第92話
答えを聞いた蓮はスッキリしたような顔になり、そして口を開いた。
「なるほどな。お前が登場した事で選択肢が格段に広がった訳か。だったら、これからはそれに沿った戦い方をしないとな」
何かを決意したような雰囲気を纏った蓮は一拍間を置き、そしてニヤリと笑った直後に何と彼の主力であるはずのガルムをこの場から消し去った。
元は蓮の來冥力で構成された生命体である為、彼の意思次第で出現と消失は自由に行えるのだが、一体何故今戦力を削ぎ落す事をしたのかは謎である。
蓮は空中移動生物のガルムを失った事でそのまま落下していくが、その途中で彼の背中から翼が出現した事で再び飛翔が可能になった。
その大きさと形状は先程跋に猛ラッシュを仕掛けた時のガルムの翼に似ている。跋くらいだったら全身を包み込めそうだ。
羽ばたく度に強風が巻き起こり、近付く事すら困難となっている。
蓮の容姿の変化は翼だけでは無かった。髪型はオールバックとなり髪は踵付近まで伸び、頭部にはヤギのように弧を描いたツノがあった。服装は銀色一色の上下となっており、腹部や太もも、足首、二の腕、手首付近がベルトで巻かれていて拘束衣のような格好だ。
更に手には神々しく輝く剣が握られていた。本当に同一人物かと疑ってしまう。
本来であれば驚くべき場面だが姿が変化するなんてこの業界では日常茶飯事だ。その点にいちいち動揺していてはラスボス役は務まらない。
司はここからが本番だと気を引き締めてから蓮に話し掛けた。
「ガルムを召喚しての戦いは、あくまでも戦法の一つって事だね。それが君の本来の戦闘スタイルか」
「ああ。ガルムだけで十分かと思ったが、お前らに対する認識と評価を改める。俺はな、司。自分と暦の為に、絶対にこの世界でお前らを殺さないといけないんだ」
異常なまでの意志を感じたユエルはこの世界に存在する一つの仕様に気付き、それを口にした。
「あなたが現実世界では無くこの世界に拘る理由は『異世界で死んだ者は異世界転生ができないから』ですか?」
「暦には本当に色々教えてもらった。この世界でお前らが死ねば、二度と今回みたいな異世界運用はできなくなる。だからさ……」
蓮は剣を握る力を強め、一直線の軌跡を描き跋の元まで急接近して来た。
「頼むから、俺たちの為に死んでくれよ!」
一刀両断を試みて振り下ろされた剣と突き出された跋の拳がぶつかり合った。衝撃波と突風が発生したその衝突は両者の鍔迫り合いへと発展する。
「逆ですよ。あなたと暦ちゃんの為にも、私たちは死ねません。ここで負けたらまた逃げられてしまう……。そんなの……絶対に認めません!」
拮抗の最中で腕を薙ぎ払って剣を弾いた跋は、逆側の拳で拳骨を落とす時のように腕を垂直に叩き落とした。
「うおおおおおあああああああ!」
気合いを限界まで注入した蓮は翼の雨覆部分から鋼鉄の巨木を発射する。七支刀のように枝分かれしたそれは見事に跋の拳を撃ち抜き、攻撃速度を緩める事に成功した。
「お前ら如きが……俺たちの邪魔をするな!」
もしもこの戦いに敗れたら自分と暦の人生がその瞬間に終了する。そう思った蓮は全身を殺意のみで満たし、狂ったように翼を羽ばたかせた。
発生した風は斬撃となり四方八方に襲い掛かる。無作為に地表も家も切り刻んで破壊していき、この世界もろとも司たちを消し去ろうという意思が伝わってきた。




