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第83話

「だけどあのマキナとかいう女、仕事の熱量が途中で変わる可能性があるから信用ならないみたいな話を帰る途中で小耳に挟んでな。もしかしたら俺が直接司の友達である兄貴に聞いた方がよっぽど情報を得られる可能性が高いかも知れないって思ったんだ」


 恐らくは探偵署から帰る時にあの立てこもり事件現場に兄が居る事に気付き、近付いてはみたもののそこで司と運悪く遭遇した訳だ。そして思わずその場から離れてしまったのだろう。


「でも司の事を嗅ぎ回る理由を知られたくなかった俺は仮面を着けてバレないように接触したものの、正体がバレてな。もしもそれがキッカケとなって色々調べられ、結果そこの女の事件に繋がったら面倒だろ? だから殺した」


 感情が込められていない冷たい刃のような声。血の繋がった兄を殺した事に関して何も思うところが無く、自分の目的達成のみを考えて生きているようだ。


「……ッ!」


 いよいよ理性で抑える事に耐えられなくなったのか、司が蓮に向かって足を一歩前に出そうとした時だった。


「あなた、最ッ低です!」


 蓮の言動についに我慢できなくなったユエルが珍しく大きな声で糾弾する。その声に司の動きがピタリと止まり怒りで沸騰しそうだった頭が少しばかり冷えた。


 だがそんな司とは対照的にユエルは段々ヒートアップしていく。


「そんな自分勝手な理由で蒼ちゃんと空久良さんを殺したんですか!? どうして……どうしてお二人は死ななければいけなかったんですか? 蒼ちゃんには協会での新しい生活が待っていたのに、それを無惨にも奪われて、空久良さんも訳が分からないまま実の弟に殺されて……こんなにも残酷な事が起きたのに、何であなたはそんなにも落ち着いているんですか? 自分が何をしたのか分かってるんですか!? 私は……私は、絶対にあなたを許しません。必ずあなたを捕まえて罪を償わせます!」


「ユエル……さん……」


 ついさっき出会ったばかりの少女が何故こんなにも自分の為に怒ってくれるのか。


 司とユエルの関係性がイマイチ分かっていない蒼だったが、そんな事は最早どうでも良いと思えるくらいに嬉しい気持ちで満たされた。


 この虚構の世界で初めて会った自分の為に、ここまで感情を剥き出しにして怒ってくれた事が蒼には嬉しかったのだ。


 だがユエルの声も蓮には全く響かず、相変わらずロボットのような無感情な様子で淡々と話し始めた。


「別に俺は誰かに許してもらう気は無い。そして捕まる気も、罪を償う気も無いね。俺にとっての『世界』には自分自身と暦しか居ないんだ。その『世界』の脅威になり得る存在は、片っ端から消す。……俺がここに来た目的、もう気付いてるだろ?」


 明らかに蓮の雰囲気が変わった。


 距離が空いていても肌で感じ取れる程の圧倒的な殺気。普段のユエルなら怖気づいて怯むところだが、今の彼女にそんな気配は微塵も無い。


 人を二人も殺して何も感じていない異常者を絶対に牢政で断罪させる。その確固たる意志がユエルから恐怖心を簡単に取り去ってくれた。


「君の目的は僕たちを殺す事だろ? 蒼殺害の真実が明かされたんだ。君だけじゃなく暦にも罪があると判明した今、彼女を守る為に君が起こす行動はただ一つ――口封じだ」


 司は話しながら歩き、蒼の隣までやって来る。


 それと同時に蓮は大きな声で彼の戦闘における要とも言える存在の名を口にした。


「……分かってるじゃないか。ガルムッ!」


 彼の叫びに呼応するように上空から突如として咆哮が聞こえ、その生物は翼を羽ばたかせながら暴風と共に下降して来た。やがて蓮の傍に着地し三人の標的を睨みながら再度鼓膜が破れそうな程の雄叫びを響き渡らせる。

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