第79話
「ここに住んでいる人はね、いつ世間にバレて集中砲火されるか分からない恐怖と戦いながら過ごしているんだ。こんな場所に蒼を置いておきたくはないんだ。今すぐ帰りなよ」
「いきなりそんな事言われても……! それに私はまだ聞いてない! 何でお兄ちゃんがここに居るのか! どっち? 協会の人間として居るの? それともお兄ちゃんも死んでこの世界にやって来た転生者なの? 教えてよ!」
このようにストレートに質問されるケースも当然想定内だ。ここで変に隠してしまっては逆に怪しまれ、ラスボスなのだろうと思われてしまう。
こうなった場合は嘘を吐いて乗り切る方針で固まっている。
「僕も死んじゃったからだよ」
「……!」
恐らく蒼の中では司=ラスボス役の方に傾いていたのだろう。彼女は明らかに動揺していた。こうして会えたのは嬉しいが、大好きな兄が自分と同じく死んでしまったというのはさすがに喜べないからだ。
「蒼は別の国で目覚めたんだろうけど、僕の場合その始まりの地がここだったんだよ。虚構とは言え、今日までお世話になったからどうしても見捨てるなんてできなくてね」
この優しい所はやはり自分が知っている兄だと思った蒼は、少し懐かしむような気持になった。そんな時、司はその気持ちが吹き飛ぶ程の衝撃的な嘘を口にする。
「それとね。実は蒼を殺した犯人らしき人物もこの都に居るんだ。しかもだ。どうやらその犯人……協会の人間で、この物語におけるラスボスらしい。だから尚更こんな場所に蒼を留まらせる訳にはいかないんだよ」
「……ッ!」
蓮がパノンに侵入した今となっては完全なる嘘とも言えないが、そんな事を知らない司からすれば自然な会話の流れを作り出す為の嘘を言った状態だ。
「僕が死ぬ前にニュースで知った奴と特徴が似ていて、もしかしてと思ってさ。今日まで監視していたんだ。ただ僕の情報源はニュースの報道だけで、真実は違うかも知れない。その人は冤罪で、無関係のラスボス役を僕は警戒している可能性だってあるからね」
「……」
「こうしてせっかく会えたんだ。思い出すのは辛いだろうけど、もし良ければ聞かせて欲しい。蒼を殺した犯人の特徴を。それでこの件は終わりだ」
自分を殺した人間がこの世界に居るかも知れない。司の言う通りその人物が犯人でない可能性もあるが、恐怖心を煽るには十分だろう。
やがて彼女は当時の事を思い出したのか、俯き加減で一人の少女の名を口にした。
「暦ちゃん……」
「「……!?」」
あまりにも予想外過ぎる人物の名前を耳にした事で、思わず司とユエルは固まる。彼女が言う『暦』とは自分たちが知っているあの暦なのだろうかと。
「お兄ちゃん……私、死ぬ前に新しい友達できたって話したでしょ? その時に話していたお友達……暦ちゃんって言うんだけど……その子に殺されかけたの。私……気絶しちゃって、次に目が覚めた時には暦ちゃん以外にも男の人が一人居た。その人は私が目を覚ましていた事に気付くと、私にとどめを……」
「こ、暦ちゃん!? な、何で……」
さすがにこの状況下で演技を続けられる人間は居ない。ユエルは動揺して自分の役を忘れ素の反応を見せてしまう。
だが今の蒼にそんな事を気にする余裕など無く、どうしてと繰り返している。




