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第90話

「先輩! お待たせしました!」


 聞き慣れた声。今この場においては恐らくユエルにとって一番必要な人だろう。


「……! 司くん!」


 司が戻って来た事に気付いたユエルは満面の笑みを浮かべる。


 実を言うと彼の來冥者としての能力をユエルは未だに把握していない。どのみち今回の異世界運用で嫌でも明らかになると思っていたユエルはその時に知れば良いと考えていた。


 どんな性能を有しているかは知らないが、取り敢えず司が駆け付けてくれた。その事実がユエルに大きな安心感をもたらした。


 それにマキナからこっそり聞いた話によると、破片集めゲームで司はスピードで圧勝したらしい。それだけでなくユエルがマキナとの戦いで帯電した大剣を跋の拳で押し切ったが、あの時跋へのサポートを行ってくれたのがどうやら司との事。


 來冥者としての実力は十分に備わっていると判断して問題無いだろう。今ここでユエルが『治癒』に全力を注いでもガルム撃破に必要な火力補助は司が何とかしてくれそうだ。


 司は一度の跳躍でユエルが居る頭上付近までやって来る。そして肩車された人みたいな姿勢で跋の首付近に腰を下ろした。


「先輩、準備は良いですか?」


「はい!」


 細かい打ち合わせは必要無い。台本が存在しない臨機応変な戦闘を数え切れない程経験して来た協会所属の來冥者にとって、即興の協力バトルくらい朝飯前である。


「司が加わっただけで状況が変わると思ってるのか。トドメ刺せ、ガルム」


 ガルムの背中に生えている翼が一気に左右に伸びていき、最早翼が本体なのではと思える程に巨大化する。その大きさは両翼で跋を包み込めるレベルだ。


 やがてその翼は鉄のように硬化し、更に無数の荊が生え始める。まるで武器のモーニングスターがそのまま翼の形状になったみたいに。


 ガルムは広げていた翼を一直線上に高く上げる。そして目にも止まらぬ速度でそれを振り下ろし、拳の連打の如くラッシュを仕掛けてきた。


 跋は咬まれていない左腕で眩しさを防ぐ時のように翳し、防御の構えを取る。


 硬度と剪断力を限界まで高めた翼による連続猛打を受けてはさすがの跋も為す術無く一方的にやられるだけとなり、次第に防御に必要な体力も尽きるだろう。


 だがそれは今この場に司が居なかった時に訪れる結末だ。


「……!」


 しばらくして蓮は思わず背筋がゾクッとした。


 跋にダメージが入っていない。いや、正確には受けても即座に回復している。それだけならまだ『新星』と『召喚』に使用している藍色の球を『治癒』に配分し直して回復力を上げただけと予想できる。


 だがユエルの目を見てそれだけで済む話では無いと確信した。明らかに彼女は反撃する気満々といった目をしていたのだ。


「 (ふざけるな。何だ、その目は……? この状況を打ち破れると思ってるのか) 」


 そして蓮は僅かこの数秒後、自身の感じた嫌な予感が的中する事になると知る。


「……!」


 それはあまりにも突然の事だった。蓮の視界に入ったもの。それは見覚えのあるマグマのような色を帯びた球が三個ガルムに向かって迫って来る光景だった。

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