第85話
同系統の能力を持っていたユエルにはその光景を見ただけで何が起こったのか分かったようだ。
「司くん……今のは召喚生物のステータスを強化する能力ですね。私の『新星』に近しいものです」
「その通り。こうなったこいつは無敵だ。ままごとの戦闘しか経験していないお前らに、勝ち目なんか無いぞ」
蓮の意思を受けて三人目掛けて大きく跳び上がったガルムは、前脚の太く鋭利な爪を豪快に振るった。だがその一撃はユエルが一瞬で召喚したレディースマネキン型怪物の突き出された拳と激突した事で相殺され、彼の不意打ちは失敗に終わる。
ガルムも大きな生物だが、ユエルが召喚した生物はその比では無い。それなのにお互いが放った攻撃の威力は同等となると、バフがかかったガルムがどれ程の破壊力を秘めているか想像に難くない。
「この子は私の召喚生物で、名前は跋って言います」
マキナとの戦いで主戦力として活躍したマネキン生物――跋は、あの時と同じく地面に展開された大きな球から上半身のみを出していた。相変わらず全身ツルツルののっぺらぼうで異形の生物と呼ぶ他ない。
「……」
せっかく自分と似た能力を目の当たりにしたにも関わらず、蓮は跋には興味無いようで斜め後ろに飛び距離を取る。そして間髪入れずにガルムは全身からクナイのような形状の刃を何十、何百と上空に放った。その直後、一気にそれらを跋と蒼に対して猛スピードで飛ばす。
「……ッ!」
雨のように降り注がれる無数の刃を前に蒼は硬直して動けない。
まだこの急展開に脳の処理が追い付いていない蒼だが、蓮がこれまで戦ってきた敵とは殺意の度合いが桁違いの人間という事は感じていた。そして彼が協会の用意した人間などではなく、本気で殺しに掛かってきている事も。それが原因で未だに体が強張って思うように動かせないのだ。
「蒼!」
司は蒼をギュッと抱き締めてクナイの豪雨に背を向ける形で彼女を守る姿勢に入った。
來冥者としての身体能力を活かしてその場から離れた方が良かったのだが、何が何でも蒼を守りたいという思いが働いて思わず防御の選択肢を取ってしまった。
「……!」
恐らくこの場にユエルが居なかったら今頃司の全身には刃の嵐が突き刺さり、無事では済まなかっただろう。
跋や蒼どころかこの周辺一帯に対して無造作に襲い掛かった刃は、一つ残らずユエルが放った『吸収』によって吸引され、人も家も地面も全てが無傷で事なきを得た。
「あ……」
重力に逆らって旋風に吸い込まれるが如く刃が一点に吸収されていく光景を見ていた蒼は、思わず声を漏らす。
「……! 蒼! 大丈夫? 怪我してない?」
「う、うん。私は大丈夫。ユエルさんのおかげだよ」
「え……?」
蒼から手を離して何が起こったのかを把握する為に振り返る。




