第88話
司が蒼を連れた直後。ユエルはようやくこれで『爆発』が使用できると一安心した。
光弾には追尾機能が無い事からこのまま避ければ自分は無傷で済むが、それは來冥者として、そして協会におけるラスボス役としてのプライドが許さない。ただでさえ蓮にままごと扱いされて良い気分はしていないのに、ここで逃げてしまっては残るのは敗北感だ。
正面から挑んでやろうと意気込んだユエルは、背中付近に常時浮遊している五個の藍色の球の内の一つを手にした。
ユエルの能力は五つあるが、どれを使用するにしてもこの球が必要になってくる。一つの能力に複数個の球を使用する事も可能であり、多く使えば使う程高性能になる。
つまり複数の能力を同時に使いたい場合と一つの能力を極限まで高めて使いたい場合とで、状況によって使い分ける事が可能なのだ。
現在は『吸収』の役目は終え、『召喚』のみを使用している最中だ。そして『召喚』には球を一つ使用している。つまり自由に使える球は残り四つとなる訳だ。
「 (『爆発』とアレがぶつかったらどれ程の衝撃が起こるかは分からないけど、『新星』で何とか耐えてみせる……!) 」
意を決したユエルは球を真上に放り投げ、それが落下して来たタイミングでバレーのスパイクのように思い切り右手を振り落とした。それと同時に彼女と連動しているであろう跋も同様の動きを見せ、ピンポイントで球が跋の手の平に命中する。
黄色と赤が混じり合ったような灼熱色へと変化したそれは勢いよく光弾へと向かっていき、そして遂に真正面からぶつかり合った。
激しい爆発音と爆風、衝撃が瞬く間に広がり、蓮は思わずガルムと共に空中へと退く。高い來冥力を有していなかったら体が蒸発してこの世から消えていた事だろう。
水爆が発生したかのような大爆発のおかげで鯨夢の都は半壊してしまった。
やがて煙が消え始め、ようやく辺りの惨状を視認可能なレベルまで視界が開けていく。
蓮は苛立ちながらもユエルと跋の姿を確認しようとするが、先程まで居た位置に彼女たちは居なかった。
「チッ……あのガキとマネキン、どこに……」
舌打ちしながら辺りを見渡すが見当たらない。実はこの時、蓮が確認していない箇所が一つだけあった。それは上空。
蓮よりも早くガルムが野生の勘で『それ』の気配を感じ取ったのか、急速に体を回れ右して一八〇度回転させてから斜め上を見上げる。
必然的に蓮の意識もそちらに割かれる事になったのだが、そのおかげでユエルと跋の居場所が特定できた。彼女たちは上空からミサイルの如く突進して来たのだ。
先入観から跋は召喚されたらその場から移動不可となる生命体かと蓮は思っていたが、跋の体が出ている巨大な球は『跋の体を出したまま』移動可能なようだ。
球から上半身だけを出して空中を躍動するその姿は、下半身がバランスボールとなったランプの魔人みたいだ。
「……!」
どれだけ蓮が余裕を持ってこの戦いに身を投げたとしても、予想外の事が起これば動揺もする。
「あなたの召喚生物がどれだけ凶暴で力強くても、私の跋だったら……!」
ユエルは藍色の球を二個ずつ『新星』と『召喚』に配り、強化版の跋でガルムに空中戦を挑む。




