「17、本来商隊内でのイザコザが発生した場合は契約解除が基本だ。」
「しかしロイターまで、後5日でもあるし、賭博に出禁処分だけで赦してやる。3番御者も別途処分する予定だ。後、これをお前に譲ってやろう。」
そう言うと商隊長は外に声をかけ、小箱を持ってこさせました。開けると最近流行りの妖魔筒が入っています。
ただ大きさは小さく30センチ程で金の象嵌などがされていました。
「[馬上筒]というヲタク工房の試作品だ。贈答用らしく雷晶石付き金具など高価な素材や装飾がされている。これを金貨5枚で譲ってやる。」
商隊長は笑みを浮かべながら告げます。
「え〜、それ10m先の的にも当たらない失敗作って知ってるし〜要らないんだけど……」
「だからだ。弾と玉薬はサービスしてやる。」
どうやら見た目は良いものの、高価な役に立たない物を買わせ罰金とするつもりの様です。
「買わせてもらう。17、金貨を出せ。」
「あ〜あ、最悪〜」
ディッツさんが答えると17は溜息と共に金貨を出しました。
「お買い上げに感謝する。」
商隊長は朝食を再開しました。退出を促され3人して外に出ます。天幕を退出する時に声が聞こえました。
「商隊長、よろしかったのですか?」
「被害者と同じ女性として、あの行商人のやり口には思う所があった。だが取引先から面倒みてくれと言われていて目を瞑っていたのだ。不良在庫が2つ処分出来たのは……」
ぐぅ~とお腹が鳴りました。
まだジャガイモが残っていると良いのですけれど
用語解説
[妖魔筒]
火縄銃などの先込め銃の事。
主にダークエルフの依頼でドワーフが生産している為に妖魔筒と呼ばれている。
[センチ][メートル]
以前の転生者が広めた長さの単位。
重さもキログラムを使用している。
ミスリル合金製のメートル原器、キログラム原器を魔族、聖王国、妖魔族、エルフ族が所持している。
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