第81話
「 (おかしい……予定ではこの辺りで蒼の仲間が駆けつけて来るはずだけど……何で誰一人来ないんだ?) 」
「 (嫌な予感がする……私たちが知らない何かが動いているような……) 」
二人が妙な胸騒ぎを覚えている中、遂に『彼』が正体を現した。
「やっと見つけた。ここがこの世界の、ええと、ラスダン? って言うのか? あんまそういうの詳しくないから合ってるかは分からないけど、とにかく見つけられて良かった」
男性の声が聞こえて蒼は体ごと振り返った。そして司とユエルも蒼と同じく彼の姿を視界に捉える。
「「「……!」」」
三人に稲妻のような衝撃が走った。
その男は蒼の前方十数メートル付近で立ち止まりニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
くせ毛に、気怠そうな目。黒のパーカーにジーパンという出で立ちで、フードを被っていた。これでマスクでもしていれば不審者に間違えられて職質を受けてもおかしくない。
いや、そんな身バレ防止変装をしなくとも鋭い人なら通報している事だろう。何故ならその人物は全国に大々的に報道されている人物であり、指名手配中の男だったからだ。
「初めまして。空久良蓮だ。と言っても指名手配で顔バレはしてるし、知ってるか」
律儀にも自己紹介をする蓮。
「……っ……」
主人公を相手に激戦を繰り広げてきた転生協会の來冥者であっても、來冥者の殺人犯を相手にする事はまず無い。
故にユエルは恐怖心で満たされた。今自分たちの目の前に立っているこの男が指名手配中の殺人犯という実感が湧いた瞬間に心臓の鼓動は早まり、まるで石化されたかのように満足に体を動かせない感じがしたのだ。
蓮はそんなユエルの動揺など全く気にしていない様子で司に話し掛ける。
「それに司。お前とは二回会った事あるし、今更だな」
話し掛けられた司は一度だけ軽く深呼吸をして冷静さを取り戻す。
「どうやって侵入したか知らないけど、まさかここで君に会えるなんてね。それにしても、今二回って言った? 君に会った回数は、昔君の兄に紹介された時の一回だけだった気がするけど」
「あーそう言えば二回目はマスクも付けてたし、ロクに顔も合わせずに俺が立ち去ったから覚えてないか」
「……。……あ……! 立てこもり事件の日の……!」
「思い出してくれたか。あの時はまさかお前に会えると思って無かったから、驚きのあまり逃げるように去ってしまったけどな」
立てこもり事件のあった日、司は現場に近付いた際に一人の男性と肩同士でぶつかってしまった。あの時の男性が蓮だったのだ。
一応は空久良繋がりで過去に知り合った関係である為、その時に気付けたら良かったのだが最初に出会ってから二年は経過している事に加え、フード+マスクという恰好、一瞬しか顔を合せなかったという状況下ではさすがに無理がある。
それにあの時は蓮が指名手配される前の出来事であり、彼の事など頭の片隅にも置いていなかったのだ。
「そしてそちらのお嬢さんは……はは、俺の事覚えてるか?」
「……私を……殺した人……!」
「へ~死んでから時間は経ってるはずだが、さすがに記憶は残ってるのか。面白い。まさか異世界転生にこんな使い道があるとは。これを有効活用しないとは、犯罪者の味方をしているとしか思えないな、転生協会は。なぁ?」
まるで当たり前かのようにサラッと語られた事実に司とユエルは言葉を失った。




