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第78話

 司は一刻も早く犯人の名前を聞きたい気持ちを抑え、ストーリーを進める。


「鯨夢の都。何千年も前に築き上げられたここは、当時都とは名ばかりの海上移動要塞かつ軍艦として戦争で使用されていた。この都を背に乗せて移動している鯨は国一つくらい簡単に焼き尽くせたそうだから随分と活躍したみたいだよ」


「……」


 一応は世界を巡る旅の目的としていた鯨夢の都に関する新情報が雪崩れ込んできたせいか、蒼は口を閉ざして黙ってしまった。


「でもこの鯨がいくらファンタジックな存在でも生き物である点は変わらないから、月日が経つにつれて衰えてね……今ではただの船みたいなものだよ。だけどその事実を世界の人々は知らないんだ」


 当然ながらこの世界においてそんな過去は無い。ついこの間できたばかりの四〇日しか歴史が無い赤ちゃん世界だ。


 蒼は司が協会の人間としてここに居るのか、同じ転生者としてここに居るのか判断が付かず、見極める目的も兼ねて、一言一句聞き逃すまいと真剣に聞いている。


 これまで得た情報を蒼は頭の中で整理した。鯨夢の都が当時兵器として猛威を振るっていた事実は知っていたが、今は無害である事は確かに今初めて聞いた事だ。ここに来るまでに様々な人から話を聞いたりしたが、そんな発言をした者は一人も居なかった。


「この事実は鯨夢の都に住む人しか把握していません。ではもしもこの情報が世界中に広まったらどうなると思いますか?」


 ここでユエルが質問をする。彼女にとっては初めての蒼との絡みとなった。


 今蒼は司にばかり意識が割かれている。だがこの負けイベにおいて蒼と戦うのはユエルとなる為、今の内に少しでもユエルの存在感を出す目的で話しかけたのだ。


「どうなるって言われても……」


「この都は世界中から狙われる事になります。当時生きた殺戮兵器として数多の国を滅ぼし、数え切れない程の人間を虐殺したこの都は、まさに世界共通の敵ですからね」


「……」


 否定できず納得してしまった蒼は、自分が今とんでもない地に立っていると実感したようだ。この場所はいつ狙われて戦火で焼き滅んでもおかしくはないのだから。


「確かに当時の被害者と加害者は全員もう過去の人で現在の人たちには一切関係ありません。でも歴史を知る人たちからすればこの都は畏怖の対象として映ります。いくら今兵器としての力が失われているとしても危険を排除したいと思うのは普通でしょう」


 一度恐怖心が芽生えたら簡単には消えない。もしも当時の兵器としての力を通り戻したらと考える人は必ず居る。


 ちなみにこのストーリーにおいて何故司がラスボスとなるのかだが、結局最終的には世界中の民に鯨夢の都の秘密がバレてしまい、司やユエルが言ったようにこの場所は全世界から排除の対象として戦場の舞台となる。


 そしてその頃には蒼の中で『司も自分と同じく転生者であり、ラスボス役は他に居る』という認識になっている手はずだ。つまり真実とは真逆の認識を植え付ける流れとなる。


 そんな状況下でもしも『お兄さんを助けに行きましょう』と仲間から言われたら、彼女は間違いなく首を縦に振るだろう。


 蒼は『司を救う』為に危険を顧みず再度この地へと赴き、彼の元へと向かう。だがそこに待っていたのは鯨夢の都を守る為に來冥者形態になり襲ってくる人々を片っ端から殺している暴走した兄の姿だった。


 その時蒼はこの物語のラスボス役は司だったのだと自分の認識を改めると同時に、彼を止める為、そして助ける為に最後の戦いに身を投げるのだ。

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