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第57話

 今の説明を聞いて今回の異世界運用の真の目的が『天賀谷蒼殺害の犯人の名前を被害者本人から聞き出す為』とは誰も思わないだろう。


 その証拠にこの場に居る大多数が納得し、うんうんと頷いたりしている。


 カムリィは歴こそ全総責任者の中で最も短いが、実力を高く評価されスピード出世した超人だ。この程度の嘘理由、恐らくパッと思い付いだのだろう。


 今回のようなイレギュラーな場合における総責任者としてカムリィは適任かも知れない。


 だがこの場に居る大多数が納得という事はつまり、そうじゃない人も当然居る。


「あのー、ちょっと良いですか?」


 暗い感じでボソッと声を出した暦は小さく右手を挙げる。


「お。何だ?」


 カムリィは全員が一発で納得するとは思っていなかったようで、特に動揺する事無く泰然として構える。


「今回の運用目的は納得しました。協会内では確かにラスボスが主人公の家族や友達ってパターンだけはできなかったし、良い試みだと思いますー。ただ、そんな実験段階の特殊な異世界運用のラスボス役を何故新人の彼にしたんですか?」


 暦はここで司をチラッと見る。


 確かに基盤がしっかりしているベテランがやるのであればまだ良いが、経験ゼロの司に任せるのは少々不自然だ。まずは通常の異世界運用をやらせて、その経験を積ませる方が自然だろう。


「 (暦ちゃん、いい質問するなぁ。面接官には居て欲しくないタイプ) 」


 なかなかに鋭い疑問を持つ暦にユエルはシンプルに感心した。


 最早カムリィがどこまで質問を予想してその回答を用意しているのか、そして予想外の質問の場合はどんな風に返すのかがユエルは気になってどこか楽しんでいた。


「あーそれか? 単純に直近で行う異世界運用において、主人公とラスボスが親密な関係にあるのが今回のパノンしか無いからだよ。協会の今後に関わる事だからなるべく早く結果がどうなるのか判断したくて、司を選抜したっつー流れだな。協会の実験の為にベテランラスボス役の家族を試しに殺してみる訳にもいかねぇだろ? 有り難い事にウチはそんな狂気染みたサイコの集団じゃねぇからな。それにだ。今回はユエルも居る。司一人なら確かに不安だが、彼女が居るなら安心って訳だ」


 この回答だけでも十分それっぽいがこれまでの話に真実味をより持たせる為に、司がカムリィの話に乗って暦に対して説明をした。


「ちなみにだけど初の試みだからか、事前にそれでも大丈夫かって聞かれはしたよ。まぁ良い経験にもなるし断れる立場でも無いしね。もちろん同意はしたよ」


「 (お。司の奴、乗ってきたな。まぁ協会は司のわがままに付き合ってる感じだしな。それくらいはしてもらわねぇと) 」


 カムリィは司の対応に内心満足する。


 そして彼ら二人の話で納得したのか暦は一回頷いてから相変わらず小さな声でぼそぼそと話し始めた。


「なるほど、分かりました。それなら納得です。司くんは初めてって事もあって大変だと思うけど頑張ってねー。相手が妹さんでも私情を挟んだらダメだよ? あくまでも主人公さんに最高の異世界生活を届ける事が目的だからね」


「うん、ありがと。その辺は分かってるから大丈夫だよ」


 感情がこもっているのかいないのか分からない暦だが、言っている事は至極真っ当だ。役割が違っても目的や気持ちは全員が共通しているのだと司は改めて実感した。


 寧ろこの中で一番の目的違いは司になってしまった。


「うし! じゃあみんな納得したところで話を進めるぞ。まず今回の異世界『パノン』の世界観だが……」


 その後は特に例外的な事は起こらず、一言で表現するならばいつも通りの会議として進行していった。

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