夜営 前編
今年も後僅かですね。
ペプシ視点です。
ハーピー商会の商隊と共にハルピアを出発して5日。今の所私達[鋼鉄の鍋]は何事もなく北上を続けています。
商隊の馬車は荷馬車20台の雑馬車6台。ロイターより先の峠は雪深い冬は閉ざされるので、馬車の台数が多いです。
今年行き来出来るのも、後1ヶ月ぐらいでしょう。
商隊に便乗の行商人や冒険者は多いですが歩き巫女や旅司祭は居ません。やはり布教の為でも、私達人間が魔族領に向かうには抵抗があるのでしょう。また今回は魔狼の噂がある為か狙われ易い慰安馬車は付いてきていません。
「近くにいる狼共にも気をつけるんだな。」
リーダーのディッツさんにも言われているので、護衛冒険者の女どうしは、なるべくまとまっています。勿論、依頼人のフールさんも一緒です。
「中継地点のロイターまで残り半分。今日は早めに夜営に入るぞ。」
「へーい。」
商隊長さんの掛け声に馬車の御者や護衛の私達は返事をしました。馬車はゆっくりと坂を登って行きます。
☆☆☆
私達の取り敢えずの目的地ロイターは英雄ロイターの名前から命名された街です。
第一次魔王戦争以前は、ある伯爵家の領都だったのですが、その伯爵は魔族の侵攻を手引きした後に当主が戦死。
戦後は紆余曲折を経て、ハーピー商会の所有都市となり創業者にして英雄のロイターの名前が付けられました。
その創業者、英雄ロイターは初代勇者パーティーの一員で、勇者パーティーに入る前はイブスル王国の王都、現ハルピアで盗賊をしていたと言われています。
魔王討伐時に知り合った魔獣ハーピーのアナと共に商売を始め勇者達との人脈とアナの商才、また魔族との商取引で莫大な富を築きました。
英雄ロイターは既に世を去って久しいですが、不老不死の魔獣であるアナは今でもハーピー商会会長として辣腕をふるっています。
☆☆☆
「ペプシィ、何書いてるの?」
早めに夜営に入った為、パーティの天幕で夕食後書き物をしていると、17に話かけられました。
信濃は刀の手入れをしています。
見るからに魔剣なので、そこまでの手入れは必要なく見えますが、剣士の嗜みなのでしょう。
「し、手記を。ディッツさんに書く様に勧められて。」
「なら、もう終わるでしょ?あーしのチンチロに付き合ってよ。参加ダメなら出資だけでも良いからさ。」
17の言うチンチロとはダイスとカップを使った賭博です。飲酒が禁止されている商隊でも賭博は商隊長の名で多少は許されています。
その為、護衛冒険者や帯同する行商人の間で賭博が開催されますが、トラブルの元になる為、関わらない方が良いとディッツさんには釘を刺されていました。
「わ、私は……」
「ペプシ、17がやり過ぎない様に付いて行け。金の貸し借りは駄目だ。」
後ろからディッツさんに声をかけられました。
「さすリーダー話が分かる〜。あーし、ここ3日チョイ負けでさ〜。」
「おーい、嬢ちゃん。始めるぞ。」
「はい、はい〜」
外から声をかけられた17が返事をして出て行きます。私が戸惑っているとディッツさんが小声で囁きました。
「17は今日あたり、回収にかかるはずだ。やり過ぎない様に付いて行け」
私はフレイルを持って天幕を出ました。
☆☆☆
「嬢ちゃん、今日は時間あるから終わった後どうだい?」
壮年の御者が17に声をかけます。車座に座った4人の男達の間に17は座りました。
他に立ったままのギャラリーもいて、中央には陶器で出来たらしいカップが置いてあります。
竜の島で作られた茶碗と呼ばれる物の様です。
「あーしは妓女じゃないっての。」
17が適当にあしらうが、周りの男共は下卑た笑みを浮かべます。
「どうだかな?昨日丸裸にされた[おのぼり]ちゃんは、大勝ちした行商人の兄ちゃんに可愛がってもらったみたいだぜ。」
「だから今日は[おのぼり]ちゃん、来てないのか。兄ちゃんやるなぁ〜」
若い行商人の男が頭をかきました。妓女が来て居ない今回は買う相手が居ない為、打つ事が盛り上がっているらしいです。
ここ以外にも、いくつも車座があります。そして金がなくなれば違う物を賭けている様です。
17は大丈夫なのでしょうか?
「嬢ちゃん、後ろの神官様は?新しい参加者かい?」
「あーしの護衛だよ。あーしが大勝ちした時、踏み倒させないようにってね」
男達は大笑いしました。17も同じく笑うが、一瞬だけ目を鋭くします。
「嬢ちゃん、一回もプラスで終わってないじゃないか。まぁいい、神官様も参加したくなったら言ってくんな。鴨は大歓迎だ。」
全員がダイスを振り親を決めると、賭博が始まりました。
飲む、打つ、買う。
かつての娯楽はこの3つでした。
今は動画や、なろう、SNSなど娯楽は多様化してますが、それでもやはり上記は御三家でしょう。
ストロング、パチスロ、ホストやキャバクラと微妙に形は変えてますが……。




