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第93話

 一方その頃蒼は、蓮との戦いの場へと向かって息を切らせながら走っていた。


 司とユエルが蓮と激戦を繰り広げている事を予想してはいるものの、不幸な事に蒼はそれがどれ程の激しさかまでは把握してはいなかった。もしも把握できていたら今頃このように脚を動かしたりはせず、黙って二人の帰りを待っていただろう。


「はぁ、はぁ……あとちょっと……!」


 そろそろゴールなのではと思って走る速度を上げた蒼だが、ここで景色の変化に気が付いて動揺が広がった。


 地面にあいた巨大な穴、大規模な亀裂、粉々に壊された家――彼女の視界にはそんなものばかりが入った。まるで大地震が発生した後のような惨状である。


 更に高頻度で聞こえてくる爆発音は熾烈を極めた戦いが近くで行われている事を嫌でも認識させてくれる。


「 (お兄ちゃん……ユエルさん……!) 」


 最初こそやる気に満ち溢れていた蒼だが、段々と不安が膨れ上がってきた。今更引き返す気も無いので何とかその不安に押し潰されないよう自分を誤魔化しながら進む。やがて彼女の視線の先に、司たちの姿が見えた。


「いた!」


 蒼はジョギングペースに落として少し進むがその走る速度はますます落ちていき、やがて彼女は完全に立ち止まってしまった。


「……」


 ここまでもしかしたら自分でも役に立てるかも知れないと希望を抱いて走って来た。だがそんな蒼を待ち受けていたのは絶望だった。


 そこで繰り広げられていたのは異次元の戦い。これまでの自分が経験してきた戦闘は、本当に協会が全力で合わせてくれていただけの遊びに過ぎなかったのだと思える程に。


 先程から蒼の目に映っている蓮との戦いは、まさに一進一退だった。遠距離戦と近距離戦を交互に繰り返しながらの攻防はより激しさを増していく。


 距離を取った戦いになれば蓮が繰り出す嵐のように吹き荒れる風の刃を回避と破壊で攻略し、接近戦になれば幾度となく蓮の剣と跋の拳が火花を散らす。


 とてもあの中に混じって参戦するなどできそうにない。戦況判断力、個々が繰り出す攻撃の火力と速度、単純な來冥力――現状の戦闘を構成している要素の一つ一つがあまりにもハイレベルなのだ。一瞬でそう判断してしまう位には世界が違っていた。


 主人公補正の能力覚醒が急に発動しない限り、自分は恐らく一生蓮には勝てない。いや勝てないどころか勝負にすらならないだろう。


 こうして現実を目の当たりにした蒼は、司が何故あそこまで自分を遠ざけようとしたのかようやく理解できたのだった。


「 (無理だよ、こんなの。私なんかじゃ二人のサポートなんて絶対にできない……。寧ろ足手まといになっちゃう……) 」


 悔しさを噛み締めながらも蒼は来た道を戻ろうと振り返る。せめて邪魔だけはしたくない。そう思って司と約束した場所で大人しく待機しようと決断した、まさにその時だった。


 運悪く司とユエルよりも先に蓮が彼女の存在に気付いてしまったのだ。

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