第82話
蓮が兄を殺した事は知っている。だが彼の犯した罪はそれだけでは無かった。三年間も野放しになっていた蒼殺害の犯人でもあった真実を簡単にすぐ受け入れられる程、心の準備はできていない。
同意を求める蓮の言葉の後に少しの沈黙が訪れたが、司の震えた声でようやく静寂は打ち砕かれた。
「今……何て言った……? 蒼を殺した犯人が、蓮……?」
「ああ。どうせお前ら三人ともここで俺に殺されるんだ。教えてやっても良いか。お前らも知ってる暦って奴は俺の恋人でな。そいつが蒼を殺そうとしたんだ。ここまでは多分把握してるだろ?」
恐らく既に蒼から聞かされているであろうと予想していた蓮は、彼らが知っている前提で話を進めた。正確には恋人関係部分は把握していなかったが、暦と親しげな関係と聞かされていたので恋人の線は割と予想できていた。
「実際はただ気絶していただけだったが、暦は本当に自分がやってしまったと勘違いしてな。泣きながら俺に相談して、取り敢えず二人でモデルNのどこかにでも埋めようとしていたところ、蒼が目を覚ました事に気付いて、思わず殺しちまったって感じだ。あーあ、こんな事ならモデルNに連れて行ってから殺しとけば良かったぜ。異世界で死んだ人間は異世界転生できない……これをもっと有効活用してればなぁ」
「……」
何故蒼は殺されたのか。
その疑問に対する答えを追って牢政を捨て転生協会にまで来た司だが、寧ろ強く思う事になってしまった。何故蒼は殺されたのかと。
司は声こそ荒げたり飛び掛かったりしないものの、間違いなく怒りは湧いていた。蓮を鬼の形相で睨み付け、拳は固く握り締められ震えていた。
「酷い……」
ユエルは思わず声を漏らす。探偵作品ものでは殺された被害者にも恨みを買われる相応の理由があったりするが、蒼の場合それが一切無い。暦には嫉妬で殺されかけ、蓮には騒がれると面倒だと思われて殺された。司も蒼も落ち度が一切無い本当にただの被害者だ。
だがそんなユエルの悲しみの声を聞いた蓮には後悔や反省といった様子は見られず、寧ろ開き直った様子で反応した。
「ああ、自覚してるさ。でも仕方無いだろ? このままじゃ暦は逮捕されちまうし口封じで殺すしかなかったんだよ」
あまりにも身勝手な動機を前に絶句したユエルだったが、蓮はそんな事を気にしている様子は見受けられない。
「とにかく俺はどんな手を使ってでも暦に疑いの目が向かないようにしたかったんだ」
「蓮……君がお兄さんを殺した理由は……?」
司は努めて冷静に質問をする。少しでも気を抜いたら今にも感情に任せて殴りに向かいそうだ。
「決まってるだろ? 顔を見られたからだよ。それ以外に理由は必要か?」
「それだけの理由で……君は実の兄を殺したのか……?」
「ああ。アイツに顔を見られたのは予想外だったよ。蒼と名字が同じ兄貴らしき奴がラスボス役に任命されたと知った暦が俺に相談したのが全ての始まりだった。俺は司が何者なのか、何で協会に来たのか、調査を探偵署に依頼したんだ」
以前マキナが空久良と名乗る男から司の調査を依頼されたと聞いたが、やはり男の正体は蓮だった。そしてその目的は蒼の異世界運用に司が携わると知った暦の相談を受けた蓮が、司の真意を把握する事であった。




