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第76話

 ユエルと演技の練習をしながらもパノンでは約四〇日が経過していた。本来であればアルカナ・ヘヴンでは二日は経過しているはずだが、暦が経過速度差を五〇倍に設定し直したせいでまだ一日も経過していない。


 時間的には異世界運用開始日の翌日早朝くらいだ。


 現実世界で起きた事など露知らず二人は呑気にもこの世界を堪能していた。


 とは言っても物語の進行上そろそろ山場の一つを迎える頃合いであり、司とユエルは再度気を引き締め直している。


 鯨夢の都はラスダンとはなるが実は一度このステージは『負けイベ』――シナリオの展開的に主人公が敵に強制敗北を強いられるイベントとして使用される。


 異世界においては主人公よりもラスボス役の方が圧倒的に強く、もしも演技をせずに本気を出せばラスボス役が主人公に負ける事は絶対に有り得ない。


 その理由として死んだ転生者は生前が來冥者だろうと非來冥者だろうと全員がある一定値の來冥力にまで低下するのだが、その数値が著しく低い事が挙げられる。死は全員に平等に訪れるが、死んだ後も扱いは平等であるという事だ。


 生前がどれだけ強かろうと関係無い。死んでしまえば皆が弱い來冥力しか扱えない状態にまでレベルが落ちてしまう。当然そんな主人公を相手にするのだからラスボス役が負ける事態など、どう考えても起こり得ない。


 つまり負けイベの発生くらい何も難しい事では無いのだ。主人公に勝たせてあげるか、主人公を倒すか。違うのはどちらの展開に持っていくか、その演技力と來冥力の繊細なコントロールだけだ。


 話を戻すと一度蒼はこの地を訪れるがそこで兄である司と右腕であるユエルに出会う。


 当然蒼には動揺が広がり、そんな中司はこの都の最奥部に聳え立っている城に向かおうとする。司を追いかけようとする蒼だが、彼女の前にユエルが立ちはだかる。


 司に会う為にユエルと一戦交える事になるが結果は敗北となり、名も知らぬ土地へと流されてしまう。何故司もこの世界に居るのか蒼は気になる事だろう。協会の人間として居るのか、もしくは彼も死んでこの世界に転生してしまったのか。


 二人の関係性を上手く利用する事で蒼に『本当の旅の目的』を与えるのだ。彼女は真実を知る為に、この敗北をキッカケに『本当の旅』を仲間たちと共に始める。


 最終的に再び鯨夢の都へと戻って来た蒼たちはユエル、そしてラスボスである司を撃破して終わりという流れだ。


 ちなみに蒼から殺人犯の名前を聞くのはそろそろ始まるであろう負けイベ時に自然な流れで聞く段取りとなっていた。


「今蒼ちゃんの仲間から連絡がありました。あと十分くらいで到着するそうです」


「いよいよですね。さすがに緊張してきました。演技はあらゆる会話と展開パターンを今日まで先輩と練習したので自信はあるんですけど、やっと蒼に会えるのかと思うと……」


「三年ぶりでしたっけ? 私も緊張してきました……司くんの妹に会えるのが」


 確かに緊張もするがそれ以上にようやく蒼に会いたいという願いが叶えられるのかと思うと、楽しみという感情も大きい気がする。


 演技の練習をしている時は時間があっという間に過ぎていったのに、蒼が到着するまでの僅か十分は無限に思える程に長く感じた。


 司は辺りをウロウロしたり準備体操をしたり、実際に会った時を想定してブツブツと最終確認をしたりと落ち着きが見られない。そんな彼の様子がどこか微笑ましくてユエルはニコニコしながら見守っていた。


 だがどれだけ時間が経つのが長いと思っていたとしてもその時はいつかは訪れる。


「司くん、そろそろ定位置に着きましょう」


「はい、分かりました」


 司とユエルは蒼が歩いて来るであろう方向に対して背を向ける形で立つ。


 今は目標としていた鯨夢の都にやって来た蒼と仲間たちが、調査を兼ねてそれぞれが気になる所を見て回って後で合流という状況になっている想定だ。


 当然蒼も一旦は仲間と離れて探索をしている訳だが、その途中で見慣れた後ろ姿に遭遇し、その正体が兄の司であると気付く寸法である。

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