第65話
翌日。協会では二回目の異世界創生会議が行われ、蒼が体験するストーリー内容、登場する敵や仲間、登場タイミングが無事に決定した。
蓮が空久良を殺害した事を報道で知ったユエルは、司が会議に身が入らないのではと心配していたが、そんな事は無く誰よりも真摯に取り組んでいた。
だがユエルには彼が意識して気にしないようにしているように見えた。つまり無理しているのではないかと思ったのだ。
「あの、司くん」
さすがに心配になったユエルは会議終了後に司に話し掛けた。
「どうしました?」
こうして話すとまるで何事も無かったかのようだ。完全に切り替える事に成功しているのか、それとも後は蓮を捕まえるだけとなり牢政を信じて彼らに託したからなのか。
「あ、い、いえ。ただ、その……む、無理してないかなぁって思いまして」
「もしかして今日無理してる感出ちゃってました? だとしたら分かりやすかったかな」
ユエルから目を逸らしながら愛想笑いをする司は気まずそうだ。必死に取り繕っていたつもりが彼女にはバレていたのだから仕方無いが。
「や、やっぱり……」
「昨日の夜から少し落ち着かないんです。空久良の弟が犯人だって知って、何で実の兄を殺したのか知りたいし、それにやっぱり……憎いですよ」
「……」
こんな時どう返答してあげるのが最適解なのかユエルには分からなかった。そして大事な場面で言葉を投げる事が出来ない自分に腹が立つ。
「でもこの感情を理由にパノンの準備や創生会議に影響が出たら、みんなに迷惑が掛かるし蒼にも顔向けができないじゃないですか。だから今は無理やりにでも頭から追い出さないといけないんです。まぁ先輩にはバレバレみたいでしたけど」
「……。司くん。信じましょう、牢政の方々を。きっと、きっと捕まえてくれますよ」
「はい。このアルカナ・ヘヴン最強の防衛機関ですからね。彼らがどれだけ信用に長けた組織か、僕はよく知っています。僕が今日無理していたとは言え、それでも集中できたのは彼らだったらきっと……そんな思いがあったからです」
さすが元牢政所属の人間が抱く彼らへの信頼はレベルが違う。どれだけ時間が掛かったとしても最後まで諦めずに追いかけ、蓮を逮捕してくれると信じているのだ。
今回の蒼の件だってそうだ。まだ諦めていないからこそ司の辞任と蒼殺害事件の解決法として異世界運用を利用する事を認めてくれたのだろう。
司一人だけの力で転生協会を説得できたとは到底思えない。恐らく牢政本部からも協会を納得させる為の助力があったに違いない。
牢政にとって貴重な人材を失うよりも、司の気持ちを大切にする方が大事だと判断したという事だ。
「まさに自慢の仲間って感じなんですね」
「はい!」
作られていない心からの笑顔を司は見せた。その笑顔を見たユエルはどこか安心してつられて微笑む。彼のこの笑顔を見ると何故か心が和らぐ。
「でも、ありがとうございます。先輩」
「え?」
「僕の事気にかけてくれて」
「い、いえいえ! だ、だって私、ほら、司くんの教育係ですし。たまには何か先輩っぽい所見せないと……!」
少し照れた様子で早口で言葉を並べるユエル。
実際その気持ちに嘘は無かった。ユエルは自己肯定感が低く、常日頃から司の教育係として上手くやれているだろうかと不安に思っていた。




