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第9話

「じゃ、じゃあ取り敢えず、よく利用しそうな所から案内していきます、ね」


 緊張と自信の無さからかいつも以上にぎこちない話し方になる。


「はい! お願いしますね」


 唯一の救いは司がそんな事を全然気にしている様子が無く、善意と敬意のみで構築された笑顔をユエルに向けてくれる事だ。その笑顔を見るだけでユエルはどこかホッとした気持ちになる。


 ユエルはそんな司にどこか感謝しつつも彼と一緒に様々な場所へと連れて行った。


 会議室や異世界管理室 (作られた異世界を管理する為の制御室) 、資料室、仮眠室などなど、ここで普段活動していく上で利用頻度の高い場所を中心に紹介していく。


 司は至極真剣な顔でユエルの説明を聞き、この一回で全てを覚えようと奮闘している。


 そしてユエルはと言うと、実際に口で説明している内容と脳内の思考が噛み合っていなかった。表では問題無く案内と説明を進めているように見えるが、その裏では人見知り特有の悩みが発動していた。


「 (どうしよう……研修室を出てから一時間……業務的な説明とそれに関する軽い質疑応答だけで雑談らしい雑談が一切無い……! さすがに次の目的地までの道中の時間が気まず過ぎる……!) 」


 案内したい場所に到着した時はユエルがほぼ一方的に説明をし、その説明に対してたまに司から飛んで来る質問に答える程度の機械的なやり取りしか行われていない。


 それ以外の業務外の会話はゼロであり、ユエルは内心やばいやばいと焦っていた。


 その心情は彼女の様子に投影されていた。顔は青ざめ、視線はやや下となっており、見る人が見れば体調が悪そうな様にしか見えない。


「………………」


「………………」


 この無言状態が続けば続く程、ユエルの焦燥感は増していくばかりだ。とは言え焦って頭を働かせても何か話題が出て来る訳も無く、冷めた空気が温かくなる事は無い。


「 (え、待って、本当に何話せば良いの? と言うか男の子って何の話題を振れば楽しんでくれるの? 分かんない分かんない分かんないよ、助けて琴葉ちゃーん!) 」


 いくら心の中で叫んでも状況の改善はされず、その度にユエルは絶望するのだった。


「あの、ユエル先輩」


「 (いくら司くんの性格が良くても、絶対今つまらない女認定されてる……) 」


「……? ユエル先輩? 聞こえてます?」


「 (あああ……こんな事なら普段から会話のネタ何個か溜めておくんだった……) 」


「ユエル先輩!」


「ひゃ、ひゃい! な、ななな何でしょうか?」


「あ、良かった。聞こえてないのかと思いましたよ」


 脳内の思考に没頭し過ぎたせいでユエルは司の呼びかけに全然気付けなかった。


 一体何を言われるのだろうか。ここまでユエルと同じく道中無言状態を貫いてきた彼がここで急に雑談を始めるとは考えにくい。

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