第56話
「 (もう、いくらなんでも私と全く同じ理由にするのは雑過ぎません?) 」
「 (すみません。先輩の理由が素敵で印象に残っていたもので) 」
「 (え? そ、それならまぁ……って、そんな事言ってもダメですからね!) 」
ナチュラルにテレパシーで会話をするユエルと司。
二人が脳内会話をしていると急にドアが開き、長身男性が中に入って来た。協会上層部の人間であり異世界運用の総責任者の一人でもある、カムリィだ。
彼の役職となる総責任者とは、各異世界運用時の全責任を負う人を指す。異世界を運用する上での主役はラスボス役となるが、総責任者は運用を成功させる為の指揮を執るポジションにあたる。
「うぃーっす。待たせて悪いな。んじゃあ早速会議始めっかぁ。あー、各自ノアで今回の異世界について確認してくれ。それに沿って進めていく」
怠そうな様子で進行していくカムリィ。何なら欠伸までしている。
初めての人ならば拍子抜けしてしまいそうだが、司はカムリィの事をよく知っているし他の人もこれまで最低数回はカムリィと一緒に異世界運用を経験しており、慣れているといった感じだ。
誰もがカムリィの態度に違和感を覚える事無くノアを起動する。
当然ながら協会内のビジネス用ノアであり、プライベートのものではない。司が先程まで確認していたのは私物ではあったが。
「みんな異世界のデータは確認してるな? じゃあまず基本中の基本からいくぞ。今回の異世界の名前は『パノン』、ラスボス役は新人の『天賀谷司』、サポートで司の教育係である『皇真ユエル』が右腕役に、んで肝心の主人公が『天賀谷蒼』……まぁ名字が司と同じっつー事はそういう事だ」
サラッと言ったカムリィだが当然ながら彼のその発言に会議室内がざわつき始めた。
ノア内の資料には名前と配役しか記載されておらず、カムリィが来るまでは名字が一致しているとは言え『協会内での常識』が固定概念となって邪魔をし、まさか本当に家族だとは考えなかったのだ。
名字が同じだがただの偶然だろうと会議室内のメンバーは考えていたに違いない。
カムリィは協会上層部の人間であるし、ユエルは司の事情を知っている為この部分に驚きはしないが、それ以外の人にしてみれば協会内の常識を覆す運用に驚きを隠しきれていない。
だがこのままでは正常な会議の進行ができないと判断したのか、カムリィが声を上げる。
「静かにしてくれ。まぁ確かに協会内では主人公の顔馴染みがラスボス役になるのを禁じてはいる。当然、実際にそういう奴をラスボス役にした運用は、過去の事例にはねぇ。だがそれは言っちまえば食わず嫌い状態なんだ。実際にやってみて失敗したから禁止にしたって歴史では無いって事だな」
事情を知っている側からすれば今回の主人公とラスボス役の配置の仕方に動揺が走るのは簡単に予想ができる。予めカムリィは全員が納得できるそれっぽい理由を用意していたのだろう。
まるで対策済みの質問が飛んで来た時の就活生の如く、スラスラと説明を続ける。
「実験的な感じがして主人公の蒼さんには申し訳無いが、一回くらいはどうなるかやってみる価値はあるってこの間の会議で決まってな。ゲームやアニメ、漫画の世界でもあるだろ? ラスボスが主人公やヒロインの家族や友達でしたってパターン。主人公やヒロインと『そういう関係性』じゃなきゃ生み出せない魅力ある展開ってのは確かに存在する。試してみる理由としては十分過ぎねぇか? もし成功を収める事ができたら、協会が実施する異世界運用は選択の幅がかなり広がる事になる」
「 (多分カムリィさんは上層部の人だから司くんの目的は知ってるはず……。だとしたら相変わらず饒舌だなぁ。司くんの目的を知ってるから今のが嘘だってすぐ分かるけど、凄くそれっぽい……!) 」
決して声には出さないがユエルは心の中でそんな事を思った。




