第61話
「お前ら二人はパノンを動かす上で最重要の二人だ。今はそれだけに集中しろ。精神的にも肉体的にも疲れて明日からの会議に支障が出たらどうする」
「で、でも……!」
ここで素直に引き下がれたら最初から手伝うなんて言ってはいない。ユエルは相手がカムリィであろうと食い下がる。
「でもじゃねぇ。パノン運用における総責任者は俺だ。黙って俺の言う事を聞け。お前ら二人が加わって事件解決に繋がる可能性が飛躍的に上昇するなら、確かに話は別だ。だがやる事っつっても、記録をただ確認するだけ……お前ら二人じゃなきゃいけない理由はどこにも無いだろ? 正直なところ無理してやる事とは思えねぇな」
会議の時の怠そうにしている雰囲気は一切無い。口調、声色、全てにおいて本気である事が伝わってくる。
「……司くん……」
どう反論してもカムリィは意見を変えたりはしない。そう悟ったユエルは司の気持ちに従おうとした。果たして彼はどういう選択をするのか。
「マキナ。君の所属している探偵署は優秀なんでしょ?」
「え? うん! もちろんだよ! それにこれからはこの私が参加するんだからね! 一瞬で手掛かり掴んであげるよ!」
「……そっか。なら、君たちに任せるよ」
マキナの目を見た司は彼女たちを信じる事にした。
どのみち蒼の異世界生活に向けた準備と空久良殺害の調査を同時並行で進めるなど無理があるのだ。どちらかを捨ててどちらかを誰かに任せる必要はどうしても発生する。
ならばどう考えても蒼の異世界運用の方が司にしかできない事となる。天秤にかけるまでもない。
「うん! 私たちに任せなさい! ほら、琴葉ちゃん! 行くよ!」
「おい! 引っ張るなって!」
司やユエルの期待に応えたいと思ったのか、マキナはやる気に満ちた様子で琴葉の手首を掴んで小走りで会議室から出て行った。
「スッキリはしねぇだろうけど、後はあいつらに任せて二人はゆっくり休んどけ。それとユエル」
「は、はい!」
先程に比べたらカムリィは穏やかにはなったが、圧とも言える迫力を目の当たりにしたユエルは少し怯えた様子で反応する。
「話がガラッと変わって悪いが訊きたい事がある。今日の会議の初っ端で俺に質問してきた女の子が居ただろ? 前髪で目元隠れた奴……あー……暦? だったか?」
「あ、はい。暦ちゃんで合ってます。私のお友達です」
恐らく暦とカムリィは今日初めて一緒に仕事をしたのだろう。まだ自信を持って彼女の顔と名前が一致してはいないようだ。
カムリィは自分の記憶が間違っていなかった事を知ると、ユエルからしたら意図が不明な質問を口にした。
「暦って奴について知っている事を教えてもらっても良いか? 例えば転生協会に来た時期とか、交友関係とか、その辺だ」
「……?」
何故突然カムリィがそんな質問をするか分からず、司は疑問顔になる。そしてそれは当然ユエルも同じではあったが、質問に質問で返す訳にもいかず、取り敢えず機械的に彼の質問に答える事にした。
「えっと……確か協会に来たのは三年前だった気がしますね。交友関係に関する答えにも繋がるんですけど、暦ちゃん実は彼氏居るみたいで、その人のおかげで協会に入れたって言ってましたね」
「ふーん。なるほどな」
「カムリィさん……何でそんな……ハッ……! ま、まさか暦ちゃんの事を狙ってるんですか!? だ、ダメですよ! さっきも言いましたけど暦ちゃん、彼氏居るんですから!」
「取り敢えず盛大な勘違いしてるぞって事だけ言っとくぜ。ま、教えてくれてありがとな。俺はこれで失礼させてもらう。ちょっと調べたい事もできちまったからな。お前らも真っ直ぐ帰れよ」
それを最後にカムリィは会議室から出て行った。
「は、はい……」
ユエルの声はカムリィに届く事無く会議室内に響き渡るだけで終わってしまった。




