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第74話

「これで邪魔者は消えたな。ここに来る途中に奪って来た甲斐があった。お前からこういう手鏡があるって情報を聞いていて良かったよ」


 ニヤリと笑った蓮は手鏡をポケットに再度入れる。


 破片集めゲームの際は手鏡を持っているマキナもモデルNに行っていた為、簡単に協会に戻って来れたがその所持者は今ここに居る。つまりカムリィは転移室を見つけ出さなければ元居た世界には戻れない。


 カムリィの実力があれば戻れないといった事態には発展しないだろうが、時間稼ぎには十分過ぎるくらいになる。


「ありがとう、来てくれて」


「当たり前だろ。その為にこの近くに身を潜めていたんだからな。それよりもこれからどうする? あのカムリィとかいう奴、多分結構な実力者だろ? 稼げる時間は長くて数日ってところだぞ」


 蓮がカムリィを転移させた先には、來冥者の戦闘訓練用として利用されている怪物が数多存在する危険度最高レベルの区域だ。本来であれば監督者及び複数名の來冥者が小隊を組んで挑む程である。


 そんな場所に一人で送られたのであればいくらカムリィが実力者であっても苦戦はするはず。蓮はそう考えていた。


「ごめん……まさかこうなるとは思ってなかったから、この後の事は考えてなかった……」


 暦は蓮に言いにくそうにしながらも何とかそれを伝えた。


「別に謝らなくて良い。仕方ないからな。しかし、そうだな……よし、決めた。パノンと言ったか……今からそこに行って司、ユエル、蒼の三人を殺そう。演技の戦闘しかしていないただのラスボス役二人と主人公一人……余裕で殺せるさ。そしてそれが終わったらモデルNに俺も行って疲弊しきったカムリィも殺す。カムリィは少し手こずりそうだが、まぁさすがのあいつも疲れた状態では俺に勝てないだろ」


「え?」


 それはあまりにも予想外過ぎる考えだった。


 もう蓮も暦も後は協会から逃げてこれから一生逃亡生活をするのだろうと思っていたせいか、彼が何を思ってその考えを口にしたのか分からなかった。


「今名前を挙げた奴らを全員消せば少なくとも『天賀谷蒼殺害事件』に関しては、お前が関わっていると知っている、もしくは知る予定の奴は現時点ではこの世には居ないって事になる。それにだ。前に暦から聞いた話だと、確かアルカナ・ヘヴン以外で死んだ人はその後に異世界転生はできないんだったよな? つまり、今回司がやろうとしている、『死んでしまった被害者との交流』も物理的に不可能って事になる。良い事しかないな、うん」


「ちょ、ちょっと待ってよ! でも蓮は……!」


 蓮が言っている事の理屈は確かに通っている。


 カムリィは牢政にまだ天賀谷蒼殺しの犯人については何も報告していない。つまり償わなければいけない罪が暦にある事を知っている人、これから知るであろう人はその四人しか居ないのだ。


 彼らの口さえ封じてしまえば牢政に追われる身になるのは実の兄を殺した容疑として指名手配中の蓮だけになる。


 仮に捕まってしまったらその時に全ての罪を認め、暦の事を庇えば良い。彼はそんな風に考えていた。


「俺はな。お前さえ守れたらそれで良いんだ。頼む……俺のわがまま聞いてくれ」


「……」


 これ以上自分の好きな人が罪を重ねるのは正直耐えられない。だが彼とずっと一緒に過ごしてきたからこそ暦には分かる。


 蓮の行動の動力源は常に暦であり、こうなってしまってはどんな言葉も彼には届かない。

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