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第71話

 しばらくすると人気が無い所で暦がノアを使用して誰かに電話している様子が視界に入った。


 暦はプライベート用のヘッドセットを装着しており、当然カムリィには電話相手の声は届かない。


「 (誰かと通話してるみたいだな) 」


 電話に集中している、かつヘッドセットをしているせいでカムリィには全然気づいていない様子だが念には念を入れて彼は隠れてこっそりと聞く事にした。


 一応ノアを展開して暦の言葉を録音しながら聞く体勢に入る。


「そうそう。だから天賀谷司の目的は、蒼から犯人の名前を聞く事だったんだって。とどめを刺したのはあなたとは言え、元々殺そうとしたのは私なんだよ? もしもその事がバレたら私は……ねぇ蓮、お願い! どうにかしてよ!」


「 (……! なるほどな、そういう事かよ) 」


 カムリィは一人で納得してゆっくりと彼女の元へと歩み寄る。暦は自分にとっての死神が背後に迫って来ているなど思いもせず、電話の相手と会話を続けているがすぐに全身が凍り付く事になる。ポンポンと暦は後ろから肩を優しく叩かれた事によってカムリィの存在に気付いたからだ。


「……っ!」


 ホラーものの驚きポイントとは比べ物にならないレベルの衝撃が暦に広がる。本当に驚いた時、人は声が出ないのかも知れない。


 カムリィはその大きな手で暦のヘッドセットを外した後にニヤリと笑う。何もかも見透かされているような気がして大変心臓によろしくない。


「彼氏とのお電話中か? ユエルに聞いたぞ。その男のおかげで協会に入れたってな」


「か、カムリィ……さん。えっと、その……まぁ、そんなところ……です」


 前髪で目元が隠れているせいでよく見えないが、恐らく今彼女の目は泳ぎまくっているはずだ。頭が真っ白になりどう対応したら良いか半ばパニック状態になっている。


 もしも可能なら今の暦の心臓の鼓動の早さをぜひとも聞いてみたい。彼女の人生史上最速を記録している事だろう。


 だが時間の経過と言うのは便利なもので、まだドキドキしてはいるが徐々に冷静さを取り戻しつつある暦はこの場をどう誤魔化すかに全神経を集中させる。


 そんな暦の考えを知ってか知らずか、カムリィは先程得た情報から分かった事を口にした。そしてそれは彼が全てを把握し、誤魔化すのは無理だと悟るには十分な内容だった。


「電話の相手は空久良蓮。実の兄を殺した指名手配中の男だろ? まさかお前と繋がっていたなんてな。大方お前の家にでも匿っているんだろうよ。……昔お前は天賀谷蒼を殺そうとしたが致命傷には至らず、その後に蓮が殺害した。ただお前も殺そうとした訳だし、蒼の口からは二人の人間の特徴が上げられる可能性が高く、さぁ困ったって状況だ」


 他人事のように淡々と語るカムリィは暦の反応を見て自分の言った事が間違いでは無いと確信した。


「……」


 無言を貫く暦。彼女の視線の先にあったのはカムリィに取り上げられたヘッドセットだ。まだ通話は切っていない為、蓮にはこの会話内容が筒抜けである。


 何を言っても無駄でどうせ捕まるならと、暦は開き直りにも似た心境で大声を出す。


「早く! 助けて、蓮!」


「……。ありがとな、暦」


「え?」


 そう言ってカムリィはヘッドセットを手放し床に落とす。そして豪快にそれを踏みつけ破壊した。


「……!」


 強制的に蓮との通話が切られ、暦が今緊急事態である事が嫌でも通話先の蓮に伝わったはずだ。

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