第59話
「琴葉ちゃんにマキナちゃんも。どうしたんですか? そんなに慌てて」
マキナと一緒に三人の側に近付く琴葉に、ユエルは神妙な面持ちで質問をする。やがて彼女たちの近くで止まった琴葉は質問に答えるべく口を開いた。
「たった今探偵署に連絡があったらしくてな。それで、その……」
琴葉はチラリと暦を見る。言いたい事はあるが暦が近くに居るせいで言い渋っている。そんな感じだ。
自分の事を気にしていると気付いたのか、気を利かせて暦は身を引いた。
「もしかして私、お邪魔かな? 多分この四人で話したい内容なんだよね。ユエルちゃんに司くん、私先に帰ってるから。えと……誰かは知らないけど、二人とも今日は一日中会議で疲れてるから、あまり拘束しないであげてね」
「ああ、分かってる。すまないな。君は多分ユエルや司くんの友達だろう? いつか改めて自己紹介させて欲しいとは思ってる」
「うん。それじゃあね、ユエルちゃん、司くん」
「あ、はい! ばいばい、暦ちゃん」
「今日はありがとう。また次の会議で」
頷きで二人に返答した暦はそのまま会議室から出て行った。ドアが閉じられ、中には司たち四人しか居ない状況になる。
数秒の沈黙が流れた後に琴葉が申し訳無さそうな顔になって再び話し始めた。
「彼女には少し悪い事しちゃったな。追い出すような真似をしてしまって。だが内容が内容なだけに、この四人だけで話しておきたくてさ。……それで本題なんだが落ち着いて聞いてくれ」
「は、はい」
今までに見た事が無いレベルの真剣さだ。この様子はただ事では無いと思ったユエルは緊張感を持って琴葉の次の言葉を待つ。そしてそれは司も同じだった。
「探偵署に連絡して来たのは牢政。とある事件の調査に協力して欲しいらしい」
「牢政から直々に調査協力を申し込まれるという事は、來冥者絡みかつ緊急性の高い事件という事ですね。協会内には牢政にも引けを取らない程の來冥者が居ると聞きますし」
司の確認に琴葉は無言で頷く。
元牢政だけあってその辺は詳しいらしく、司の顔つきが変わった。まるでこれからもう一仕事できそうな感じだ。
「その通りだ。肝心の牢政からの依頼内容なんだが、それは――空久良陸殺害の真相解明に対する協力だ」
「「……ッ!」」
二人に共通した第一感想は聞き間違いなのではないか、であった。
「今……何て……え……嘘ですよね?」
「私もそう思いたいさ」
琴葉は今にも泣きそうなユエルを前に辛そうな顔になった。その表情だけで彼女は嘘など吐いていないと伝わってくる。それに彼女がそんな不謹慎で誰も得しない笑えない嘘を吐く人間ではない事は、分かりきっている事だ。琴葉が言った情報は紛れも無い真実なのだとユエルと司は確信する。
空久良が殺害された。その事実が重しのように圧し掛かり、放心状態が続く。
「死体発見現場は異世界『モデルN』内の森の中。そこで何者かに殺害されたらしい。頭部が食い千切られ、首から上が無かったと聞いた」
「酷い……」
あまりにも凄惨な状況にユエルは両手で口を押さえる。
司はと言えば無言状態を貫く。だが右手では爪が食い込む程に強く握り拳が作られており、必死に感情を押し殺している事が窺える。




