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第95話

「まぁ良いか。ユエルは蒼の治療で戦線離脱、司は意気消沈……そもそも跋を失ったお前らの戦力は大幅ダウン……もう俺を倒して捕まえるなんて夢物語になってしまったな」


 隙だらけの三人を前に蓮は薄気味悪い笑みを浮かべる。


 順番に葬るだけとなったこの状況下で、最初のターゲットに選ばれたのは司だった。この中で最も來冥者として謎に包まれているのは司だ。少しでも存在する不安要素から先に排除した方が精神的にもよりゆとりを持てると言うものである。


 蓮は先程の失態を反省し、今度は確実に仕留められるよう斬撃の火力を最大値まで引き上げる。剣越しにその熱を感じた蓮は、これならば無防備の司を一撃で殺せるに違いないと確信し、ゆっくりと振り上げた。


 しゃがみ込んでいる司に対してその構えは、これから斬首刑を執行するかのような光景である。


「まずは司。お前から殺してやるよ!」


「……! 司くん、危ない!」


 勢いよく剣が振り落とされたのと、ユエルの声が重なる。


 今この一瞬だけでも蒼の治療を止めるべきか、いやそんな事をしても間に合いそうにない、だがこのまま何もしないでいると司は最悪死んでしまうと、あらゆる選択が脳内を一瞬で駆け巡る。


 本来そんな事を考えている間に司は即死級攻撃を食らう事になるのだが、ユエルはその思考ができてしまったが故に時間が遅く流れているように感じた。


 そして完全に虚を突かれた状態となったこの瞬間、ユエルと蓮は驚愕で思考が停止する事になった。


「……!」


 司に剣が命中するその直前に彼は右腕全体を後ろへと薙ぎ払い、裏拳のようにして蓮の剣を弾いた。予想外の出来事に蓮は翼を羽ばたかせて後退する。


 一体今の一瞬で何が起こったのかを把握するよりも先に、ユエルにはそれ以上に注目すべきポイントがあった。


「つ……司……くん?」


「……」


 司があれだけ秘匿情報として隠し続けていた彼の來冥者形態。今彼は一人の來冥者としての姿と思われる状態になっていたのだ。


 その容姿を一言で表現するなら陰陽師のような形態である。


 上は袖口が少しだけ広がった和風コートのような衣装を身に纏い、下はズボン状に股が割れているたっつけ袴という出で立ちだ。


 服の色は上下共に白を基調としたものであり、今の司の感情とは真逆の色となっている。


 髪は後ろで束ねられ細長い紐のように腰付近まで伸びている。これで札を持ったり縦長の帽子を被っていたりしたら完全に陰陽師だろう。


 蒼が殺されかけた事でようやく本気になったようにも見えるが、明らかに今の司は一人の人間として危険な状態に陥っていた。


「僕を殺す? やれるものならやってみろ」

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