第66話
ユエルは琴葉に推薦されて自分の気持ちとは無関係に無理やり司の教育担当になった訳だが、任された以上はきっちりと面倒を見なければいけないと使命感に駆られていた。
その結果司の考えや気持ちをよく気にするようになったのだ。
「そんなに気張らなくても大丈夫ですよ。本当に先輩には感謝しているんですから」
「そ、そう、ですか? な、なら良かったです」
ホッとしたユエルは彼を見て改めて思う。恐らく自分が司に一番してあげられる事は、ラスボスの右腕役としてパノンの運用を成功させる事。これ以外は有り得ない。
「……先輩」
「は、はい!」
「改めて僕のサポートお願いしますね」
「……! も、もちろんです! 私はこう見えて、結構慣れてますからね。どんな状況下でもそれに見合った完璧なアドリブでサポートしてあげますよ!」
司は微笑みながらこくりと頷く。この時彼はユエルに事情を説明して本当に良かったと思った。
ラスボス役としての実力が非常に高く、それでいて今回の異世界運用や司の本当の目的を知っているともなれば、ユエル以上に心強い味方は存在しないだろう。
普段は気弱な彼女だがラスボス役として一旦スイッチが入ると、二重人格者なのかと疑うレベルで別人になる。この協会内にはそういったラスボス役が多く居るが、ユエルはその中でも段違いだ。
マキナとの破片集めゲームでユエルの來冥者形態や戦闘スタイルはある程度把握しているとは言え、実際に異世界を運用している最中の彼女は見た事が無い。
一体どんな風になるのか司は少し楽しみにしていた。
「それじゃあ今日はそろそろ帰りましょうか。あまり遅くまで残ってるとカムリィさんに怒られそうです」
もう司は大丈夫そうだと判断したユエルは気持ちを切り替えてそんな提案をする。
「確かに。あの人怒ると人一倍恐そうですからね」
以前からカムリィと知り合いである点はまだ隠している為、司は予想と受け取れるような表現で返答したのだった。
それから時間はいたずらに過ぎていく。
蒼の転生先異世界『パノン』の運用準備は順調に進んでいくのに対し、蓮の捜査は真逆で全然と言って良い程に進展が見られなかった。
探偵署で依頼を受けたマキナや、立てこもり事件の日に空久良と会った司とユエルが牢政の人から事情聴取を受けたりしたがこれといった情報は得られず難航していた。
蓮は指名手配犯とはなっているが一般人からの情報提供も一切無く、現在はモデルNに焦点を当てて探索している状態だ。
果たして彼は今どこに居るのか。全くもって謎である。アルカナ・ヘヴンだけでなく異世界にまで捜査の目を向けなければならない所が厄介だ。
そして迎えた蒼の異世界運用当日。
司やユエルを含めた今回の一件に関わっている計十二名が、『異世界転移部屋-E-』の中に居た。転生協会が造り上げた異世界に転移する用の部屋となっており、部屋にはAから順にアルファベットが割り振られている。パノンは今回E部屋からの転移となるようだ。
協会内にあるこの部屋以外からの転移方法は存在せず、まさにトップシークレットだろう。当然関係者以外は立ち入り禁止だ。
部屋の中央には博物館や科学館に展示されていそうな地球儀サイズの白い球体状の靄が浮かんでいた。この靄に触れる事でパノンに転移可能となる。




